『雨の塔』

雨の塔
  • 宮木 あや子 (著)
  • 集英社
  • 税込1,260円
  • 2007年11月
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  1. ゴールデンスランバー
  2. ホルモー六景
  3. みなさん、さようなら
  4. 雨の塔
  5. MM9
  6. 神なるオオカミ(上下)
  7. ナツメグの味
佐々木克雄

評価:星2つ

 うう〜ん濃密ぅ。採点員じゃなかったら、出会うことはなかった本だなぁ。
 舞台は学生寮なる閉ざされた空間。個々の事情を抱えた四人の乙女たちが、友情の一線を越えそで越えない微妙な関係に……。そこに垣間見えるのはエロスよりも、四者それぞれがたぐり寄せようとする、もつれまくった情の糸だ。それがまあ、濃い濃い濃い。
 風景は彼女たちの内面と反して爽やか。海沿いの立地、螺旋状の階段、設定は日本だが、南欧の美しい島をイメージしてしまうくらい、青と白の色が浮かび上がってくる。
 でもね、これは技法的な話になってしまうけど、本文全体は三人称で記述されているのに、ときおり現れる四人それぞれの「語り」が入り乱れてたり、主語がなかったりするから読みにくくて仕方がない。悪い文章のお手本みたいな箇所が多くて何度も読み返してしまった。それさえなければ独特の世界観を楽しむことができたのになあ、残念。

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下久保玉美

評価:星2つ

 寄宿舎って憧れませんか?「小公女」とか「あしながおじさん」などハウス世界名作劇場を見て育ったせいなのか寄宿舎とか寮とかっていうと、「苦労はあったけど最後はこの学校に入ってよかった、みんな友達ね!」みたいな素敵な学園生活を想像してしまいます。本書もある大学の寄宿舎が舞台で、通うのは上流階級のご令嬢方。
 しかし、私の冒頭の甘美な幻想は儚くも崩れ去りました。寄宿舎というのは親元から離れるのと同時に「籠の鳥」になるということでもあります。登場人物たちである4人の女性(大学生なんだから少女とは言えないでしょう!?)も様々な理由で、この寄宿舎に囚われる籠の鳥になっているわけです。自分たちの境遇を誰よりもわかっているからこそ、自由を求めるわけでもなく次の籠に入れられるまで淡々と過ごす日常。そこに起きる事件と崩壊。自由を得るためには代償が必要であり、代償を払わない以上は現状を受け入れる。どこか滑稽で、しかし物悲しくもあります。
 でもねえ、18や19歳の子が「中学生日記」みたいなことをしているのは、どうにもチグハグ感が。これが中学生とか高校生なら…。
 辺鄙で周囲とは孤立した寄宿舎と言えば恩田陸の『麦の海に沈む果実』(講談社文庫)も。こっちも事件が当然起きます。

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増住雄大

評価:星4つ

 独特な空気を持つ作品だった。甘く、すえた匂いが満ちているような。今日が永遠に終わらないような。このまま一生どこにも行けないような。そんな空気。
 主人公である四人の美しい少女たち(大学生)は、外界から隔離された塔に住んでいる。それぞれに事情を抱えて。お互いに無関心を装い、適度な距離を保っていたはずが、ある出来事により四人の関係はそれぞれに変わり始める……。
 空気に、やられた。
 読んでいる最中、私もどこかに閉じ込められてしまったかのように錯覚した。それはとてもくるしかった。けれど、嫌ではない。現状にとりあえず不満はない。新しいことを始めてみようとは思わない。諦めているのだ、と思う。心の奥底では、何かが澱んでいる気がする。
 自分では気付かないけれど、弱っているのだ。そんなとき、近くにいる人に優しくされたら、もっと優しくされたい、私だけを見て欲しい、と思うのは、自然な感情だろう。
 どっぷりと感情移入して、本気で胸がつまる少女小説だった。

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松井ゆかり

評価:星4つ

 男子が男子校に対してどのような感慨を抱くのか、あるいは他の女子が女子校に対してどのような感慨を抱くのかはわからないが、私の個人的な印象としては女子のみが集う学校(寮が併設されていればなおのこと)には甘美なイメージがつきまとう。自分が幼い頃、女子同士の間に発生する悪意や嫉妬といった負の感情にさんざん翻弄されたというのに。
 まあ、この小説で描かれる学校の場合はまた特殊であろう。なにしろとびきり裕福な家の娘のみが入学を許される。正直、主人公である4人の少女たちが抱える悩みそのものは私にとってはいまひとつピンとこないものだ。しかしながら彼女たちが苦悩すること自体は、非常に近しく感じられるものでもあった。なぜなら10代の心が内包する危うさは(さほど深刻なものではなかったにせよ)、自分もまた通り過ぎてきた道に存在したものだからだ。
 誇り高い彼女たちがべたべたとした呼びかけ方ではなく、「矢咲」「小津」と名字で呼び合っているのが清々しく思われた。

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望月香子

評価:星2つ

 大金持ちの娘が集まるワケありの学園が舞台。
衣食住は思いのままでも、自由と情報が圧倒的に少ない空間で暮らす少女たち。
 登場人物が、わたしにはリアルに浮き上がってきませんでした。それは、オリエンタルな香りにつつまれた異空間の物語だからかもしれません。
 少女たちの家族に対する思い、過去の事件など、すべてが切なくて、彼女たちが笑っていても、底がすっぽりと抜け落ちているような虚無を感じてまいました。唐突に受ける雨のように淋しく、くもの糸のように細く透明な人間関係に、人間が心豊かに成長するためには、そう多くのものは必要ないのでは? とそんなことを思ってしまいます。

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