第169回:深緑野分さん

作家の読書道 第169回:深緑野分さん

デビュー短篇集『オーブランの少女』が話題となり、第二作となる初の長篇『戦場のコックたち』は直木賞と大藪賞の候補になり、注目度が高まる深緑野分さん。その作品世界からも、相当な読書家であったのだろうと思わせる彼女の、読書遍歴とは?

その7「話題作『戦場のコックたち』&最近の読書」 (7/7)

  • アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
  • 『アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ文庫)』
    トマス・フラナガン,宇野利泰(訳)
    早川書房
    972円(税込)
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  • ナヴァロンの要塞 (ハヤカワ文庫 NV 131)
  • 『ナヴァロンの要塞 (ハヤカワ文庫 NV 131)』
    アリステア・マクリーン
    早川書房
    950円(税込)
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  • 新・冒険スパイ小説ハンドブック (ハヤカワ文庫NV)
  • 『新・冒険スパイ小説ハンドブック (ハヤカワ文庫NV)』
    早川書房
    1,080円(税込)
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  • 侍女の物語 (ハヤカワepi文庫)
  • 『侍女の物語 (ハヤカワepi文庫)』
    マーガレット アトウッド,Margaret Atwood
    早川書房
    1,296円(税込)
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  • 新装版 遥かなるセントラルパーク (上) (文春文庫)
  • 『新装版 遥かなるセントラルパーク (上) (文春文庫)』
    トム マクナブ
    文藝春秋
    799円(税込)
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  • 名もなき人たちのテーブル
  • 『名もなき人たちのテーブル』
    マイケル・オンダーチェ
    作品社
    2,808円(税込)
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――専業になってから、一日のサイクルはどんな感じですか。

深緑:朝起きて、猫にえさをあげて、水をかえて、掃除して自分のご飯を食べて、ツイッターを見て、少し書き始めて、ツイッターを見ながら書いて、本読んだりしながら書いて、旦那が6時くらいに帰ってくるのでご飯の支度をして、あとはのんびりしながら時々原稿を書いて寝ます。って新聞の取材の時に言ったら「これ、どうやってまとめよう」って言われました(笑)。

――新作『戦場のコックたち』は直木賞や大藪賞の候補にもなり、たいへんな話題になっています。2作目であの2段組み、しかもコックのアメリカ兵が主人公で日本人が一人も出てこない第二次大戦時のヨーロッパが舞台という。巻末の参考文献の数がすごかったですが、意外とご本人は大変というより楽しんで書かれた、とも聞いています。

深緑:2冊目を書く時にいくつか案があったんですが、なんかどれもはまらなくて「じゃあ、戦場で日常ものやってみますか」と言ったら「それで!」って、すごく軽いノリで決まったんです。電話で話していたんですが、「え、いいの」って訊き返しましたもん。私の念頭にあったのは『アデスタを吹く冷たい風』なんですよね。架空の共和国の少佐を主人公にした短篇がいくつか入っているんです。それで、自分も架空の国でやろうかと思ったんですが、それはそれでどこかの国をイメージしちゃうところが出てくるし、時代設定などを新たに膨らませるのは非常に難しいので、だったら実在する舞台にしてしまったほうがいいんじゃないかという話になって。私がアメリカ軍の第二次世界大戦の頃のヨーロッパ戦線に興味があったので、「じゃあそこで」ということになりました。そんなに詳しいわけではないんですけれど、ゼロからやるよりは、多少は資料の当てがあったので。といいながらいろいろミスもしているので申し訳ないです。ミリタリーに詳しい人に「ここが違うよ」と指摘されて「すみませんすみません」という感じです。

――戦場での日常の謎を連作で描くだけではなく、全体的に反戦小説になっているところも素晴らしいと思いました。

深緑:ありがとうございます。戦争の話をする以上は、なにかしら感じさせる部分を書かないと、というのはあって。やっぱり経験している人がいて、憶えている人がいる以上は悲劇性を書かないと誠実ではなくなってしまうなあと思いました。でも私は経験していないので、少しでもそういうものに歩み寄れるようにと思いながら書きました。

――コックを主人公にしたのは秀逸でしたよね。人が死ぬ戦場というものと、命をつなぐための食べるという行為の対比がいい。ただ、コックを選んだ理由はそれだけでなく、後方支援が好きだというお話も聞きましたが。

