第186回:澤村伊智さん

作家の読書道 第186回:澤村伊智さん

日本ホラー小説大賞を受賞したデビュー作『ぼぎわんが、来る』(「ぼぎわん」を改題)が話題を集め、その後の作品も評判を呼んで日本ホラー小説界期待の新星として熱く注目されている澤村伊智さん。実は幼少の頃から筋金入りの読書家です。愛読してきたレーベル、作品、作家について、がっつりお話くださいました。読み応え満点!

その3「子ども向けSF&ミステリのレーベルを読む」 (3/9)

  • ([え]2-1)怪人二十面相 江戸川乱歩・少年探偵1 (ポプラ文庫クラシック)
  • 『([え]2-1)怪人二十面相 江戸川乱歩・少年探偵1 (ポプラ文庫クラシック)』
    江戸川 乱歩
    ポプラ社
    605円(税込)
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――他の系統の読書はどうだったんでしょう。

澤村:小説の方の興味はありました。学校で、図書室で1時間本を読むだけの授業っていうのがあったんです。その時に最初はホームズなどを読んでたんですけど、すぐ読み終わっちゃって、その後に岩崎書店の「SFこども図書館」っていう有名なシリーズを読み始めました。『火星の王女』『27世紀の発明』『星からきた探偵』『地底探検』...。カバーイラストも中の絵も全部、広告系のイラストレーターさんに発注していて。和田誠さんとか、あと、トリスウイスキーの広告の人(柳原良平さん)とか。それこそ真鍋博さんも書いてたと思うんですけど、当時は写実的なタッチの絵が多いなかで、子どもには稚拙に見える絵柄でした。ちょっとふざけているような絵で。
ただ、このシリーズは確か学校の図書室には2~3冊ぐらいしか置いてなくて、そこでようやく、「そういえば、世の中には図書館っていうものがあったな」って気づくんですよね。それで図書館に自分で行ったら本がいっぱいあって。当たり前なんですけど。そこで「SFこども図書館」シリーズを全部読みました。R・Fジョーンズの『合成怪物』が一番印象に残ってるかな。あと、ロバート・セドリック・シエリフの『ついらくした月』という、地球に月が落ちてくるだけの話とか。それと、さきほど挙げたエドガー・ライス・バロウズの『火星の王女』。
同時進行であかね書房から出ていた、推理・探偵傑作シリーズ全25巻も読みました。これは横山まさみちさんという人がカバーイラストを描いています。さいとうたかをさんの系譜に入るのかな、劇画タッチの絵を描く人です。この推理・探偵傑作シリーズが面白かったのは、挿絵が漫画にだいぶ寄せてあるんですよね。コマを割って吹出しがあったりとか。あとは人物相関図とかもわりと漫画チックなイラスト付きで描いたりとか、だいぶ子どもに親切でした。ここでハードボイルドとミステリの古典に触れました。そのなかで僕がびっくりしたのはガストン・ルルーの『黄色い部屋の秘密』。真相にびっくりしたんです。え、そこは想像してなかったわ、って。めちゃくちゃ面白かったです。ポオの『モルグ街の怪事件』も真相に驚きましたし。シャーロック・ホームズ読んでた時よりも何倍もびっくりした気がして。
他にはポプラ社の江戸川乱歩の少年探偵団のやつも読みました。『怪人二十面相』とか。あれはでも、少年探偵団が出てこない話のほうが面白かったです。

――全集やシリーズを攻めるタイプだったんですねえ。

澤村:そうですね。あかね書房の「少年少女世界SF文学全集」全20巻も読みましたし。何が載ってたかな。アシモフ『鋼鉄都市』、シルヴァーバーグ『生きていた火星人』、コナン・ドイル『恐竜世界の探検』...そうそう、『火星の王女』の作者、バロウズの『地底世界ペルシダー』もありました。ウェルズの『宇宙戦争』を知ったのはこのシリーズでした。
ほかには岩崎書店の〈SF少年文庫〉ってやつですね。「文庫」って書いてありますけど、ハードカバーです。これでハインラインの『宇宙怪獣ラモックス』などを読みました。
同時進行でスミスの『銀河パトロール隊レンズマン』のシリーズも読んでいた記憶があるんですよね。あ、金の星社から出てる「世界こわい話ふしぎな話傑作集」も読んでいた記憶があって。これは、幻想怪奇小説っていうのが一番近いのかな。レ・ファニュ(『緑色の目の白いネコ』『古い屋敷に残された話』)とか。

――あの、『吸血鬼カーミラ』の作者ですよね。

澤村:そうです。それにはラヴクラフトとかも入ってたかな(『悪魔のおとし子 アメリカ編』所収)。
〈SFこども図書館〉は友だちが面白がってくれたので薦めた記憶はありますが、基本的には一人で楽しく読んでいました。
それと同時進行でポプラ社が当時子供向けに海外のホラー、怪奇小説を翻訳しておりまして、ポプラ社文庫怪奇シリーズというのを図書館で知り、どうもこれは今も出てるらしいと知り、勇気を持って買ったりもしました。それで初めて買った本が、これです(鞄から取り出す)。アーサー・マッケンの『ゆうれい屋敷の謎』。マッケンは怪奇・幻想小説のすごく有名な作家ですけれど、この『ゆうれい屋敷の謎』というのは『怪奇クラブ』の邦題で知られている作品です。

――へええ。すごくきれいに保存されていますね。奥付は初版が1985年第1版で、これは1989年の第13刷。

澤村:買ったのは89年か90年とかそのくらいだと思うんですけど。たまたまこれはきれいなんです。他はボロボロです。

――これが初めて自分で買った本。

澤村:多分、まあ、小遣いを貰った記憶もあまり無いので、親に「本を買うから金をくれ」と言ったに違いないと思うんですけど、それで散々迷って買ってきたのがこれっていう。自分が親だったらびっくりすると思うんですけど。まあ、面白いんですよ。あんまり子どもには薦められない本ですけどね。これ、連作短編形式というか、長編の中で人々が話す怖い話が全部短編になってるというか。その中でですね、「白い粉薬のはなし」っていうのがめっちゃくちゃ怖くて、これ多分、ホラー作家さんとか怪談好きの人に聞いたら、全員知ってると思います。すごい有名な話なんで。大人になってからこの原点というか、創元推理文庫、東京創元社から出ている翻訳と対照してみたら、これ、ほとんど省略されてなかったんですよね。頑張って全部訳したんだって。他は、一番グロテスクな部分が割愛されていたりするんですけれど、白い粉薬のはなしは相当頑張ったみたいで、ほとんど削ってないんです。女の人が「弟が変な薬を飲んでドロドロに溶けました」って言うだけの話なんですけど......と、筋だけ言っちゃうとしょうもない話なんですけど、滅茶苦茶面白かったんですよ。こんなの読んだばっかりに、こんな大人になってしまいましたという。

――やはり初めて買ったのも海外小説なんですね。

澤村:小説に関しては海外のものが多かったですね。あかね書房とか岩崎書店には日本のSFの短編アンソロジーもあったと思うし、かんべむさしさんなんかがいるとは分かっていましたけれど。そういうのにまったく触れてないわけではないんですけど、興味のメインじゃなかった感じはあります。

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