『四つの雨』

四つの雨
  • ロバート・ウォード(著)
  • ハヤカワ・ミステリ文庫
  • 税込798円
  • 2007年8月
  • ISBN-9784151770517
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  1. 君たちに明日はない
  2. 朱夏 警視庁強行犯係
  3. 銀座開化おもかげ草紙
  4. カラフル
  5. 怪魚ウモッカ格闘記
  6. 童貞小説集
  7. 終決者たち(上・下)
  8. 石のささやき
  9. スターダスト
  10. 四つの雨
鈴木直枝

評価:星3つ

 結局人生って、自分が蒔いた種の摘み取りをして生きるのね。そんなふうに思う小説だった。
 心理療法士という職があるのに冴えない主人公。何故なら、22年連れ添った妻は同業の人気療法士の元へ逃げ、仕事は下り坂。先の見通しが全然立たない。そんな時でもどんな時でも人は恋をする。12歳年下のウエイトレスを好きになるのだ。自分たちのバンドのボーカルとして迎えた彼女と新しい人生、輝いている自分を描こうとするが、立ちはだかる「お金がない」という現実。
 前半部分、章の終わりごとに彼の自らを鼓舞する独白が愉快だ。
 「奇跡を祈るしかない」「そうなのだ。大事なのは前向きに生きることなのだ」「又、頂上をめざせばいい」。
 だが、その決意も後半は、ずるずると蟻地獄の中にはまってしまう。なんてことだ。せっかく再起のチャンスだったのに。見返してやるんじゃなかったのか。
 人生一発逆転とか大器晩成とか棚から牡丹餅とか、願わないわけではない。特に人生八方塞がり?と思える状況下では。でも、誰もが忌み嫌う雑草ならまだしも、綺麗な花を咲かせるためには種まきや水やりや草取りといった面倒で地味な作業が必要。他人のふんどしで幸せを得ようなんて甘い甘い。
 楽して生きたい。そう思うことの浅はかさが身にしみた。

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藤田佐緒里

評価:星3つ

 主人公は心理療法士ボブ・ウェルズ。この人、もうどうしちゃったのかというくらいかわいそうというか痛い人です。夢もなくなってしまって妻にも逃げられて貧乏で孤独でその上酒におぼれている。本当にここまできたらもうどうしようもない人です。友達にすらなりたくない。そんなボブが、ジェシーという女性に出会って恋に落ちてしまう。それで安易なボブが考えたのが、お金を手に入れるためのある計画。
 ここまでどうしようもない人が主人公だと、なんだか途中でこの人をあきらめたくなってしまってきたのですが、スピード感のある書き口と浮かんだり沈んだりの展開が面白いせいで、最後まで一気に読んでしまいました。
 とても読みやすいノワール。主人公のだめっぷりも存分に楽しんでもらいたい一冊です。

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松岡恒太郎

評価:星3つ

 山もあり谷もあるからこそ人生は面白いのだと人は言うけれど、主人公ボブ・ウェルズに至ってはその起伏がナガシマスパーランドのホワイトサイクロンの如きでありました。
 心理療法士として五十を迎えたボブ。いつのまにか昔の仲間たちは皆それなりの社会的地位についたけれど、彼は自分の生き方を貫き一人市井に埋もれ診療を続けていた。
 充実した人生だと自分には言い聞かせていた、しかし決して幸せではなかった。そんな彼の目の前にある日、理想の女性が現れた。そこから彼は、人生の舵を大きく切り間違えてゆく。
 読み終えた僕の頭に浮かんできたのは『カタルシス』という単語。ホント言うと正確な意味など理解していないのだけれど、当たらずとも遠からずだという気がするし、何より格好よさ気だから、ここは思い切って使ってみようカタルシス。
 彼の人生に思いを馳せた時、僕の脳裏をよぎったものは、そうカタルシスだった。

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三浦英崇

評価:星3つ

 先月読んだ『雨恋』(松尾由美)は、雨の日にしか現れない幽霊に心ときめかす、素敵なゴーストストーリーだったのですが、お国が変わってアメリカとなると、どうしてこう、雨の持つひどく荒んで残酷な一面が強調されちゃうのでしょうか。

 50歳過ぎて、夢も希望もない生活を送っていたボブの前に、雨の日に現れた「天使」。彼女との出会いをきっかけに、人生の大逆転が始まったはずが……どうして出会ってしまったんでしょう、というくらい、凄まじい勢いで転落していく彼と彼女。人生の墜落地点に到達するたびに、降りしきる雨がとても印象的です。

 帯では「最強中年作家陣が大絶賛!!」と熱く語ってますが……こんな破滅願望に満ち溢れた作品を絶賛する彼らは、身の内に何か、そういう気持ちがあったりするのでしょうかね。そして、そんな気持ちが分からなくもない自分が、とても怖いです。

 一発逆転なんて、人生にはまず無いと思って生きた方がいいですね、つくづく。

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横山直子

評価:星4つ

「人生を無駄にした?この町のヒーローなのに?こんなに他人のために尽くしてきたのに?」
50歳過ぎた男の悲哀の叫びが胸に迫る。
心理療法士ボブ・ウェルズ、彼は実直な人柄と仕事ぶりはそこそこ認められるものの、私生活では妻に逃げられ、生活レベルもきわめて低かった。

そんな彼の前に現れたジェシー。
彼女との夢のある将来のためにと、彼は一大決心の末、犯罪に手を染める。
そんな最中、彼はひょんなことからこれまでの善行が認められて、一躍ヒーロー扱いを受けるようになる。
あれよあれよという間に有名人になる一方、犯罪の付けが回ってきて、窮地に追い詰められる…。

まさに天国と地獄、ふり幅の激しいことこの上なく。
一気に読まずにはいられなくなる。
犯罪に身を染めながらも「誰かを助けられるときに、見て見ぬふりをしたら、それは罪悪だ」という父の言葉、「魂を失うくらいなら、死んだほうがましよ」という母の言葉を思い出す時おりボブ。
ただただ、せつないなぁ〜。

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