深緑:なんでですかね。何か好きなんですよね。一歩引いているサポート系のキャラクターが好きなんですよね。ハリー・ポッターのルーピン先生から始まっているような気がします。ルーピン先生は別にサポーターっぽくないんですけれど、みんながわーっとなっているなかで一歩引いているところがあるので。優秀な事務員も好きですね。ヘニング・マンケルのヴァランダー・シリーズに登場する鑑識課の刑事ニーベリのキャラクターとか。その点において、このあいだ読んだ『ナヴァロンの要塞』が素晴らしくてですね。映画はそんな感じじゃなかったんですけれど、原作のほうが、意外なキャラクターが名探偵になるんですよね。その名探偵になる人が、「フケツ」と言われるくらいわりと汚い見た目で、顔もよくなくて、でも手先も器用だし要領もよくて、頭もいいと。その彼が名探偵になって、ブラウンという一兵卒が通信を一手に引き受けてくれるんですけれど、それが本当に「サポートキャラ万歳」という感じで。

――『ナヴァロンの要塞』はかなり前の作品ですが、なぜ今読まれたんですか。

深緑:『冒険・スパイ小説ハンドブック』で解題を頼まれたんです。もともと映画を観ていたから「大丈夫かな」と思って受けたら、小説のほうが全然面白いじゃん、となりました。映画も名作なんですけれど。

――最近読む本はどうやって決めているのですか。

深緑:手当たり次第ですかね。ツイッターで誰かが薦めていて「面白そうだな」と思うとチェックします。『侍女の物語』とか、復刊した『遥かなるセントラルパーク』とか。ケヴィン・ブロックマイヤーの『第七階層からの眺め』は、たしか本谷有希子さんがどこかの雑誌で挙げていて、その紹介の感じがすごく面白くて。あとは書店で、表紙買いをします。

――どんな表紙が好きなんでしょう。

深緑:わりと潔い表紙が好きです。オンダーチェの『名もなき人たちのテーブル』の、真っ青のなかに船がポンとある装丁だったり、『ストーナー』のような、静謐な感じのものもすごく好きです。あれは東江一紀さんの訳だから買ったということもあります。今読みかけなのはチママンダ・ンゴズ・アディーチェの『半分のぼった黄色い太陽』と、アン・レッキーの『叛逆航路』なんですが...。

――あ、並行読みなんですか。

深緑:わりとあっちこっち読みます。有吉佐和子の『ほむら』とかも途中までで。わりと気分によって「これ読みたいなー」という感じです。でも全然読めていません。去年は100冊読めていないと思います。読んでも面白くなかったものもあったりして...。でもデュ・モーリアの『いま見てはいけない』はよかった。『街角の書店』も面白かった。それと、あれだ、『モンスターズ』も、序文がすっごくいいんですよ。あ、そうやってお前はいつも自分の好きな話題にもっていくんだなっていう...。

――って言われているんですか?(笑)

深緑:いろんな人に言われます(笑)。

――さて、今後の刊行予定を教えてください。

深緑:『小説推理』さんで連載中の「分かれ道ノストラダムス」という、意味不明な小説があります。最初は恋愛小説というお題のはずだったのに、なんでこんな話になっちゃったんだろうっていう。

――なんだか面白そう(笑)。

深緑:それがたぶん年内に刊行予定で、あとは筑摩書房さんのウェブで掲載していた短篇を今絶賛執筆中で、それが集まったら単行本になる予定です。時期は未定です。

(了)

  • 叛逆航路 (創元SF文庫)
  • 『叛逆航路 (創元SF文庫)』
    アン・レッキー
    東京創元社
    1,404円(税込)
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  • いま見てはいけない (デュ・モーリア傑作集) (創元推理文庫)
  • 『いま見てはいけない (デュ・モーリア傑作集) (創元推理文庫)』
    ダフネ・デュ・モーリア
    東京創元社
    1,296円(税込)
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  • 街角の書店 (18の奇妙な物語) (創元推理文庫)
  • 『街角の書店 (18の奇妙な物語) (創元推理文庫)』
    フレドリック・ブラウン,シャーリイ・ジャクスン
    東京創元社
    1,015円(税込)
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