第168回:早見和真さん

作家の読書道 第168回:早見和真さん

デビュー作『ひゃくはち』がいきなり映画化されて注目を浴び、さらに昨年は『イノセント・デイズ』で日本推理作家協会賞長編および連作短編集部門を受賞、最新作『95』も注目される早見和真さん。高校時代は名門野球部で練習に励んでいた少年が、なぜ作家を志すことになったのか、またそのデビューの意外な経緯とは? ご自身の本棚の“一軍”に並んでいる愛読とは? 波瀾万丈の来し方と読書が交錯します。

その6「デビュー前後からの読書生活」 (6/7)

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  • 『百年の孤独 (Obra de Garc´ia M´arquez)』
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――小説家志望ではなかったけれども、背水の陣で書き始めてみたら、書く楽しみに目覚めていったわけでしょうか。

早見:大前提として、とにかく文章を書ければなんでもよかったんです。そこにフィクション、ノンフィクションという境目はなくて、ただ文章を書いて飯食っていくことで自分のなかでリアリティがあったのは新聞記者だけだったっていう感じですね。でも図らずも「小説を書け」と言ってくれた人がいて、それは自分にとって最後のチャンスという自覚があって、しがみついたという感じです。

――デビューしてからは読書生活に変化がありましたか。

早見:ずっと読み続けていますよ。自分に負荷をかける意味もあるけど、普通に楽しいですからね。でも本当に書くことに追われていると「読まないほうが楽だぞ」って思う瞬間はあります。今すごい作品に触れて絶望したくない、と思っちゃうんですよ。でもそれも全部引きうけて読まなきゃとは思っていますけど。

――読む本はどういうふうに選ばれているんですか。

早見:耳に入ってくるものは少なくとも読むようにしているし、常時2~30冊はデスクの横に積ん読されていますね。

――本棚は、一軍のほかには二軍とか? 2003年の本以外には、一軍にはどんな本があるのでしょうか。

早見:一軍の棚の上は、自分の本の棚です(笑)。一軍でパッと思いつくのは、金城一紀さんの本ですね。とくに『GO』は大学時代、まるまる3回くらい手書きで書き写しています。そのなかに、うろ覚えですが、「小説を読み続けている人間は、集会に集まる100人の人間より力がある。そういう人が一人でも増えたら、世界は今より絶対よくなる」みたいな一文があって、あれは今の作家としての自分の支えだったりします。僕、金城さんにだいぶ影響を受けていると思います。他には『百年の孤独』も書き写しましたけど、とにかく手が疲れた記憶の方が大きいですね(笑)。

――何回「アウレリャノ」と書くことになるのかという。他に影響を受けた人はいますか。

早見:やっぱり沢木耕太郎さんは大きな一人ですし、村上龍さんもそうです。でも金城さんが一番かもしれませんね。『ひゃくはち』を書く時も仮想敵としたのは金城さんだったんですよ。もちろん全然追いつかないし、レベルが違うのは分かっているんですけれど、『GO』や「ゾンビーズ」シリーズを越えなきゃ失敗だ、みたいな強迫観念がありました。
あと、僕は本を読んでいなかった中高時代の空白の6年間でさえ映画はよく観ていたと思うんですけど、そこに原体験がふたつあります。ひとつは『グーニーズ』。ちっちゃい時の有隣堂への冒険もそうですけど、のちに世界中を回るようになったのも、根幹は『グーニーズ』だったと思っています。もうひとつは『スター・ウォーズ』。

