第168回:早見和真さん

作家の読書道 第168回:早見和真さん

デビュー作『ひゃくはち』がいきなり映画化されて注目を浴び、さらに昨年は『イノセント・デイズ』で日本推理作家協会賞長編および連作短編集部門を受賞、最新作『95』も注目される早見和真さん。高校時代は名門野球部で練習に励んでいた少年が、なぜ作家を志すことになったのか、またそのデビューの意外な経緯とは? ご自身の本棚の“一軍”に並んでいる愛読とは? 波瀾万丈の来し方と読書が交錯します。

その3「1日3冊読むというルール」 (3/7)

――大学受験はどうなりましたか。

早見:受かる訳ないと思っていたんで、1校しか受けませんでした。お金は来年の受験にまわそうと思って、早稲田の教育だけ受けて当然落ちました。で、予備校に通ったら、人生ではじめて野球のない毎日で、もう圧倒的に自由なんですよ。だから思ったより勉強は頑張れなかったんですけれど、いっぱいバイトして、翌年は20校以上受けましたね。6校受かってなぜか全部補欠で、結局國學院大学の文学部に入ります。
文章を書きたいと思っていたのに浪人時代にずるずる過ごしていたので、大学もずるずる卒業しちゃうとハッキリとわかっていて、だから1日3冊本を読むことを自分に課しました。最初はまったく頭に入ってこなかったけれど、図書館にある本をなんでもかんでも読みまくろうと思って。途中から「漫画も雑誌も可」というルールに変わっていくんですけれどね(笑)。

――それでも3冊は大変ですよね。

早見:フィクションもノンフィクションもいっぱい読みましたよ。本当に今、あの時の貯金で作家として闘えている気がします。ずっと毎日3冊だったとは言えないけれど、それに近い冊数を読んだと思います。コレクション的に本がたまっていくことも当時は快感でしたし。結局大学には7年行くので、すごい冊数読んだはず。

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――7年間、1日3冊ルールを続けていたんですか。

早見:徐々に習慣になっていって、最後は依存してた気がします。僕はいわゆる典型的なバックパッカーでもあったんですけど、旅先で読む本がないと手が震えましたもん。宿にたまに日本語の本があったりすると、ありがたかったですもんね。ミャンマーの安宿で拾ったブラジルの『地球の歩き方』に、命が救われる気がしました(笑)。

――旅は主にアジアですか。

早見:アジアも多かったけれど、南米もアフリカも行きました。でもやっぱりインドがいちばん好きです。インドで読んだ『銀河鉄道の夜』は刺さりました。何十時間という電車に何度も乗っているなかで4回くらい繰り返して読みました。

――いつもとは違うシチュエーションで読むと、また違ったりしますよね、同じ本でも。

早見:本当にそうですよね。旅先で読む本は大好きです。わざわざ選んで日本から持って行くと外すんですよ。逆に、現地で拾った本が刺さったりする。旅先で出会って「こいつ格好いいな」と思った人と「持っている本を交換しよう」と言ってもらった本はもれなく刺さります。英語なんか全然喋れないから洋書も読めないんですけれど、インドネシアのビーチで出会ったイスラエル人の、なんかフルヌードで歩いてるとても格好いい人が、アレックス・ガーランドの『ザ・ビーチ』を洋書で持っていて。

――ディカプリオ主演で映画化された、タイの伝説のビーチを舞台にした話ですよね。

早見:そうです。映画化される3、4年前だったと思うんですけれど、それを「読んでみな」って渡されて、もう死ぬ気で読みました。その人があまりにも格好いいから。で、ちゃんと面白いと思えたんです。英語話せないくせに。でも3年後くらいに日本語訳が出た時に読んだら、自分の思っていたのと全然違う話だった(笑)。不思議な体験でしたね。どっちも面白かったけれど。

――単語をちょっと誤読しただけで、どんどん違うイメージが膨らんだりしますもんね。

早見:そんな次元じゃなかったですけどね。旅に酔っていたりもしたんでしょう。「洋書読んでいる自分」にも酔っていた気がします(笑)。

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