WEB本の雑誌>今月の新刊採点>【文庫本班】2007年11月のランキング>藤田佐緒里の書評
評価:
リストラ請負人・村上真介シリーズ第一弾のこの作品。いま、単行本で第二段『借金取りの王子』が発売されています。こっちもかなり面白かった。
リストラ委託会社、日本ヒューマンリアクト(株)に勤め、リストラ対象者に説明をする面接官をしている村上真介。来る日も来る日もリストラの対象となっている人びとに、その旨を説明し続ける。普通に考えたらやってる方が病気になりそうだが、村上は嬉々として面接に臨む。
仕事をしていると気がつくことだが、いい仕事ができるかどうかは、その人の能力よりも、その仕事に対してどんな姿勢で臨んでいるかに、ほとんどがかかっている、と思う。だから、この小説で読むことのできる村上の仕事ぶりにはとても励まされる。働く大人への応援賛歌として、とても勇気付けられる小説です。
評価:
やっぱり森絵都さんの小説は大好き。この小説は単行本でももちろん読んだし、文庫化されてまた嬉しくてどきどきしながら読みました。
大きな罪を犯して死んだ人は、輪廻のサイクルからはずされるけれど、気まぐれな天使のボスがたまに抽選をして、あたった人はそのサイクルに戻される、というところから始まるこの小説。抽選に当たった主人公の魂が、真という少年の体に入り、生活を始める。
大筋はなんとなくありがちに見えるけれど、この主人公と天使プラプラとの会話のかわいいことかわいいこと。道端で赤ちゃんや犬や猫を見るとつい微笑んでしまうみたいに、この小説を読んでいる間は、なんだか自然とにこにことしてしまいました。幸せな気持ちになれる一冊です。
評価:
この人は、いったいどこまで行ってしまうのだろうか。冒険家(?)高野秀行さんが今度はインドへ、謎の怪魚ウモッカを探しに行ってしまった。
帯に「こんな探検、ありえない!」と書かれているのですが、まったくそのとおりです。ありえない! そもそも、怪魚ウモッカって、一体なんなんだ。未確認動物に関してまったく興味のない私のような人間には、到底届いてこない情報です…。でも本好きだったおかげで、それから高野秀行という、信じがたいような冒険をしてしまう人がいたおかげで、私もウモッカにたどり着いてしまった。
ウモッカも面白いんだけれど、何よりこの人の冒険がすっごい面白い。どこに行った話でも面白いから、冒険には大して興味がないけれど、やっぱり新刊が出ると読んでしまう。高野さんにはまだまだもっともっと冒険してほしいです。
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この本、電車で読むのがすばらしく恥ずかしかった。まずはタイトルが恥ずかしい。名香智子さんのカバーイラストもまた恥ずかしさをあおる。もう大人の女になってしまった私だって、童貞という言葉には敏感に反応してしまうのである。とにかくこの本をかばんに入れて持ち歩いているという事実さえ恥ずかしい。でも、一度読み始めたら電車に乗ってもやめられない面白さである。
三木卓、武者小路実篤、二葉亭四迷など、名だたる人々が書いた、その名のとおり「童貞小説」が収録された豪華な一冊です。セックスに夢と希望を持つ童貞たち。彼らのどうしようもない苦悩ばかりが書かれている。こんなのばっかりが集まっている本を女が読んで面白いのか、と思われるかもしれないが、これは女にとってこそ興味深いし面白い。
いつの時代も、童貞は悩むのである。こそばゆい青春です。私よりももっと大人の女性にぜひ読んでもらいたいです。
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マイケル・コナリーの、ハリー・ボッシュシリーズ最新刊。警官をやめて私立探偵をしていたボッシュが、このたびめでたく警官に復帰する、というところからスタートするこの物語。未解決の事件を扱う部署で、17年前に起こった、少女誘拐殺人事件の担当になり、紐解いていくというストーリー。
警官に復帰して、事件を捜査、解決していくという物語自体ももちろんとても面白いのだが、ボッシュが娘を持つ一人の父親だということがこの小説ではいいなぁと共感することのできる材料のひとつ。警官だって、どんなに優秀だって、父親は父親なのですね。ボッシュの気持ちに寄り添える気がしました。
上下巻のうち、バランスとしては下巻のほうにストーリーの展開が詰まっているかんじでした。最後のスピード感がたまりません。
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クックの新刊。これまたたくさんの伏線がはられた複雑な小説です。
「おまえ」と語られる現在と、「わたし」が振り返って語る過去の回想という二重の構成で進むストーリー。全体的にとても静かでゆっくりと進んでいるような印象を受ける。はられた伏線がゆっくり静かにつながっていくのを読んでいると、その複雑さと物語全体のゆるやかさが相反しているようで、それがとてもいいな、と思った。統合失調症というちょっと重いテーマも中で取り扱われており、こんなことが実際にあったら大変なことだ、と思いつつも、それが実際にもありうるということに静かな恐怖を覚えた。重厚感のある一冊です。
でも、私にとってはつらい小説だった。自分の精神状態があまりよくないときに読んだため、その私自身のこころに真正面からぶつかってしまい、どっと悲しくなってしまった。元気なときに読むことをおすすめします。
評価:
好きな女の子のために、願いが叶うという流れ星を探しに行く冒険ファンタジー。なんてロマンチックで素敵でかわいくてあたたかいのでしょう。私のために流れ星を探しに行ってくれる人なんていません。うそでもいいから「流れ星を探しに行ってくるよ!」と言ってくれる人がいたら嬉しいな。
この作品は10月下旬からロードショーになっている映画「スターダスト」の原作です。「ロード・オブ・ザ・リング」や「ハリー・ポッター」なんかを思わせる類の作品ですが、読んで久しぶりにとっても心を楽しませてくれるファンタジーでした。魔女やら王子やら海賊やら、流れ星にたどり着くまでの間には個性豊かなキャラクターが次から次へと登場する。読んでいてどうしても映像を想像してしまう、頭の中で空想がどんどんふくらんでいってしまう楽しさでした。
物語にはそもそもこういう楽しさがあって、自分で冒険することができてしまうんだったそういえば、と、小学校のころに夢中で読んだ「指輪物語」や「ナルニア国物語」なんかを思い出して嬉しくなりました。
評価:
主人公は心理療法士ボブ・ウェルズ。この人、もうどうしちゃったのかというくらいかわいそうというか痛い人です。夢もなくなってしまって妻にも逃げられて貧乏で孤独でその上酒におぼれている。本当にここまできたらもうどうしようもない人です。友達にすらなりたくない。そんなボブが、ジェシーという女性に出会って恋に落ちてしまう。それで安易なボブが考えたのが、お金を手に入れるためのある計画。
ここまでどうしようもない人が主人公だと、なんだか途中でこの人をあきらめたくなってしまってきたのですが、スピード感のある書き口と浮かんだり沈んだりの展開が面白いせいで、最後まで一気に読んでしまいました。
とても読みやすいノワール。主人公のだめっぷりも存分に楽しんでもらいたい一冊です。
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