『神なるオオカミ(上下)』

神なるオオカミ(上下)
  • 姜 戎(著)
  • 講談社
  • 税込 1,995円
  • 2007年11月
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  1. ゴールデンスランバー
  2. ホルモー六景
  3. みなさん、さようなら
  4. 雨の塔
  5. MM9
  6. 神なるオオカミ(上下)
  7. ナツメグの味
佐々木克雄

評価:星5つ

 このような「小説を超えた『何か』」を持った作品に出会えると、魂が震える。
 話そのものはシンプル。文化大革命時、内モンゴルの草原に赴いた青年がオオカミに惹かれ、一匹の子オオカミ「小狼」を飼う──これだけだと「カルピス名作劇場」なのだが、連綿と綴られる遊牧民の日々が、それはもう、ひたすら濃密で写実的で釘付けになる。オオカミたちが羊や馬を狩る凄絶なシーン、遊牧民が子オオカミを天に高々と放って落下死させる場面など、あまりに鮮烈すぎて夢に出てきた(←こんなコトはじめて)くらいだ。
 33年かけて作り上げた大作には、遊牧民と農耕民の相克が主人公(=作者)によって語られている。その考察は下巻に詳しいが、東京に押し寄せる黄砂までもが本書に繋がっていると気付いたとき、軽い目眩を感じてしまった。
 上下巻で計1000ページは読了に一週間を要したが、至極幸福な一週間でもあった。

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下久保玉美

評価:星3つ

 「シートン動物記」内モンゴル版。文化大革命時、都会から下放した青年が内モンゴルの人々や風俗、そして自然に出会うことで自分や中国に必要なものや特にオオカミからは生きる指針まで教わります。
 やっぱり圧巻はオオカミとの攻防戦。内モンゴルの人々はオオカミを神のように崇拝する一方で、やはり自分たちの生活を守るためにはある程度は戦わざるをえません。人間の知恵とそれを上回るかのようなオオカミの知恵との息詰まるぶつかり合いはここだけでも読み応えがかなりあります。また内モンゴルの人々の風習、全ては天から与えられているものであるので人間の勝手でそのバランスを崩してはならない、次の世代のために取り過ぎてはならないというのは現代の過剰生産過剰消費の私たちの生活を反省を促しています。
 面白い小説なんですけど、どうしても主人公の優柔不断な性格が許せないのです。

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増住雄大

評価:星5つ

 文化大革命の際にモンゴルのオロン草原に下放された知識青年が、現地の遊牧民の生活とオオカミに魅せられてゆく物語。時代が進むにつれ、その素晴らしい環境は……。
 ストーリー展開はもちろん、思索的な部分もとてもおもしろい。著者の実体験を元にしているそうで、ディテールが細かく、興味深く、これもまたおもしろい。
 上下巻で累計すると1000ページを超える大長編だけれど、活字の組み方がゆったりしているので、読んでいけば第一印象ほどの重たさは感じない。文章も内容もそんなに硬くなく、意外とすらすら読めてしまう小説である。
 背景知識は、なくても大丈夫。世界史未履修の私でも楽しめたので。というわけで読もうかどうか迷っている人には、とりあえず手にとって読み始めてみることを薦めます。きっと最後まで読んでしまうと思いますよ。

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松井ゆかり

評価:星4つ

 上下巻ということで躊躇しているあなた。ぜひお読みなさい、下巻がすごいから。上巻を読みながら挫折しそうになってるそこの人。ぜひそのままお進みなさい、下巻がすごいから(上巻からおもしろく読めた人は言わずもがな)。
 小学生時代に2歳下の弟とともにシートンや椋鳩十および戸川幸夫に親しんだ身で、カタルシスに満ちた動物ものを期待していたため、前半はその淡々とした展開に面食らった。だいたい私の記憶にある限り上記の作品で描かれる動物は基本的に敵対する存在で、この本のように崇拝の対象ではなかった気がする(もちろん前者においても“敵ながらあっぱれ”という記述もあったし、後者においてもオオカミ狩りで対立する場面もあったのだが)。
 それにしてもこのような真面目な作品がベストセラーとなるところに中国のすごさを感じた(まあ、もともとの人口が多いのだから“1800万人が読んだ”といっても日本の感覚とは違うのかもしれないが)。主人公たちが自分の国の歴史や未来について真摯に語る様子に背筋が伸びる思いである。
ほんと、ケータイ小説ばっか読んでちゃだめじゃん?

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望月香子

評価:星5つ

 謎のベストセラー作家と言われている著者の自伝的小説。25言語で翻訳されています。
文化大革命のさなかの内モンゴル草原が舞台。遊牧民と寝食を共にした11年間の実体験が描かれています。遊牧民が崇拝するオオカミの頭の良さ、強さ、その「オオカミ精神」は、民主化論へと繋がってゆき、後半には、漢民族や現体制への批判もあります。
 中国の発展と「オオカミ精神」を結ぶ考察に、ページをめくる手は止まりませんでした。
 硬い内容の本を読みなれていないわたしでも、どういうわけか抵抗なく読め、重厚な読み応えを得られました。

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