第169回:深緑野分さん

作家の読書道 第169回:深緑野分さん

デビュー短篇集『オーブランの少女』が話題となり、第二作となる初の長篇『戦場のコックたち』は直木賞と大藪賞の候補になり、注目度が高まる深緑野分さん。その作品世界からも、相当な読書家であったのだろうと思わせる彼女の、読書遍歴とは?

その2「いちばんハマった児童書は」 (2/7)

  • ねる前に読む本 (きょうはこの本読みたいな)
  • 『ねる前に読む本 (きょうはこの本読みたいな)』
    偕成社
    1,296円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    LawsonHMV
    honto
  • モモ (岩波少年文庫(127))
  • 『モモ (岩波少年文庫(127))』
    ミヒャエル・エンデ
    岩波書店
    864円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    LawsonHMV
    honto
  • サーカス物語 (エンデの傑作ファンタジー)
  • 『サーカス物語 (エンデの傑作ファンタジー)』
    ミヒャエル・エンデ
    岩波書店
    23,298円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    LawsonHMV
    honto
  • オーブランの少女 (ミステリ・フロンティア)
  • 『オーブランの少女 (ミステリ・フロンティア)』
    深緑 野分
    東京創元社
    1,620円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    LawsonHMV
    honto
  • クロスファイア〈上〉 (光文社文庫プレミアム)
  • 『クロスファイア〈上〉 (光文社文庫プレミアム)』
    宮部 みゆき
    光文社
    720円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    LawsonHMV
    honto
  • 銀河鉄道の夜 [Blu-ray]
  • 『銀河鉄道の夜 [Blu-ray]』
    KADOKAWA / 角川書店
  • 商品を購入する
    Amazon
    LawsonHMV
  • 雪わたり (福音館創作童話シリーズ)
  • 『雪わたり (福音館創作童話シリーズ)』
    宮沢 賢治
    福音館書店
    1,404円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    LawsonHMV
    honto

――小学校に入ってからは、どのように本を選んでいったのですか。

深緑:家にある本を選んで読んでいくという感じだったんです。ダールは自分の希望で揃えてもらいました。国内のアンソロジーで、工藤直子さんや安房直子さん、有島武郎や宮沢賢治や筒井康隆さん、稲垣足穂とかの作品が入っている『ねる前に読む本』というものがあって。寝る前に読むといってるわりには、眠れなくなる系なんです。ちょっと不気味で、起きたまま夢を見ているようでちょっと怖かったり、そのままベッドから出て誰もいないシーンとした夜の部屋を見ていたくなるような本だったんです。10歳くらいの時にぱらっと立ち読みして「ああ、これは今まで読んだことがないし、すごく好きな本だな」と思って買ってもらったんです。「きょうはこの本読みたいな」っていう偕成社のシリーズの一冊でした。その叢書は何冊か読んだんですけれど『ねる前に読む本』がいちばん好きでした。自分で選んだのはそれくらいかもしれません。これとは別に、この頃になるとだんだん厚めの本が自分で読めるようになってきたので、『モモ』をようやく一人で読みました。それでわりと自信をつけて、ナルニアシリーズもここではじめて読みました。昔ごっこ遊びをしている時は、伯母が内容を話してくれるのを聞いているだけだったので。
それが小学校5年生くらい。ほかに『サーカス物語』とか『森は生きている』とかもこの頃に読みました。福武書店から出している「ベスト・チョイス」というシリーズがあって、そのなかのロバート・ウェストールの『かかし』とか『ブラッカムの爆撃機』とかオソウスキーの『空のない星』とかを姉が買ってきて「面白い」と言っていたのをおさがりで読みました。このくらいの年頃になるとだんだん読む本のなかにもシリアスな大人の話も増えていった気がします。それで、スーザン・プライスの『ゴースト・ドラム』を読んだら、それがもう、すごく好みで。スラブ民話などに出てくる魔女、バーバ・ヤーガがモチーフになっていると思うんですけれど。私の単行本デビュー作となった『オーブランの少女』のなかの「氷の皇国」はこれが元ネタですが、暴君が治めている冬の国があって、そこで魔法使いが、太鼓を使って魔法をかけるんですね。言葉の魔法をかけると、その娘が成長して魔女になって王子を助ける話になるんです。すごく暗くて残酷で、それでいてすごくロマンチックで、面白かったんです。これは本当に、ダール以降でいちばんハマった児童書だったかなと。これを読んでから、もう大人と子供の境界があまりない本を読むようになりました。湯本香樹実さんの『夏の庭』とか、そのあたりですね。
 それから、6年生か中学にあがるくらいの時に宮部みゆきさんの『クロスファイア』を読んで...このあたりはいろんなものをごちゃごちゃ読んでいたんです。あ、宮沢賢治にはまった時期もありましたね。

――それも小学生の頃ですか。

深緑:そうです。『銀河鉄道の夜』のアニメが好きだったんですよ。ちょうど国語の教科書に載っていた「やまなし」でクラムボンがかぷかぷ笑っているのを読んで、『雪渡り』の絵本も好きだったので、わーっとハマっていきました。家には祖父から母親に渡された古い『春と修羅』がありました。初版ではなかったと思いますが、かなり古いものでしたね。

