第168回:早見和真さん

作家の読書道 第168回:早見和真さん

デビュー作『ひゃくはち』がいきなり映画化されて注目を浴び、さらに昨年は『イノセント・デイズ』で日本推理作家協会賞長編および連作短編集部門を受賞、最新作『95』も注目される早見和真さん。高校時代は名門野球部で練習に励んでいた少年が、なぜ作家を志すことになったのか、またそのデビューの意外な経緯とは? ご自身の本棚の“一軍”に並んでいる愛読とは? 波瀾万丈の来し方と読書が交錯します。

その4「家族の危機と進路の危機」 (4/7)

――大学に7年通って、それからどうなったんですか。 

早見:7年目の時、就職活動をしました。7年通って60単位くらいしか取ってなくて残りが68単位。本気を出せばとれるだろうと思って、就職活動に臨みました。毎年毎年後輩たちが就活しているのが羨ましくて仕方がなかったし、なんとなく就活では戦えるだろうっていう気持ちもあって。3ダブ(3年留年)なんてたいてい書類で落とされるだろうけど、でも書類通してくれたらもう言い訳はできないよねって思ってました。結局、7社か8社くらい書類を通してくれて、4社内定をもらっているんです。

――受けたのはどんな会社ですか。

早見:基本、新聞記者にしかなりたくなくて、実際にある新聞社から内定をいただいて、入社しようと思ってました。03年に入社する予定で和歌山支局に行くことも決まったんですけど、当時はまだカレー事件が尾を引いていて、「あの事件を担当するんだな」と思っていましたね。でも留年するんです、もう一回。で、入社できなくて。

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――ああ、なんてもったいない。あの、プロフィールに在学中からライターとして活動されているとありますが、それはどういう経緯だったのでしょう。

早見:僕が大学に入った直後くらいに早見家が大頓挫するんです。詳しくは『ぼくたちの家族』にあるんですけど、親父の仕事がパンクしたり、お袋が「もう死にたい」って毎晩電話してきたりして。3ダブって言ってるんですけれど、実は1回、中退しているんですよね。で、再入学しています。休学だと授業料をとられちゃうんですが、中退して再入学だと、再入学金だけでいいと聞いて。それで本当に救われて。
そんな感じで、自分で再入学金やら授業料やらを稼がなくちゃいけなかったんですけど、一方で家が大変だからインドに行けないとかいうのは「だせえな」って思ってて。20歳くらいの時、なんとか旅をお金に換える方法を考え始めるんですよね。で、いろんな出版社をまわって、「海外旅行がしたいからなにか書かせてください」「お金をください」って言ったんです。もちろん、だいたいは門前払いです。でも、そんな僕を面白がってくれる人も一部にはいて、最初に書かせてくれたのは『AERA』でした。

――へえー。

早見:当時「世界の遺産」ってページがあって、そこからですね。20歳で『AERA』に書かせてもらうようになりました。海外旅行に行ったら黒字になる、という時期が続いて「もう、一生これでいいな」って思っていました。

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