第186回:澤村伊智さん

作家の読書道 第186回:澤村伊智さん

日本ホラー小説大賞を受賞したデビュー作『ぼぎわんが、来る』(「ぼぎわん」を改題)が話題を集め、その後の作品も評判を呼んで日本ホラー小説界期待の新星として熱く注目されている澤村伊智さん。実は幼少の頃から筋金入りの読書家です。愛読してきたレーベル、作品、作家について、がっつりお話くださいました。読み応え満点!

その8「デビューのきっかけ」 (8/9)

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――国内小説で印象に残っているものは。

澤村:同じ頃、実家の父親の本棚にある本の意味が分かったっていうか。横溝正史とか鮎川哲也とか、本格のやつがいっぱいあるのは知っていたけれど、やっとその価値が分かったというか。小さい頃からことあるごとに父は「この作家はすごいぞ」みたいな話はしてたんですよ。でも大人になってようやく、「ああ、これはいわゆる本格というやつじゃないか」っていうのが分かりました。そこから会話するようになったというか。鮎川哲也はオーソドックスで面白いと話したりして、土屋隆夫も面白いなって思って読んでいたら、「土屋隆夫は地味だ。」って言われたり。親父が一番薦めてきたのが、森村誠一さんと天藤真なんですよね。

――あ、天藤真さんといえば『大誘拐』。この連載でちょくちょく出てくる本です。

澤村:そう、『大誘拐』です。『大誘拐』は本当、子供の頃から薦められていて、でも小学校の時に1回読んでみてて、全然分からなかったですよね。税金の話とか相続税の話とか全然分からなかったんで。大人になってから読んだら滅茶苦茶面白くて。それで帰省すると親父の蔵書を漁る日々となりました。横溝も沢山持っていたので横溝も制覇しました、日本の本格を読んだのは、親父の蔵書の存在が大きかったですね。

――その頃、澤村さんは20代後半とかですか。

澤村:そうだと思いますね。30歳を越えた頃にやっと岡本綺堂に出会いました。

――岡本綺堂は怪奇ものもいろいろ書いていますよね。何がきっかけだったんですかね。

澤村:Twitterを始めて、さっき「映画秘宝」の時にちょっと出てきた中野貴雄さんと相互フォローしたんですよ。それで中野貴雄さんがことあるごとに「岡本綺堂の怪談が面白い、面白い」って言うから、マジかって思って。ちょっと怖い話って。読んだら怖かったですね。で、今に至るって感じです。あ、岡本綺堂行く前に、〈異形コレクション〉をほぼ全部読んだ時期もありましたね。『獣人』『闇電話』『夏のグランドホテル』が特に好きです。

――やっぱり制覇しますよね。ところで、小説を書き始めたきっかけは何だったんですか。

澤村:32になる前かなってからだったかは忘れましたが、2012年の春に仕事を辞めて、フリーランスでやることになったんですね。最初はそんな仕事は無かったから、暇だったんですけど、友人が、それこそ、先ほど言った東京に先に行ってた友人ですけれど、彼が、友達が小説書いたから読んでやってくれと言ってきたんです。暇だから読んだら面白くなくて。今度の飲み会で感想でも言ってあげればって話になったんですけれども、感想を言うために一回自分でも小説を書いて、堂々と言おうって思って小説を書いたんです。

――それまで自分の小説を書いてみようと思ったことは。

澤村:仕事の合間にちょっとやってみようかなと思って覚書みたいなものをパラパラっと書いてすぐ止めたこともあったし、息抜きにブログでちょっと書いてみようかなと思って速攻止めたりとかはありました。仕事の息抜きのためにやろうとしたけれど、全然続かなかったんです。
でもその時は、飲み屋で知人の書いたものに偉そうに駄目出ししている自分を想像して、最悪に気持ち悪いなって思ったんです。当時、若干落ち込んでる時期でもあったので、余計にそう思ったのかも知れないですね。

――その時に書いたのどういう話というか、どういうテイストのものだったんですか。

澤村:ジャンルだったら純文学になるんじゃないですかね。読まされたものが純文学っぽかったんです。それと全然違う小説を書いても比較対象にならないので。比較すべきかって話なんですけど、一応、同じ土俵に立ってる感は全力で出しておかないとなって思ったんです。

――そうして書いた小説を携えて、友達の作品批判をみんなでやったんですか。

澤村:やりましたね。なんかすっきりした記憶がありますけど(笑)。そしたら古い友人がですね、面白がって「これを続けよう」って言い出したんですね。その友人は一応数合わせで書くんですけれど別に小説を書くのは好きじゃなくて、僕と知人が飲み屋で大真面目に議論をしているのを見るが好きっていう野次馬根性全開のやつで。それで何か月かに1回、年3~4回かな、集まるようになりました。それが2012年から2015年。仕事の合間にって感じですね。
僕もどうかしてると思うんですけど、その最初に小説を書いた人が作家でもないのに作家性出すというか、モチーフとか主人公の行動パターンが毎回似通ってて「僕、こういう小説を書くんです」みたいなものを書いてくるんですよね。それが本当に嫌で。もう、小説書くスタンスからカチンと来て、対抗してましたね。

――え、別に楽しく飲み会されてたわけではないのですか。

澤村:楽しくしていましたよ。向こうが気が優しい人で良かったなって思ってます。

――そうして書くようになって、応募してみようと思ったんですね。

澤村:そうですね。中短編を10作書いたところでちょうど2年経ったんですよね。自分の中で勝手に、じゃあそろそろ長編書くかって気分になったんですよね。一応、小説指南本も買ったりとか。前に読んで面白かったので買い直したのが土屋隆夫さんの『推理小説作法』。都筑道夫先生の『都筑道夫のミステリイ指南』や京極夏彦さんや東雅夫さん共著の『怪談の学校』。土屋さんのは頑固な推理作家の軽妙なエッセイとして面白くて、『怪談の学校』は平山夢明さんや『新耳(袋)』などを読んでいる延長で買ったらめちゃくちゃ面白くて。この本に都筑さんの本が載っていたんですよね。それで、小説を書く前段階か書き始めた頃に買って読んで「都筑先生は面白いな」と。語り起こしなので都筑さんの文章ではないんですけど。これらを参考にして、小説を書いてました。思いついた端から書いてて、10作書いたところで長編書こうと思い、折角だから自分の好きな、怖いものでも書いてみるかって書いたのが応募原稿です。

――それが日本ホラー小説大賞の大賞受賞作『ぼぎわんが、来る』だったんですか。

澤村:はい。

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