『リピート』

リピート
  • 乾くるみ (著)
  • 文春文庫
  • 税込790円
  • 2007年11月
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  1. リピート
  2. 裏ヴァージョン
  3. 袋小路の男
  4. 乱世疾走 禁中御庭者綺譚
  5. とせい
  6. 神州纐纈城
  7. 古時計の秘密
  8. 幼年期の終わり
  9. 脱出記
  10. キューバ・リブレ
荒又望

評価:星3つ

 現在の記憶を保ったまま、過去のある時点に戻って人生をやり直す「リピート」。大学生の「僕」をはじめとする9人がその機会を与えられ、10カ月前の世界に降り立った。
 過去に戻って、もう一度やり直せたら。誰しも一度は、そう願ったことがあるはず。あの時は失敗したけれど、今度はうまくできる。あの時は選ばなかったものを、今度こそ選んでみせる。もしも戻れるのならば―。
 そして本当に戻ることができた幸運な者たちの物語、のはずなのだが、これが羨ましいとばかりもいっていられないのだ。なにしろ10カ月前に戻ったとたんに、人生をやり直すどころか、1人また1人とこの世からいなくなってしまうのだから。
 予測不能なストーリーに振り落とされないようについていくのも、もちろん面白い。でもそれよりも、もし自分がリピートできるとしたら、を考えるのが面白い。さあ、今度はどう生きる? しかし現実には、時を遡るなんて到底不可能。だから後悔することもたくさんあれば、消してしまいたいこともたくさんある。でも、一回勝負だからこそ、やり直しがきかないからこその人生なのではないか。と、ついつい白熱してしまう。
 あなたは、本当に本当に本当に、リピートしたいですか?

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鈴木直枝

評価:星4つ

 あれもやっていない、これも半端だ…年の変わり目に恒例行事のように繰り返してしまう後悔。本書は、もう少し時間があったら、あの時に戻れるのなら…という時間への意識をSFという形を借りて猛省させられた佳作だ。
 たった1本の電話が、「退屈な日常から自分を連れ出してくれる」と思うほどに、単調な日常を過ごしていた大学生がいた。電話口で「1時間後に地震が起こる」と予言され、その当りに驚く間もなく「過去の時間に戻る旅行」に勧誘されたら、悩む、惑う、躊躇うこと100ページ分。引っ張りすぎという感はあった、かな。
 旅に道連れは必須事項。時間旅行の同行者は、電話番号を適当に選んでかけただけが縁の10人。OL、トラック運転手、シナリオライター…それぞれの時間に対する価値の多様が、彼らの「もう一度生きるならこんな人生」に、「自分なら」と置き換えて想像しては、危機が迫る度にどぎまぎしてしまった。真面目に勉強?いい学校?いい会社?万馬券?ジコジツゲン? 生き直すこと=理想の人生、ではないのかもしれない。哀しい終末が胸を打つ。

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藤田佐緒里

評価:星3つ

 たとえばもし、過去に戻って、自分の過去のどこかの部分をやり直せるとしたら、私は、あの夜、をやり直したい。あの夜は私にとって、恥も外聞もなくただその男を好きだ、という気持ちに終始したがゆえの致命的な失敗がもたらした、とんでもなく不幸な一夜だった。あの一夜を越えずに今を生きていられたら……。
 などと書くと少しセンチメンタルな気分だが、この小説の場合、設定は上記とほぼ同じなのに、そんなセンチメンタルはまったく感じさせてくれません。何しろ展開が速い速い。浸っているひまなんかありゃしません。その速さがたまらなく気持ちがいい。
 過去に戻れる「ツアー」の参加者として選ばれた主人公たち。突然の電話に半信半疑のまま、しかし話はどんどんすすんでいく。そしてそこに集った主人公たちは、次々に死んでいくのである。「そして誰もいなくなった」……?
「過去に戻ることができる」というありきたりな設定だけに留まらず、そこに高度なミステリー要素を加えてきた、伏線に非常に優れたエンターテイメント小説だ。『イニシエーション・ラブ』のときも、読み終えて、読み返したくなったが、この作品も読み返した。こういう種類の小説は珍しくて好きです。