――中学生になってからはいかがでしょうか。

深緑:たしか星新一さんをそのくらいの時に読んで、それから重松清さんを読むようになりました。『エイジ』を最初に読んで『ナイフ』を読み、『見張り塔からずっと』とか『舞姫通信』とか初期の作品を読み...。『ビタミンF』はワニの話がいちばん好きでした。吉本ばななさんの『TUGUMI』もすごく好きで、あとは宮部みゆきさんの『今夜は眠れない』とか『レベル7』といったあたりを読んで、ほかには乃南アサさんの『凍える牙』とか『風紋』とか。東野圭吾さんのしのぶセンセシリーズも。東野さんがまだここまで大ベストセラー作家になる前、『あの頃ぼくらはアホでした』のエッセイを出していたくらいの頃の作品をよく読んでいました。
 この頃母親が持ってきた本が山本周五郎の『さぶ』で、これも読んですごく好きになりました。その頃はまだピアノを習っていたんですけれど、発表会の最中にずっと『さぶ』を読んでいて、「出番だよ」「はーい」って言ってパーッと弾いて、戻ってきてまた『さぶ』を読んでいました。

――それくらい夢中になった、と。

深緑:はい。その頃ちょうど黒澤明の映画が好きだったということもあって、周五郎は『赤ひげ診療譚』や『季節のない街』も読みました。そうそう、高校受験の時に周五郎の『おごそかな渇き』という短篇集のなかの「雨あがる」から出題されたんですよ。人を斬るのが苦手な貧乏浪人の話で、寺尾聰主演で映画化されたやつです。それで「ほおー、周五郎」と思いながらウキウキと問題を解きました。

――好きなものがあるとテンションがあがるという。

深緑:はい、我を忘れてしまう(笑)。で、それらが中学時代の読書で、高校に入ってからは結構純文学寄りになっていきます。三島由紀夫だったり、谷崎潤一郎の『細雪』とか。あ、でも松本清張にもすごくハマって、『点と線』から続篇の『時間の習俗』を読みました。『張り込み』や『砂の器』や『ゼロの焦点』などを、ミニスカートにルーズソックスをはいている女子高生だった私が読んでいました。その頃、東野さんの『白夜行』がちょうど単行本で出たんですよね。徹夜で読んで、次の日学校を休みました。朝、母親に「徹夜でこれ読んじゃったから」と言ったら「分かった、学校に電話しとく」と言ってくれて、共犯関係に(笑)。宮部さんの『模倣犯』や天童荒太さんの『永遠の仔』を読んだのもこの頃だったと思います。

――そうした本はすべて、自分で選んだのでしょうか。学校の図書館などで借りたのかしら。

深緑:基本的に母親が買ったものが家の本棚にあるので、それを読んでいました。『ビタミンF』だけは図書館で読んだ記憶があるので、たぶんそこで借りてますね。図書館は資料本とかノンフィクションなど親が買っていない本を読む時に行ってました。淀川長治さんの映画論を読みたい時とか。

――おうちに相当数の蔵書があったということですよね。

深緑:結構大きな本棚があって、そこの前に行って「あ、これ面白そうだな」という本を選んでいました。母親と読書の好みがかなり合うんです。重松清さんだったり、宮部みゆきさんだったり。松本清張も母の好みでした。もともと『或る「小倉日記」伝』を読んでいたんですが、私の場合、『天国と地獄』とか『張り込み』とかを映画で観て原作を読んでみたいと言ったら母がニコニコして「あるよ、あるよ」って(笑)。「『点と線』が面白いからまずこれから読みなさい」って。そうしたらすごく面白くて「なんだこれは」と思いました。うちの母親、高木彬光とかも好きなんですよ。このあいだはじめて知ったんですけれど、「実は私、本格ミステリもすごく好きだったのよ」って言っていました。結婚した時に本は持ってこなかったけれど、鮎川哲也とかも読んでいたらしくて。
そうかと思うと高校の時に「三島由紀夫読みたいけれど、どれから読もうかな」と言ったら最初に『午後の曳航』を薦められたんですよ。 確かにすごく面白かったんですけれど、あれ、お母さんの相手になる男、いわゆる継父になる男の身体に惚れる少年の話なので結構なエロさがあるんですよ。高校生に薦めるなら『春の雪』とか『潮騒』ならまだ分かるんですけれど(笑)。

  • 『あの頃映画 the BEST 松竹ブルーレイ・コレクション 張込み』 [Blu-ray]
  • 『『あの頃映画 the BEST 松竹ブルーレイ・コレクション 張込み』 [Blu-ray]』
    松竹
  • 商品を購入する
    Amazon
    LawsonHMV
  • 春の雪 (中公文庫)
  • 『春の雪 (中公文庫)』
    三島 由紀夫,池田 理代子,宮本 えりか
    中央公論新社
    679円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    LawsonHMV
    honto

» その3「映画もスポーツも絵も好き」へ