第186回:澤村伊智さん

作家の読書道 第186回:澤村伊智さん

日本ホラー小説大賞を受賞したデビュー作『ぼぎわんが、来る』(「ぼぎわん」を改題)が話題を集め、その後の作品も評判を呼んで日本ホラー小説界期待の新星として熱く注目されている澤村伊智さん。実は幼少の頃から筋金入りの読書家です。愛読してきたレーベル、作品、作家について、がっつりお話くださいました。読み応え満点!

その2「怖い話と出会う」 (2/9)

  • ブラック・ジャック (1) (少年チャンピオン・コミックス)
  • 『ブラック・ジャック (1) (少年チャンピオン・コミックス)』
    手塚 治虫
    秋田書店
    192円(税込)
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――小学校に入ってからはいかがでしたか。

澤村:小学校に入る3日ぐらい前に、家に大量の漫画が届いたんです。それはよく憶えてるんですけど、歴史とか偉人とかの学研の漫画ですね。母親が購入したんです。セットで買うと「漢委奴国王」の金印のレプリカが付いてきたので、たぶんそれに乗ったんだと思います(笑)。僕は金印の価値はまったく分かりませんでしたが、漫画の知育教育にはまっちゃいましたね。これも実家にあったので持ってきました。〈学研まんが日本人物史〉、〈学研まんが伝記シリーズ〉、〈学研まんがひみつシリーズ〉ですね。

――わー、物持ちいいですね。『聖武天皇』『キュリー夫人』...。

澤村:これと、〈日本の歴史〉と〈世界の歴史〉と〈中国の歴史〉というのを段階的に母が買っていた記憶があります。でも憶えているのは知的な情報などではなくて、割と人間ドラマだったりします。今、パラパラめくって思い出したのが、南極探検の話も、スコットが帰りに死んじゃったって部分しか憶えていないし、キュリー夫人もラジウムのことより、2人目の子どもができたばかりの時に旦那さんが馬車に轢かれて死んだという話のほうをよく憶えていて。こうしてみると懐かしいですね。
こういうものを与えられて素直に読んでいたので、いわゆる大衆娯楽漫画を読むのが若干遅かったですよ。はじめて読んだのが小学2年の終わりくらい。それまで『ブラック・ジャック』も知らなかったので、いろいろ間違えたんじゃないかって気もします。

――はじめて読んだ漫画が『ブラック・ジャック』だったわけですね。本以外に、アニメや映画などに触れる機会はあったのですか。

澤村:小さい頃は特撮見てたし、アニメも、ちょうど往年のロボットアニメが再放送されていて、「マジンガーZ」も「グレートマジンガー」も「コンバトラーV」も「超電磁マシーン ボルテスV」も「闘将ダイモス」も「闘士ゴーディアン」も全部見てるんですよね。そのへんの古き良きロボットアニメが何故か夕方にやっていたんです。夏休みには当然仮面ライダーの再放送はやるし、衛星放送ではウルトラマンの再放送やってるし。そのへんはずっと見てましたね。

――学校で本を借りたりするようになるのはいつくらいでしたか。

澤村:ああ、小学校3年生の時ですね。それまで大阪を転々としてたんですが、小3の時に兵庫県に引っ越すんですが、そこの学校の学級文庫にケイブンシャの『恐怖の怨霊大百科』っていう本があって。多分、かつてそこにいた生徒が置いていった本だと思うんですけど。これははっきり言って怖い挿絵と実話という体の話がいっぱい載ってるだけの本です。それと、佐藤有文さんという、その筋では有名な方が書いた学研ジュニアチャンピオンコースの『絵とき こわい話 怪奇ミステリー』っていう本を読んだのが多分大きかったですね。

――ホラーとの出会いということですね。

澤村:『怨霊大百科』の方は一応実話って体で「この旅館にはこんなおばけが出ます」とか、「この踏切にはこんな自殺した女の人の霊が」とかいう話で、『絵とき』の方は怖そうなものなら何でもぶっ込んでいて、ギリシャ神話からアフリカの謎の奇病から、雑多に載っていたんです。巻末にも子どもの自分でも明らかに作り話だと分かる海外のお話が何本もあって、そこだけよく読み返していました。結構大人になってから気づくんですけけれど、それらって海外の古典怪奇小説を子ども向けに翻訳したやつだったんですよね。有名どころだと、マリアットの「人狼」とか。アダムスの「テーブルを前にした死骸」も有名ですね。捜索隊が吹雪の山小屋に行ったらふたつの死体があって、片方は死後何日も経ってて、もう片方は割と最近自殺したらしい。そこに置かれた手記で、なぜこうなったのかって真相が明かされるっていう。小泉八雲とかも一応入ってましたね。「食人(じきにん)鬼」って話なんですけど。もうひとつふたつ話が入っていて、そういうのがすごく怖くて、一番印象に残っています。当時の本は挿絵もグロかったですから。
もちろん実話系の話も怖かったですよ。『怨霊大百科』のほうは読んでエレベーターに乗れなくなるくらい怖くなってしまって。「中に誰かいるかもしれない」って。それが小3、4の頃ですね。

――そこから怖い話がどんどん好きになっていったという感じですか。

澤村:オカルト趣味みたいなところで言うと、ちょうどテレビの「木曜スペシャル」でUFOとか心霊写真の放送をしていたので、そうしたものへの興味がまず一本柱としてありました。本では、ケイブンシャからいろいろ本が出ていたんで、買ったりしましたよ。ここに持ってきました。これとか、女の子向けと気づかずに買っちゃって。

――マイバースデー編集部編『ふしぎ写真大百科』。「マイバースデー」って、女の子向けの雑誌ですね。

澤村:そうなんです。女の子向けなんですけど気づかず買っちゃって。他にはケイブンシャの冝保愛子さんのシリーズの『心霊写真大百科4』とか、『UFO遭遇大百科』『謎の生物大百科』とか...。これらは沢山読めば読むほど、「嘘だな」って分かってくるんですよ。でも、ノストラダムス系の本も当然読んで、それは「ああ、滅びるんだ」って割とつらい思いでいましたね。

――ああ、ノストラダムス世代ですよね。1999年に地球が滅びるといわれていたんですよね。

澤村:ノストラダムス系の本はひどいものも結構ありました。世界滅亡のシナリオとかいっぱい書いてあるんですけど、なかには「エイズで人類は滅びる」とかすごい差別的なことが書いてあって、子ども心にも「これは駄目だな」っていうのがありました。志の低い本もあったっていう。まあ、ケイブンシャ大百科シリーズは、僕はどちらかというと心霊写真を買いたかったんですけど怖かったので、それは友達に買ってもらって、僕はUFOを主に買ってました。UFOも段々ネタがなくなってくるんですよね。買えば分かるんですけど、使いまわしが多くて。

――また同じネタだ、写真だ、みたいな。

澤村:そうです。おまけに同じ写真なのに違うキャプション載っけて、別のやつかのように偽装しているものもあって、読めば読むほど「ああ、やっぱりか」って感じで。夢が冷めていきますよね、楽しくはあったんですけど。

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