――『グーニーズ』は少年たちが宝探しの冒険に出る内容ですものね。『スター・ウォーズ』、実はこのインタビューを行っている今日は新作公開日...。

早見:いや、もうホントに。なんて日にインタビューを受けているんだっていう気分です(笑)。もちろんチケットはとってあるし、この後観に行きますよ。僕、1983年のエピソード6、順番でいうと3作目が、はじめて映画館で観た『スター・ウォーズ』なんです。親父が連れていってくれて、興奮して。すごくよく憶えています。あの続きの物語を、僕、今日観るんですよね......。感慨深いです。
ジョージ・ルーカスの手を放れて新監督候補の名前が10人くらい上がった時「ルーカスじゃないなら誰でもいいや」と思いつつ、一人だけどうしても嫌だったのがJ・J・エイブラムスでした。撮るもの撮るもの全部嫌いで、エイブラムス嫌いを克服しないと『スター・ウォーズ』に辿りつかないと思って、2年前に覚悟を決めて毛嫌いしていた『スタートレック』を見たんですけど、これが面白かった(笑)。2年間、今日の日を待ち望んでいました。

――もうインタビューどころじゃないかもしれませんが、続けさせてください(笑)。映画や本の感想は記録していましたか?

早見:「つけなきゃ」と思っていた時期もあるんですけれど、今は、意外と、何年か後に残っているものだけを信じればいいやというふうになりました。でも、読んでいる時に「すごいなこの表現」と思ったものには付箋をつけたりします。たとえば『3月のライオン』なんて付箋ばっかりついています。もう表現がすごすぎて、絶望します。

――少女漫画もお読みになるんですね。

早見:大好きですよ。『ハチミツとクローバー』とか『潔く柔く』とか。負荷をかける意味で、自分に遠いところを読むところから始まったんですけどね。純文学も読むし。綿矢りささんの大ファンだし。

――今、お住まいは横浜ではないですよね。

早見:はい。伊豆です。デビューした時は神楽坂にいました。小説を書いていても自分の才能のなさを突きつけられているようで、逃げたくて仕方なくなって、すぐ逃げていたんです。友達めいた人間はたぶん多い方で、奴らがすぐ逃がすんですよ(笑)。何時だろうが。

――遊びに誘ってくる、と(笑)。

早見:僕からも誘ってましたし。最後はそいつらも逆恨みして「おまえらがいるから俺は書けない!」って(笑)。東京でこのままずるずる遊んでいたら絶対に後悔すると分かっていたから、「もう知り合いのいない街に行って、誰とも知りあわないで過ごそう」と思いました。最初は五島列島に行こうとしていて、家も見つけたんですけれど、その頃にお袋が病気になったこともあって、実家から遠いところは無理だと思って伊豆に決めました。もう6年になります。望んだ以上に書くことにストイックになれたし、正解だった気がします。

――どういう毎日を送っているのですか。

早見:平均するとですけれど、12時前後に起きて、何も食べず飲まず、17時半くらいまでぶっ通しで書きます。僕、寝起きが書きもののゴールデンタイムなんですよね。書けない時もあるんですけれど、確実に机の前にはいます。で、17時半に家族そろってご飯食べる。妻と娘にとっては夜ごはんで、僕にとっては朝ごはんです。それから娘とギターで歌ったりして19時半くらいまでうだうだして、そこから昼寝します。必ず1時間から1時間半くらい。もう一回ゴールデンタイムを作るためだけに。 9時半くらいに、最近の流れでは近所のファミレスに行くんです。そこが深夜の2時に閉まるまで書く。調子がよければ家に戻ってきてそのまま朝まで書くし、調子悪かったら家で映画を観るか、うちは元民宿で温泉なので、半身浴しながら本を読むか。朝5、6時ぐらいが区切りで、そのくらいの時間におにぎり1個食べて、うだうだしていると家族が起きてくるから「じゃあ寝ますねー」と言って7時半くらい寝ます。すぐそばに海があるんですけど、全然行きません。東京にいても過ごせるような毎日です(笑)。

――元民宿の建物を借りているんですか。

早見:そうなんですよ。2階に7部屋あって、全部屋に伊豆七島のパネルがかかっているんです。最初は「大島」で仕事してー、「神津島」で寝てー、みたいなことを考えていたんですけれど、今は大学生の一人暮らしみたいです。ベッドもデスクもなにもかも全部「利島」にあります。

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