『君たちに明日はない』

君たちに明日はない
  • 垣根涼介 (著)
  • 新潮文庫
  • 税込620円
  • 2007年10月
  • ISBN-9784101329710
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  1. 君たちに明日はない
  2. 朱夏 警視庁強行犯係
  3. 銀座開化おもかげ草紙
  4. カラフル
  5. 怪魚ウモッカ格闘記
  6. 童貞小説集
  7. 終決者たち(上・下)
  8. 石のささやき
  9. スターダスト
  10. 四つの雨
荒又望

評価:星3つ

 企業に派遣されて面接を担当するリストラ請負人の村上真介と、何らかの理由で退職を促された人々。クビ切りを宣告する側とされる側、双方の悲喜こもごもを描いた連作短編集。
 なさそうでありそうなリストラ請負会社。周りを見れば似たタイプが1人はいそうな退職候補者。クライアント各社の、やけにリアルな内部事情。勤め人ならピンと来る部分がきっとある、絶妙な舞台設定。
 この職場に、あなたの居場所はもうありません。ある日突然そう言い渡されるのは、それはもう一大事だ。いきなり崖っぷちに立たされた被面接者は、嘆き、憤り、懇願する。しかし面接者は、あくまで冷徹に切り返すのみ。たいそうな修羅場のはずなのに、どこか滑稽さが入り混じり、肩の凝らない物語となっている。もちろん、実際のリストラはもっともっと悲惨で、それこそ物語になんてできないのだろうけれど。
 失笑、苦笑、呆れ笑いに泣き笑い。いろんな笑いを誘われて、最後にはすっきりと爽快な笑顔になれる。タイトルとは裏腹に、明日は皆に訪れる。多少の苦味は残るとしても。

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鈴木直枝

評価:星5つ

 惚れてしまった。小説の登場人物に「好き」以上の感情を抱いたのはいつ以来だろう。
 ジャニーズくずれの面持ちの33歳独身サラリーマン。職種はリストラ請負業。依頼主である企業からの対象者に面接を繰り返し、退職へ追い込む。イヤな奴。万人に嫌われる鼻持ちならないカッコつけタイプ。どうせ卑劣で冷徹で無常な奴でしょ、きっと。
 建材、玩具、銀行、自動車メーカー…昨日の彼らはうな垂れていた。くすぶっていた。躊躇していた。そこに現れたリストラの文字。「えっ!この俺が?マジすか!」しかし、彼と面談し退職した人間のその後の人生は、昨日以上に楽しそうなのだ。
 久しぶりの文句なしハナマル痛快サラリーマン小説。荻原浩の「神様からひと言」以上かもしれない。挑むことの勇気と励ましの気概があふれている。
 「みんな鼻血を出さんばかりに必死に仕事をやっているってだけのことだ」
この科白に危機感を抱いたり、最近のちょっとマンネリ感に後ろめたさがある君に勧めたい本だ。君たちに明日はある?

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藤田佐緒里

評価:星4つ

 リストラ請負人・村上真介シリーズ第一弾のこの作品。いま、単行本で第二段『借金取りの王子』が発売されています。こっちもかなり面白かった。
 リストラ委託会社、日本ヒューマンリアクト(株)に勤め、リストラ対象者に説明をする面接官をしている村上真介。来る日も来る日もリストラの対象となっている人びとに、その旨を説明し続ける。普通に考えたらやってる方が病気になりそうだが、村上は嬉々として面接に臨む。
 仕事をしていると気がつくことだが、いい仕事ができるかどうかは、その人の能力よりも、その仕事に対してどんな姿勢で臨んでいるかに、ほとんどがかかっている、と思う。だから、この小説で読むことのできる村上の仕事ぶりにはとても励まされる。働く大人への応援賛歌として、とても勇気付けられる小説です。

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松岡恒太郎

評価:星4つ

 着眼点がいい、リストラを請負う会社とは、また実にいいところに目をつけたもんだと、まずはそのアイデアに感心した。
テンポもよい、相手に付け入る隙を与えない交渉術でリストラ候補の社員たちをばっさばっさと切り捨てていく主人公に惚れました。
大人の恋愛小説としても十分楽しめる。器用なのか不器用なのか十分に恋愛の怖さをしっている男女のかけひきにニヤリ。
 登場人物たちも個性豊かで魅力的、「すべての社会人に捧げる」の宣伝文句も納得の完成度の高いエンタメ作品。
 しかし、あえて一点だけ苦言を述べさせてもらえるならば、作品のところどころに顔を覗かせるコレデモカ感がやや鼻に付いた。
たとえば、名古屋の娘が登場すれば実家はみそカツ屋、その上エビフライ、手羽先、天むすまでもがコレデモカ!とそこらを飛び交う。
主人公も充分個性的で魅力的なのに、さらに単車の腕までもプロ並みにしたりする。
 完成度が高いからこそ、その辺りはさり気なくあってほしかった。

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三浦英崇

評価:星5つ

 転職が常態になっている業界に勤めていても、今までの同僚が辞めていくのには、なかなか慣れません。ましてやそれがリストラだったりした日にゃ……

 幸い今のところ、辞めさせられた経験はありませんが、俺くらいの年齢になると、いつ降りかかってくるか分かりませんし。しかも、それが自社の人事から言い渡されるんじゃなく、外部のリストラ請負会社から、ぽん、と肩を叩かれるなんてのは……めまいするね。

 で、あらすじと帯を見て、穏やかじゃない気分で読み始めたこの作品。悔しいけど、面白いです。リストラは本来、会社制度と社員のリストラクチュアリング(再構築)のために行われるっていう基本原則を改めて考えさせられました。

 そして、ほぼ同年代の主人公・村上真介の、理と情と愛と夢と理想と希望をいっしょくたにして進める仕事ぶりは、最近疲れてばっかで楽しいことがない俺に、大きな刺激を与えてくれました。ありがとう。俺も頑張るよー。

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横山直子

評価:星5つ

タイトルにドキリとする。明日はない?ないっってどういうこと?
リストラ話なのだ。主人公はちょっとイケメンの33歳、真介。
彼がリストラ請負人で、一日数人のノルマをこなす。仕事ぶりは、見た目そのままのスマート&ストレート。
リストラ対象者との面接では、相手の出かたをしっかりと見極めて話を進める。
感情的に迫られようがどうしようが、理路整然と説得し、自己都合退職への誘導をする。
「やなもんだ。」とため息をつくものの、なぜかこの仕事に愛着を感じているのだ。
 そんな彼が面接を担当した八歳年上の女性に好意を持つ。彼女は自分の仕事に誇りを持っている建材メーカーの課長代理だった。
この出会いからストーリーが断然面白くなってくる。
面接で奇しくも旧友に出会ってしまった時の彼の態度にはジンときた。
彼が北海道出身で、懐かしく故郷を思い出す時、あの日があるから今日の彼があるんだなぁとしみじみ思う。
いろんな出来事に直面しても持ち前のバイタリティーで日々をかっ飛ばしていく彼の姿が実に好感度が高く、読後の爽快感がなんとも言えない。

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