第103回:前田司郎さん

作家の読書道 第103回:前田司郎さん

劇団「五反田団」を主宰し、劇作家、演出家、俳優として活躍する一方で、09年には『夏の水の半魚人』で三島由紀夫賞も受賞し、小説家としても注目されている前田司郎さん。実は、幼い頃から志していたのは小説家。どんな経緯を辿って現在に至るのか、そして大学生の頃に出合った、それまでの本の読み方、選び方を変えた1冊とは。

その6「小説のプロットは考えない」 (6/7)

――小説を書き始めるとき、最初から細部まで決めて書きますか。

前田:ほとんど考えていません。作品によって違うんですが、例えば『逆に14歳』のときは、自分が老人だったらどうなるだろう、今の友達も何人か死んでるだろう、葬式も行くだろう、そこで友達と会うだろう、そしたらそんなこともあったね、と思い出が甦ってきたりするだろう、そういうのって面白いかも、と思って。

――じゃあ「トキメキたいんだ」とか、ロシアンスパイは...。

前田:草稿のときは違っていて、後から変えていきました。 でも、小説とシナリオはだいぶ違いますね。映画とかのシナリオの場合は先にプロットを立てないと。戯曲でも登場人物やキャスティングが先に決まっているのでそれに合わせます。でも稽古が始まってから戯曲を変えること極力しないですね。キリがないので。稽古が始まっているのに戯曲ができていないことはありますが(笑)。

――『恋愛の解体と北区の滅亡』では、思考の道筋がずっと綴られていきますよね。

前田:それがやってみたかったんです。考えていることを全部書こうと思って。
実際にあったんです、コンビニでムキムキな男に割り込まれて、ということが。すごくムカつきました。人はなぜ人を殺すのかというテーマのひとつとして、こういうところから殺すのかなって考えていったんですけれど、いやあ、これじゃあ人は殺さないなと思った。

――そうしたらなぜか宇宙人が出てくることに(笑)。

前田:そうです、後から宇宙人を出しました(笑)。これじゃ何もなさすぎるだろう、って。

――『逆に14歳』の老人や、三島賞受賞作の『夏の水の半魚人』のような少年など、世代の異なる人物について書くのは...。

前田:自分と同年代の人を書けばいいとは思うんですけれど、僕は働いたことがないので、フリーターとか俳優とか小説家しか知らない。同年代の人ってたいてい働いているけれど、僕はサラリーマンの人が普段どういうことをしているのか分からない。そこが書けないから老人とか子供とか......そろそろヤバイですね(笑)。『課長島耕作』も読んだんですけれど、全然勉強にならなかった(笑)。

――お芝居も忙しいけれど、やはり小説は書いていきたいと思いますか。

前田:戯曲は同じ書く仕事でも、寸止めな感じがすごくあるんです。舞台になってはじめて完成ですから。演出家や俳優さんにバトンを渡さないといけない。それはそれで楽しいんですが、小説は書いて読者にバトンを渡すにしても、戯曲よりは自分の中で達成しやすい、完結しやすいところがある。気持ちよさでは小説のほうが気持ちいい。

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