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藤田真弓

評価:星5つ

 現在の記憶を持ったまま9ヶ月前の自分の体に戻り人生をやり直せるという「リピート」。
この不思議な時空体験に誘われ、10人の男女が人生をやり直す。だが、次々に彼らは謎の死を遂げていく。一体、誰が?なんの目的で?残された仲間は、疑心暗鬼になりながらも次のリピートの日に向けて、なんとか生き抜こうと力を合わせるのだが……。
 「過去の人生をやり直せば、ハッピーになれる」という願いが叶わないところにタイムトラベル物の面白さがある。やり直すということは、新しい選択肢を自分でつくることだ。つまりそこに新たな後悔や失敗が生まれる。結局やり直しきれない部分が出てきて、その対応に追われる主人公の姿をリアルに書いている。ここが小説に引き込まれる楽しさを味わえるところだった。しかも、「リピート」には乾くるみさんならではの仕掛けがきちんと用意されている。これ以上書くとネタばれしそうなので書かないが、とにかく納得のいく「オチ」がある。今の人生を後悔しないようにしようかな、と思わせるだけの力はある……かも。

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松岡恒太郎

評価:星4つ

 絶賛している帯の文句を横目に「こちとら『イニシェーション・ラブ』で乾作品には免疫ができているんだからな、そうそう驚かされてたまるかよ!」と読み始めたこの作品、ああそれなのにそれなのに。
そりゃもう最初から、あちらこちらに気を配り、細心の注意を払いつつ、考えを巡らしながら読み進めたにもかかわらず、気づけばまたしても著者の術中にはまっている自分がいた。
 しかし上手い。矛盾のループに陥りやすいタイムトラベル小説でここまで完璧にストーリーを組み立て、読者を欺き、再読したくなる物語と言う称号もきっちり守り抜くとは。
まったくもって、恐れ入谷の乾さんである。
 十ヶ月前からもう一度人生をやり直してみませんか?信じがたい誘いに乗ってしまった十人を待っていたのは、はたしてどんな二度目の人生だったのか?
名作『リプレイ』のオマージュとして書かれた、傑作タイムトラベルミステリー小説ここに登場。

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三浦英崇

評価:星5つ

 今の記憶を抱えたまま、十ヶ月前に戻れるとしたら……確かに、金銭面で大いに人生を変えることはできるでしょう。俺は現在、会社でロトとナンバーズの携帯サイトを運営しているのですが、当選金が高くて当選者が少ない回の当選番号を覚えておくだけで、楽に余生を過ごせるでしょうし。でも、それくらいしかメリット浮かばないですね……

 例えば、人間関係の失敗を取り返そうと思っても、たかだか十ヶ月程度ではどうにもならないだろうし。この作品のように、なまじっか後悔しないように先回りして手を打ったばかりに、前より更に悪い状況に陥ることもある訳だし。そのうえ、過去には起こっていない連続殺人にも巻き込まれると来た日にゃ。

 「過去に戻って人生やり直せます」という、一見、いいことづくめな設定で、これだけ悪意に満ち溢れた展開を生み出す作者の手腕に感嘆しました。美味しいけど怪しすぎる勧誘電話には、くれぐれも気を付けようと思います。

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横山直子

評価:星5つ

 「時をかける少女」に「タイム・トラベラー」や「なぞの転校生」…。
はるか昔に夢中になって見たテレビや映画が鮮やかによみがえってくる。
あの謎の渦、ごっそりと束になって歩いてくる学生たち、なんだかぞわぞわしてきたぞ。

今回は黒いオーロラのようなものが出現、そして現在の記憶を持ったまま、10ヶ月前の自分に戻れると言う。
しかしその10ヶ月が半端だなぁと大いに疑問を持ちながら読む。
仮に自分が過去に戻れる仲間の一人に選ばれたとしてもなぁ、大して変化はないやなぁなんて思いつつ…。
しかし、人生のやり直しをしたはずに思えた男女10人が過去に戻ってから次々と不審な死に遭遇するあたりから、どんどん小説の世界にのめりこんでいく。
次々に明かされる真実に、「こりゃあ、大変」と思いながら、ページをめくる速度が速くなる。
そしてその真実の全容を知った今は、まさにリピートしたくなる面白さを実感!
もちろん、今回は二度読みしましたとも。

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