『私の男』

  • 私の男
  • 桜庭 一樹 (著)
  • 文芸春秋
  • 税込1,550円
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評価:星3つ

 以前、読んだ小説の中に「登場人物がみんな少しずつ不幸」になる小説を主人公が読む場面があり、「みんなが少しずつ不幸」になるってどういうものだろうと思ったことがあります。本書はまさにそれですね。少しずつ、ではないとは思いますけど。
 近親相姦と死体の出てくる話です。たぶん、今までの小説だとそうした異常な状態から抜け出すべく試行錯誤した結果、世界が開いてくるというのがセオリーだと思うのですが本書の場合、どんどん世界が閉じていきます。小説も現在から過去へと閉じていく過程が書かれています。そうした閉じていく世界の中で幸と不幸のやり取りが行われ、閉じているが故に、本来外に出て行くべき幸も不幸も留まり続けていく―とても哀しい小説だと思いました。

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『錏娥哢た』

  • 錏娥哢た
  • 花村 萬月 (著)
  • 集英社
  • 税込 2,310円
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評価:星4つ

 女忍者の、それも超美形でその上伝説の忍者というアガルタの活躍譚です。なんと天草四郎や徳川家康など豪華ゲスト出演の歴史大作です。
 いやあ、昔の場末みたいな雰囲気が全体に漂ってます。とにかくエロい!それにアガルタの悪女ぶりが際立っていて素敵。悪女はこうでないといけません。優しくも残酷でいつの間にか男を籠絡している。家光君なんかメロメロです。
 この小説の良さって、表と裏が入れ替わり続ける、ということ。味方が敵だったり、敵が味方だったり。事件の真相が思っていたことの裏だったり。その入れ替わりを最後まで、是非最後までお楽しみください。

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『ウォッチメイカー』

  • ウォッチメイカー
  • ジェフリー・ディーヴァー (著)
  • 文藝春秋
  • 税込2,200円
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評価:星5つ

 読み終わった後、家にある『ボーン・コレクター』を読みたくなりました。まだ課題本が何冊も残っているというのに。ぐっとこらえ、原稿を全部書き終わったら読もうと思っています。―というくらい面白い!
 こういう本を紹介するのはとても難しいです。内容を書こうと思うとネタバレになりかねないし、かといって緻密な構造が読者を翻弄する、と言ったところで面白くもなんともないでしょう。あ、新キャラクター登場です。その人物の活躍だけで一冊書けます!って次回作はそれらしいです…。
 とにかく、1ページ目を開いてみてください。あれよあれよという間に引き込まれてしまいます。

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『TOKYO YEAR ZERO』

  • TOKYO YEAR ZERO
  • デイヴィッド ピース (著)
  • 文藝春秋
  • 税込1,850円
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評価:星1つ

 終戦直後、占領状態にあった東京で起きた連続婦女殺人事件―小平事件を追う刑事たちの物語とその裏にうごめく闇。閉塞感が刑事たちの息遣いから伝わってきます。あとは現代では失われつつある汗臭さや泥っぽさ。真夏の、白くギラギラと輝く太陽の下であくせくしながら生きる人間のずるがしこさが目に浮かびます。
 でも、もう少しノンフィクションぽい小説かと思っていたんですけど、ね。小平事件の真相とか占領時代の日本の裏側とかの面白い話かと思っていたんですけど、ね。ミステリという割にはこれといったすごいトリックでもなく、延々と独白めいた文章が続くので正直食傷気味です。

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『灯台守の話』

  • 灯台守の話
  • ジャネット・ウィンターソン(著)
  • 白水社
  • 税込2,100円
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評価:星3つ

 百年前、二つの人生を行き来した牧師ダークの物語とその物語を語る灯台守に育てられるシルバーの物語です。
 人は生涯に一作くらいは小説が書けるものだと、その小説はつまり自分の物語であり自分の人生のことだ、と誰かが昔言っていました。誰かは忘れたけど。人はただ生きているのではなく、日々自分の物語を紡ぎながら生きています。その物語を言葉にできるかできないかは別にして。ダークの物語は灯台守に「語られる」物語であり、シルバーは自ら物語を語ろうとします。物語を語ることこそ、人生ってことじゃないですか!
 本書を読んでいるとき、いしいしんじの『麦ふみクーツェ』(新潮文庫)を思い出しました。本書を読んでよかった、という方はこちらもどうぞ。

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『英国紳士、エデンへ行く』

  • 英国紳士、エデンへ行く
  • マシュー・ニール(著)
  • 早川書房
  • 税込 2,625円
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評価:星1つ

 本書は、差別と偏見による人種間の争いを扱っていながら、同じ舞台でキリスト教的世界観と科学的世界観との争いも扱っています。宗教と科学はどちらかが正しいとかどちらかが優れているとかではなく、どちらもこの世界を説明するための形式の一つであって、それぞれが異なるシステムで世界を説明しているに過ぎません。だから宗教はただの迷信ではないし、科学もその力を過信してはいけないのではないでしょうか。同じく、人種についてもどの人種が優れているとか正統であるということはなく、それぞれが異なったシステムを持つ人類であると思います。
 しかし、どの時代に限らず、自分側が正統である優れていると勘違いしている人間は多いもの。そんな人間の滑稽さを、偏見による不幸を、差別の行き着く狂気を本書はイギリス人的なユーモアに包みながらも描いていると思います。
 でもそんなイギリス人的ユーモアに耐えられなくて…。

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『オン・ザ・ロード』

  • オン・ザ・ロード
  • ジャック・ケルアック(著)
  • 河出書房新社
  • 税込2,730円
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評価:星3つ

 厚い本なんですけど、読み始めると早いです。文章にスピード感があるからでしょう。十代の終わりから二十代の始めの毎日モヤモヤとしていたころに本書を読んでいたら、このスピード感が快感になっていたかも。あと、サルとディーンたちの不健全さに惹かれていたかもしれません。
 もう、すごい不健全!
 物語中、ずっーと車で旅をしているのですが、車上にないときはずっーとドラッグしてハイになってるか、酒飲んで乱痴気パーティをしてるか、女の子をナンパしてからんでるか。徹底して不健全。
 タイトル通り、彼らの旅は何かの途上で何を志向しているかといえば、おそらく自由を。しかし、自由であろうとすればするほど自由に縛られていませんか。自由への解放というよりもむしろ自由に束縛されていっているように思えましたけど、ね。

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下久保玉美

下久保玉美(しもくぼ たまみ)

 1980年生まれ、今のところ主婦。出身地は山口県、現在は埼玉県在住。
 ミステリーが大好きでミステリーを売ろうと思い書店に入ったものの、ひどい腰痛で戦線離脱。今は休養中。とはいえ本を読むのだけはやめられず、黙々と読んでは友人に薦めてます。
 好きな作家はなんと言っても伊坂幸太郎さん。文章がすきなんです。最近のミステリー作家の中で注目しているのは福田栄一と東山篤哉。早くブレイクしてもらいたいです。
 本という物体が好きなので本屋には基本的にこだわりがありません。大きかろうと小さかろうと本があればいいんです。でも、近所の小さい本屋にはよく行きます。
 どうぞよろしくお願いします。

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