『MM9』

MM9
  • 山本 弘(著)
  • 東京創元社
  • 税込1,680円
  • 2007年12月
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> 本やタウン
  1. ゴールデンスランバー
  2. ホルモー六景
  3. みなさん、さようなら
  4. 雨の塔
  5. MM9
  6. 神なるオオカミ(上下)
  7. ナツメグの味
佐々木克雄

評価:星4つ

 努めて「普通」を装ったSFって、現実世界とスンナリ適合するか、もしくは思い切り乖離して笑えるかのどちらかだろう。それでいえば本作は後者であって、当たり前のように存在している「気象庁特異生物対策部」の苦闘ぶりったら、特に第四話「密着! 気特対24時」でテレビ取材クルーに翻弄される彼らにプププと吹き出してしまった。可笑しいな。愉快だな。
 日本に襲来する怪獣たちの対策を練る公務員。普通に任務を果たそうと努力する彼らが愛しくなってくる。でも怪獣は上野の博物館を目指して飛んでいったり、神戸ポートアイランドで死闘を繰り広げたりするわけで、ズレっぷりがたまらない。
 それでいながら荒唐無稽さを感じさせないのは、あらゆる科学、非科学を蘊蓄として盛り込んだ、ディティールのこだわりによるものだろう。あとで分かったが、著者は「と学会」会長さんだったのですね。納得。これはもう、素直にSFを楽しんだ方がいいです。

▲TOPへ戻る

下久保玉美

評価:星3つ

 さすが「と学会」会長。描いているのもトンデモない!
 本書は「ウルトラマン」と「踊る大捜査線」が合体したような小説です。日本を救うためにすぐに怪獣を倒したいんだけど自衛隊とか関係機関に連絡して協力を仰がなければいけないし、怪獣の接近予報を出さないといけないけどその予報が外れたり、当たっても怪獣の被害が大きいとすぐにマスコミに叩かれるし。「正義の味方」なんて表面上は持ち上げられるけど陰では「金食い虫」とか言われてるんだろうし。きっと「科学特捜隊」も国家公務員だろうから華々しい活躍の裏にはこんな苦労があるんだろうなあ、としみじみ思います。
 しかしただの怪獣小説にしていないところが山本弘の「と学会」会長たるところ。怪獣という現実の物理法則で存在しえない物体を考察もなしに登場させるなんてバカなマネはしません。怪獣が存在するための物理法則を説明しています。そういう部分があるからこそ、本書は怪獣小説とはまた一味違ったSFになっています。娯楽小説としてお楽しみください。
 *「と学会」とは「トンデモない」本を笑い飛ばす集団。「トンデモない」本とはUFOとか超科学とか大予言とか著者からすれば「衝撃の真実!」だけど冷静にはたから見れば笑っちゃうような本のこと。例えば矢追純一とか。でも、最近矢追純一もただのUFO好きなおっさん扱いされて可哀想。昔はもう少し威厳があった(ような気がする)のに。

▲TOPへ戻る

増住雄大

評価:星3つ

『図書館戦争』シリーズ−激甘恋愛+怪獣≒『MM9』
 上記の公式は、そこまで的外れなものでもないように思う。作品の舞台は今の日本ととても似ているが、一つ大きな違いがあった。それは、自然災害の一つとして「怪獣」が存在する、ということ。迫り来る怪獣の脅威に立ち向かえ! 気象庁特異生物対策部!
 というわけで、怪獣の出てくるSFです。少年時代にリアルタイムでウルトラマンやゴジラを見てこなかった私としては、怪獣というと真っ先に『空想科学読本』を思い浮かべてしまうのですが、本書はそれ対策もばっちり。なんと「怪獣」は「神話宇宙」の生き物だから、私たちが知っている物理法則は適用されないのです。だからどう考えても自重を支えきれないフォルムでも全然OK!
 バカバカしいことを大真面目にやる面白さ、みたいなものを感じました。先行の怪獣作品へのパロディがたくさんあり、怪獣愛にあふれた作品。最終話のオチが大好きです。
 あ、『図書館戦争』よりむしろ『海の底』に似ているかもしれないな……

▲TOPへ戻る

松井ゆかり

評価:星3つ

 バカミスというものがあるのだから、バカSFがあってもいいわけだ。最終章、敵対勢力と思われた集団の正体が判明したときの脱力感は相当のものだった。
 しかしこれはけなして言っているのではない。いや、それどころかむしろすごい娯楽小説だと思う、この本は。山本さんの著作は「神は沈黙せず」を読んだことがあるが、たいへん厚く情報量も膨大という二重の意味で超重量級の作品だった。そんなわけで本書も身構えて読み始めたのだが、まさにエンターテインメントと呼ぶにふさわしい。
 最近のウルトラマン世界などにおいては、「宇宙人には宇宙人の事情がある」「すべての怪獣が敵なわけではない」といったエイリアンに対してなんとか友好的な妥協点を見つけようという風潮があり、「時代は変わったなあ…」と思わされることも多いのだが、その辺のポイントもばっちり押さえてある。続編が書かれそうな気配もあるし、まだまだ楽しませてもらえそうだ。

▲TOPへ戻る

望月香子

評価:星1つ

 自然災害としての「怪獣災害」が起こる現代社会という設定。日本は有数の地震大国…じゃなくて怪獣大国となっている!
 映画も、「アクション好き」と「アクション見なーい」の2パターンに分かれていると思いますが、わたしは物凄く後者です。日常のスリリングさで、もうお腹いっぱい…な小心者なので、わざわざ暴力とか破壊とかを見たくない、なんていう腰の引けようだからです。
 そんなんだから、これはちょっとつらかったです。物語としては面白いのですが、怪獣という設定に性格上ついていけませんでした。

▲TOPへ戻る

<< 課題図書一覧>>