第218回:藤野可織さん

作家の読書道 第218回:藤野可織さん

 不穏な世界を時に美しい言葉で、時に奇想を炸裂させた設定で描き出す藤野可織さん。2013年には『爪と目』で芥川賞を受賞、最近では女性2人が破滅に向かう世界で活き活きと冒険する『ピエタとトランジ<完全版>』が評判に。この世界観を生み出す背景に、どんな読書遍歴があったのでしょう? 小説だけでなく、影響を受けた漫画や好きな映画や俳優についてもたっぷり教えてくださいました。

その2「映画と時代劇とピアノ」 (2/6)

――読書以外で、アニメとか映画とかゲームとか、何か夢中になったものや影響を受けたと思うものってありますか。

藤野:ゲームはうちにはなかったです。なので、圧倒的に映画です。そんなにしょっちゅうではないのですが、親に連れていってもらっていました。たぶんいちばん最初に映画館で映画を観たのは、幼稚園の頃の「スター・ウォーズ」です。でも私、わけがわかってなくて、クライマックスのライトセーバーで闘うシーンで泣き叫んで、父か母に抱えられて外に連れていかれたんですよ。ライトセーバーが蛍光灯だと思ったんです。そんなぶつけあったら割れると思って「割れるー!」と泣き叫んだのを自分でも憶えています(笑)。あとは「ごんぎつね」のアニメ映画を観て可哀想すぎて号泣したりとか。
 もうひとつは時代劇ですね。親が観ていたから私もぼんやり観ていただけなんですが。ここ10年ほどはぜんぜん観なくなってしまったんですけど、それまでは時代劇を見続けながら人生を歩んできたといっても過言ではありません(笑)。大河ドラマも観ましたし、「遠山の金さん」とか「大岡越前」とか「鬼平犯科帳」とか、藤沢周平の『用心棒日月抄』をドラマにした「腕におぼえあり」とか、平岩弓枝原作の「御宿かわせみ」とか。もう少し大人になってからは、「木枯らし紋次郎」と勝新太郎の座頭市シリーズは全部見たと思います。杉良太郎の「同心暁蘭之介」とか近衛十四郎・品川隆二の「素浪人 月影兵庫」「素浪人 花山大吉」は大好きでした。テレビっ子だったんですが、見ているのは本当に時代劇ばかりでした。現代劇のドラマで見たのは「沙粧妙子―最後の事件―」と「ロングバケーション」くらい。

――藤野さんは一人っ子だそうですが、では放課後は家に帰って本を読んだりテレビを観ることが多かったのでしょうか。

藤野:小学生のときはわりと本格的にピアノを習っていたので、だいたいピアノの練習をしていました。もともと自分から習いたいと言ったらしいんですけれど、それは憶えていなくて、いつのまにか習っているから弾いているのが当たり前、という感じになっていました。今なら音楽の良さが分かるんですけれど、その頃はきっと分かっていなかったと思います。小学校6年生で中学校受験することになったのをきっかけに辞めました。今はもう全然弾けないので、もったいないですね。

――その頃は、将来作家になりたいとは考えていなかったのでしょうか。

藤野:幼稚園に入る前、親にねだって絵本を読んでもらっている頃から、将来はお話を書く人になるんだと勝手に思っていました。それが具体的にどういうことかはあまり分かっていなかったです。実際に何か書くこともしていなくて、授業で「この物語の続きを書きましょう」という課題でなにか書いたくらい。

――文章にしなくても、頭のなかでいろいろ空想するのは好きだったのでは?

藤野:空想はしてました。一人っ子だからか分かりませんが、一人でじっと座って。それと、ピアノを習っていたからよくクラシックのコンサートに連れて行かせてもらったんですが、その間ずっと、ホールの壁にいっぱいついている吸盤のような吸音装置とか、すさまじい大きさの緞帳とかの間を、自分が小さい人になって冒険する姿を空想をしていました。小さい人になった私は「未来少年コナン」みたいに運動神経が良くてすごく楽しかったです。

» その3「小説、ノンフィクション、ホラー漫画」へ