WEB本の雑誌>今月の新刊採点>【文庫本班】2007年11月の課題図書>『カラフル』 森絵都 (著)
評価:
自殺した中学生、小林真の身体に宿って人生をやり直せるチャンスを手にした「ぼく」。真として過ごす毎日は、はじめのうちは冴えないことだらけに思えたが―。
死んだはずの「ぼく」が天使の導きのもとで小林真として人生に再挑戦する、という非常にファンタジックな設定。真と同年代あたりを対象とする児童文学ではあるけれど、大人でも読みごたえは十分。
自殺を図る前の真は、確かについていない。背も低い、友達もいない、成績もぱっとしない。さらに不運なできごとが重なって、とうとう死を選んだ。しかし真として日々を過ごす「ぼく」は、やがて気づいてしまう。素晴らしい人生じゃないか、死ぬことなんてなかったじゃないかと。
生きていれば良いことも悪いこともある。きれいなものにも汚いものにも出会う。そのそれぞれが色を持っていて、毎日に彩りを与えている。改めて気づく機会はあまりないけれど、世界はこんなにもカラフルだ。テーマは壮大だが、仰々しくなく、軽快に描かれている。この世に起きるすべてのことを真っ直ぐに受け止めて力強く肯定する、健やかな1冊。
評価:
悪くないんだけど、抜群でもない。嫌いじゃないけど大好きにはなれない。そんな本だ。
高校受験直前に訪れた「まさかまさか」の復活奇跡の物語。高校3年と中学3年の男の子がいる平凡な家庭だったはずの小林家。だが、次男のまさかの服薬自殺が家族関係、仮面親子、異性の存在、受験への意気込み、様々なことを変えていく。あまりに出来すぎて逆につまらなさを感じてしまった。読後感が良いだけにパンチの弱さが勿体ない。わかりやすいストーリーの中で天使や兄や女の子の個性には要注目。明日を変えてくれそうな科白も要チェックだ。
「リズム」や「宇宙のみなしご」と「DIVE!!」の間に書かれた本作。けれど私は初期の「一生懸命」が伝わる作品のほうが好きだ。読者の気持ちの引っ張り方とか最後の落とし方が上手に出来るようになって「うまくまとまってしまった感」がある。「DIVE!!」「風に舞いあがるビニールシート」では、「どうだ」「これでもか」と大いに唸らせてくれただけに期待が大きかったか。
評価:
やっぱり森絵都さんの小説は大好き。この小説は単行本でももちろん読んだし、文庫化されてまた嬉しくてどきどきしながら読みました。
大きな罪を犯して死んだ人は、輪廻のサイクルからはずされるけれど、気まぐれな天使のボスがたまに抽選をして、あたった人はそのサイクルに戻される、というところから始まるこの小説。抽選に当たった主人公の魂が、真という少年の体に入り、生活を始める。
大筋はなんとなくありがちに見えるけれど、この主人公と天使プラプラとの会話のかわいいことかわいいこと。道端で赤ちゃんや犬や猫を見るとつい微笑んでしまうみたいに、この小説を読んでいる間は、なんだか自然とにこにことしてしまいました。幸せな気持ちになれる一冊です。
評価:
天上界にもなかなか気の利いたシステムがあるようで、厳正なる抽選に当たったらしい僕の魂は、天使プルプルに連れられて再び人間界に帰還することとなってしまった。
再チャレンジ、安倍首相は辞任しちゃったけど。いわゆるひとつのアタックチャンス、なんでも児玉清さんは海外の小説を原文で読まれるらしい。
自殺した少年の体を借り、期間限定で彼として生きることとなった僕、その間に自分の前世を振り返り自分の犯した罪を思い出せと、気は進まないがどうやら辞退は許されないらしい。
テンポよく進む物語。大きなメッセージを含んでいながら、まったくもって押し付けがましくないところが素敵に無敵。
人生に彩りを添える物語。主人公にリンクして、モノクロだった世界がしだいに色を帯びてゆく感動をあなたにも是非味わっていただきたい。
今月の一押し、自信を持って推薦したい一冊。
評価:
以前、単行本班で読んだ『幽霊人命救助隊』(高野和明)という作品がありまして。自殺者の幽霊が、自殺に走ろうとする人たちを救うという話で、他の本の書評で言うのも何ですが、ま、読んで欲しい訳ですよ。この作品と一緒に、是非。
何でそんなことを言い出したか、ってえと、やっぱね。自分で自分の命を絶つ、なんてことは、どんなことがあってもやっちゃダメだ、ってことを改めてくっきりと思い知るのに、『幽霊人命救助隊』とこの作品は恰好の教材だから。
自殺を図った少年の体に「ホームステイ」したぼくの魂が、少年の生を生きることで見い出した、自分の「罪」の重さ。正直、展開は容易に読めてしまうのですが、それでも、この決着の付け方はすごく素敵だと思う。
ちょうどこの作品を読んでいた時に、心がとっても弱まってて、それこそ書評する気分にすらなれなかったのですが、今これを書いてて、つくづく、まだ生きていてよかったと思うし。
評価:
「ホームステイだと思えばいいのです。」
「せいぜい数十年の人生です。」
プラプラという名の天使がそうささやいた。
主人公が死んだはずのぼくの魂。ひょんなことから自殺した少年の身体に宿ることとなり、いきなり中三の受験生の日々が始まる。
現世のガイド役は天使のプラプラ。
知れば知るほど少年の複雑な家庭環境がわかり、最初は投げやりの日々を送っていたものの、ここは一つ懸命に生きてみようと思い直す。
そのきっかけは「人間ってのは良くも悪くもたいしたもんだ」という少年の父の言葉であったり、少年にありったけの気持ちで対応する母の姿であったり、クラスメイトとのなにげない会話からであったり…。
「みんなそうだよ。いろんな絵の具を持っているんだ。きれいな色も、汚い色も」
生きることに悩んでいる女友達に少年がそう語る。
大きな壁を乗り越えた彼がまぶしいくらい輝いている。
つらい涙ばかりじゃないよ、しみじみ心が動いたときの涙があるよ。
ぜひ中学生に読んで欲しいなぁと、読後に強く思った。
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