久保田 泉の<<書評>>
評価:★★★★★ 分厚い上下巻は、いざ読み始めたら大長編の不安は雲散霧消し、本格小説の世界にどっぷり浸かっていた。この長さで一気読みも全く苦にならず。冒頭、著者がこの小説に着手する前の長い話、とした序章から、実話なのか虚構なのか分からない雰囲気も魅力になっている。登場人物や背景、まだ階級社会が残る戦後の昭和という時代、ニューヨークに軽井沢という舞台もこれぞ小説の王道!で読み手の血が騒ぐ。アメリカでお抱え運転手から億万長者になった謎の男、東太郎の幼少期から現在までの人生を、特別の想いを抱き彼を見守った冨美子の語りで描く。両親もおらず、伯父一家に苛められ育った貧しい太郎と、隣家の裕福な一族の娘、よう子の許されざる恋。幼く孤独だった太郎のよう子への愛情は、一種の狂気を帯び一族と共に翳りをおびながら生きながらえていく。夏の霧、雨、苔むした別荘地、それらを覆う木々が枯れ、浅間を見渡す冬も含め、軽井沢という土地はよほど物語を生む磁力が強いのだろう。本格という言葉がふさわしい大作だ。
真剣 【新潮社】 海道龍一朗 定価940円(税込) 2005/11 ISBN-4101250413
つきのふね 【角川書店】 森 絵都 定価460円(税込) 2005/11 ISBN-404379102X
いつか記憶からこぼれおちるとしても 【朝日新聞社】 江國 香織 定価500円(税込) 2005/11 ISBN-4022643544
青空感傷ツアー 【河出書房新社】 柴崎 友香 定価494円(税込) 2005/11 ISBN-4309407668
評価:★★★ 主人公の芽衣は、三年勤めた会社をやめる。そんなとき、突然昔の友だちで、超が三つくらいつくような美人、かつ超ゴーマンな音生から電話がかかってくる。彼氏に女がいた、と怒り狂う音生の傷心と憤怒に完全に仕切られながら、遠くに行こうと言う彼女の言葉に乗っていく。なぜかしょっぱなはトルコだ。関西弁でポンポンと繰り広げられる、女二人の文句が多い会話は、何もトルコくんだりまで来てしなくてもいいようなバカバカしさで笑える。傷心旅行?の合間に音生が男友だちを傍若無人に振り回す。お次は四国で、芽衣はかつて失恋した相手と再会する。そして次はなぜか石垣島だ。芽衣と音生をはじめとする、登場人物たちがテンポよくかわす会話が作品の魅力だ。芽衣を取り巻く現在も未来も現時点では、全然前途洋洋じゃない。でも何をしようが考えようが、毎日はなんだかんだとしゃべくりながら能天気にも過ぎていく、それが本当なんだよ!という話だと思った。
凍れる森 【講談社】 C.J. ボックス 定価820円(税込) 2005/10 ISBN-4062752190
魔力の女 【講談社】 グレッグ・アイルズ 定価1140円(税込) 2005/11 ISBN-4062752344
パ−トタイム・サンドバッグ 【ランダムハウス講談社文庫】 リーサ・リアドン 定価840円(税込) 2005/11 ISBN-4270100168
塵よりよみがえり 【河出文庫】 レイ・ブラッドベリ 定価714円(税込) 2005/10 ISBN-430946257X