『ゴールデンスランバー』

  • ゴールデンスランバー
  • 伊坂 幸太郎 (著)
  • 新潮社
  • 税込1,680円
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> 本やタウン

評価:星4つ

 首相暗殺の濡れ衣を着せられた男、青柳雅春が、その陰謀とどのようにぶつかり合うのか、果たして逃げ切れるのか? 青柳は、何年かぶりに学生時代の友達に呼び出され、「逃げろ! オズワルドにされるぞ」と言われる…。
 ちょっと現実味がないかなぁ、物語りに入れるかな、なんて思い、読み始めたのですが、そんな前言を撤回したくなるような緊迫感とリアルさで没頭してしまいました。500ページを超える長編ですが、中だるみ一切なし。このシーンで、ここまでの描写は必要あるのかなぁ? なんて思っちゃった部分が、実は重要な役割をすることとなったり…。伏線と緻密な構築で成された物語です。
 青柳のちょっとぬけたような性格と、逞しさ、青柳の旧友たちのキャラクターにも惹かれました。最後のシーンが胸に残ります。

▲TOPへ戻る

『ホルモー六景』

  • ホルモー六景
  • 万城目 学 (著)
  • 角川書店
  • 税込 1,365円
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> 本やタウン

評価:星4つ

 『鴨川ホルモー』の登場人物が主人公となった6編の恋物語。
読書家ならば、必ず読んでいるとされるくらい勢いのある『鴨川ホルモー』ですが、実はわたし、まだ未読でした…。一編目を読んで、はて、ホルモーとは? と知りたくてうずうずしてきたので『鴨川ホルモー』を購入して読んでから『ホルモー六景』を読みました。
 今さらですが、面白い! 今回の『ホルモー六景』も、類別できない恋物語です。スタッカートが効いているような文体に、はまってしまいました。「ホルモー系」という分野を興して、もっと続編を出してほしいです。

▲TOPへ戻る

『みなさん、さようなら』

  • みなさん、さようなら
  • 久保寺 健彦 (著)
  • 幻冬舎
  • 税込1,575円
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> 本やタウン

評価:星4つ

 80〜90年代の団地が舞台の物語。
 小学校を卒業し、中学校は不登校を決めた主人公。遊戯室、図書室、トレーニングルーム、郵便局、商店、病院など、なんでもある団地の中で一歩も出ずに暮らすことを決めます。団地内のケーキ屋で働き、団地の中で恋愛をして…。
 主人公が小学校を卒業してから30歳になるまでの17年間、同じ団地に住む107人の仲間は、どんどん減ってゆきます。淋しくなった団地をパトロールする主人公には、なんとも言えない風情を感じます。
 主人公が団地を出られなくなった理由は、衝撃的です。主人公の孤独を受け止め成長する様子に、読んでいる最中、なぜだか背中が丸まってしまいました。

▲TOPへ戻る

『雨の塔』

  • 雨の塔
  • ジョン・バンヴィル (著)
  • 新潮社
  • 税込1,995円
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> 本やタウン

評価:星2つ

 大金持ちの娘が集まるワケありの学園が舞台。
衣食住は思いのままでも、自由と情報が圧倒的に少ない空間で暮らす少女たち。
 登場人物が、わたしにはリアルに浮き上がってきませんでした。それは、オリエンタルな香りにつつまれた異空間の物語だからかもしれません。
 少女たちの家族に対する思い、過去の事件など、すべてが切なくて、彼女たちが笑っていても、底がすっぽりと抜け落ちているような虚無を感じてまいました。唐突に受ける雨のように淋しく、くもの糸のように細く透明な人間関係に、人間が心豊かに成長するためには、そう多くのものは必要ないのでは? とそんなことを思ってしまいます。

▲TOPへ戻る

『MM9』

  • MM9
  • 山本 弘(著)
  • 東京創元社
  • 税込1,680円
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> 本やタウン

評価:星1つ

 自然災害としての「怪獣災害」が起こる現代社会という設定。日本は有数の地震大国…じゃなくて怪獣大国となっている!
 映画も、「アクション好き」と「アクション見なーい」の2パターンに分かれていると思いますが、わたしは物凄く後者です。日常のスリリングさで、もうお腹いっぱい…な小心者なので、わざわざ暴力とか破壊とかを見たくない、なんていう腰の引けようだからです。
 そんなんだから、これはちょっとつらかったです。物語としては面白いのですが、怪獣という設定に性格上ついていけませんでした。

▲TOPへ戻る

『神なるオオカミ(上下)』

  • 神なるオオカミ(上下)
  • 姜 戎(著)
  • 講談社
  • 税込 1,995円
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> 本やタウン
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> 本やタウン

評価:星5つ

 謎のベストセラー作家と言われている著者の自伝的小説。25言語で翻訳されています。
文化大革命のさなかの内モンゴル草原が舞台。遊牧民と寝食を共にした11年間の実体験が描かれています。遊牧民が崇拝するオオカミの頭の良さ、強さ、その「オオカミ精神」は、民主化論へと繋がってゆき、後半には、漢民族や現体制への批判もあります。
 中国の発展と「オオカミ精神」を結ぶ考察に、ページをめくる手は止まりませんでした。
 硬い内容の本を読みなれていないわたしでも、どういうわけか抵抗なく読め、重厚な読み応えを得られました。

▲TOPへ戻る

『ナツメグの味』

  • ナツメグの味
  • ジョン・コリア(著)
  • 河出書房新社
  • 税込2,100円
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> 本やタウン

評価:星3つ

 17つの短編集。同じ人が書いたの? と思うほどに、わたしにとっては面白いと思うものとそこまで感じなかったものの差がありました。
 短い物語なのに、構成のうまさからどっしりとした読後感を得られます。得られるのですが…、なんというか、どすーんと暗い気持ちになってしまうこともしばしばです。しかし、ジョン・コリアの異世界な雰囲気に浸れることは間違いなしです。なんとなく、大人のおとぎ話のような雰囲気すらしています。

▲TOPへ戻る

望月香子

望月香子(もちづき きょうこ)

 1981年生まれ。一人前のライターを目指し、奮闘中です。静岡県出身、今は東京都豊島区在住です。好きな本のジャンルは、小説、書評、インタビュー、エッセイ。
 好きな作家は、山田詠美、小池真理子、花村萬月、桐野夏生、三島由紀夫、斉藤美奈子、本橋信宏など。忘れられない本はパール・バックの『大地』。チャレンジしたい本は九鬼周造の『「いき」の構造』。よく行く書店さんは、芳林堂高田馬場店、あおい書店高田馬場店、新宿紀伊國屋です。のめりこんでしまうような小説に出会い、それを読み途中の期間、その物語の主人公のような気分で生きてしまうという、ちょっと行き過ぎな没頭癖があります。

<< 松井ゆかりの書評