【今週はこれを読め! ミステリー編】ろくでなし刑事たちが揃った『集結 P分署捜査班』開幕!

文=杉江松恋

  • 集結 (P分署捜査班) (創元推理文庫)
  • 『集結 (P分署捜査班) (創元推理文庫)』
    マウリツィオ・デ・ジョバンニ,直良 和美
    東京創元社
    1,100円(税込)
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 まるで辻真先脚本の第1話のような。
『集結 P分署捜査班』(創元推理文庫)を読んでいたら、唐突にそんな一文が頭に浮かんだのであった。

 おお、そうか、辻先生の書いた第1話みたいなのか。
 と思ってくれた方にはもう言いたいことの半分くらい伝わっているだろうけど、そうではない読者もいるはずなので辻真先成分についてはまた後で。

 本書はイタリア・ナポリ生まれの作家マウリツィオ・デ・ジョバンニが2013年に発表した警察小説シリーズの第1作にあたる長篇だ。P分署とは正確にはピッツォファルコーネ署である。吉野仁氏解説によれば、架空の署名だがナポリ市内にはピッツォファルコーネの丘と呼ばれる場所が実際にあるという。同署内で事件が起きたことから話が始まる。捜査班に属していた4人の刑事が、押収したコカインを横流しした咎で逮捕されたのである。前代未聞の醜聞であり、ピッツォファルコーネ署の存続が危ぶまれるほどに追い詰められた。しかも補充要員として集められたのは、いずれも前の職場にはいられなくなったはみ出し者ばかりだったのである。

 新たに〈ピッツォファルコーネ署のろくでなし刑事〉たちが一丸となって事件を解決する、というのが本書の骨子である。実はP署不要論がまだくすぶっていて、期限までに何か手柄を立てないと解体されてしまう、というタイムリミット設定があるのも定石通り。複数の事件が進行する警察捜査小説、いわゆるポリス・プロシーデュアルの形式を取っていて、中心に扱われるのは公証人の妻が所持していたスノードームで撲殺されるという事件で、美女がマンションの一室に監禁されているという通報が絡む。副筋はもう一つあって、引退間近の老副署長が、ホームレスや身寄りのない老人が自殺に見せかけた形で殺されているのではないかという疑惑を抱いて、一人でこつこつ調べているのである。ページの大半はスノードーム撲殺事件に割かれており、誰のものかわからない視点の断章が時折挿入される。これらも最後にきちんと回収される仕掛けだ。

 読みどころはやはり個性豊かな〈ろくでなし刑事〉たちであって、顔立ちと感情をあまり表に出さないところから東洋人ぽいと言われるジュゼッペ・ロヤコーノ警部が主役である。彼は切れ者なのだが、マフィアと内通しているという噂を立てられて前の職場にいられなくなった。彼と組んで動くことになるのがマルコ・アラゴーナ一等巡査で、何に影響されたかタフガイを気取った言動と、車をやたらと飛ばすのが迷惑な若者だがロヤコーノに注意されると耳を傾ける素直な一面もある。彼の場合は強いコネがあって警察に入ったという事情があって、持て余されたというのが真相のようである。

 新しく着任した刑事はあと2人いる。フランチェスコ・ロマーノ巡査長は頭に血が上ると暴力を押さえられない性分で、〈ハルク〉のあだ名をつけられている。アレッサンドラ・ディ・ナルド巡査長捕は三度の発砲事件を起こしてしまった過去があり、拳銃に対して危険な愛着を持っている。二人を足すと懐かしののコメディ映画『ポリス・アカデミー』の愛すべき女性刑事、マリオン・ラムジーが演じたフックスといったところか。顔を当てはめるとすればロマーノは『大都会PARTII』時代の苅谷俊介あたりで。

 こうした多彩な登場人物を物語の前半で手際よく紹介し、後半では事件の話題に集中して解決までを一気に読ませる。構成のわかりやすさが本書の美点でもある。連続ものの第一話としては理想的、ということで先ほどは辻真先の名前を思い出したのであった。辻真先といえば先日、自身が敗戦後に体験したことを元にした『たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説』(東京創元社)を上梓したばかりである。いかに大人が欺瞞に満ちているかを描いた素晴らしい作品なのだが、冒頭で名前を挙げたのはアニメ脚本家としての評価、「めんどうな第1話を書かせたら辻真先」を思い出したためだ。きちんと原作通りに始めたら絶対に20数分では終わらないのを省略技法でまとめあげた『ジャングル大帝』、レギュラーメンバーが「集結」するさまを描いた『超電磁ロボ コン・バトラーV』など、まさに第1話の名手と呼ぶにふさわしい。あ、まるで辻さんが書いたみたいな第1作だな、と本書を読みながら思ったのであった。このあとどうなるのか楽しみ。

 そういえば、主人公であるロヤコーノ警部についてあまり詳しく紹介していなかった。作中でも、あの『クロコダイル事件』を解決したというような書き方をされている箇所が多くて、ご存じの人物として顔を出している節がある。これはシリーズの前日譚であるIl metodo del coccodrilloという2012年発表の長篇で彼が登場済みのためだ。ドラマ『必殺仕事人III』が第1話「殺しを見たのは受験生」ではなくて2時間スペシャルの『仕事人大集合』で始まったようなものか。ちょっと違うか。

(杉江松恋)

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