WEB本の雑誌>今月の新刊採点>【単行本班】2008年1月>松井ゆかりの書評
評価:
伊坂幸太郎の作品について、私などが何を語ることがあるだろう。今さら「素晴らしい」とか「読め」とかあえて言う必要もないと思われる。以下に書くことは余談ととっていただければと思う。
・もちろんこの小説がジョン・F・ケネディ大統領暗殺に着想を得ていることは誰の目にも明らかであろうが、私自身は本書を読んで赤川次郎著「プロメテウスの乙女」(個人的には赤川氏のベスト作品だと思っている)を連想した。主人公青柳の置かれた困難な状況が、「プロメテウス〜」の登場人物のひとりが陥る苦境のようだったからだ。
・「『朝の連続テレビ小説の内容によって、放映直後のニュースに映るNHKアナウンサーの表情が一喜一憂して見える』というのは誤り。ドラマの内容はモニターされていない」という事実を思い出した(特に第二部を読んだときに)。人間がいかに先入観によって無意識に印象をねじ曲げるか、背筋の寒くなる思いだった。
あ、あともうひとつあった。・そうは言ってもやはりお茶碗についたご飯粒は残さず食べた方がいい。
評価:
全国一億三千万人のホルモーファン諸氏(数字には潜在的ファンやこれからファンになる可能性を有する人も含まれています)、あのホルモーが帰ってきた! とはいえ本書では、ホルモーはあくまで各短編の主人公たちの結びつきを示すキーワードである。そう、今回描かれているのは彼らの恋模様なのだ。
これはぜひ、あの不朽の名作「鴨川ホルモー」をお読みになったうえで手に取っていただきたい。もちろん予備知識なくとも楽しめる短編もあるが、「鴨川〜」を読んでいればおもしろさは天井知らず。どの作品もいいのだが、特に心を打たれたのは「ローマ風の休日」と「長持の恋」。とりわけ後者は号泣必至。
というわけでホルモーファン諸氏(&さだまさしファンの皆様。あの曲は名曲ですよね)、必ず読むべし。
評価:
フィクションとしてみれば、愉快で痛快で爽快な話と言えよう。あるいはもしも現実に主人公悟のような引きこもりがいたら、それは“本物”というか、このような境遇でもうまく生きていくことができる存在なのだろう。実際は悟のようにいかないからこそ、引きこもった人々は苦しんでいるのだと思う。
悟は中学入学の年以降、団地から一歩も出ずに過ごしてきた。それには驚くべき事情があったことが途中でわかるのだが、それにしても悟の日常は概ね波風なく過ぎているように思える。
私がこの小説でいちばん引っかかったのは、悟の母親の心情がほとんど語られないことだ。この物語は悟の目線で語られており、そうであれば自分が避けたい話題は語らずに済むわけで、母親があまり出てこないからと言ってその点を批評されるいわれはない。しかしながら、息子のしたいように行動させる包容力とそれでも決して迷いがないわけではなかったであろう心の内を知りたかった。
評価:
男子が男子校に対してどのような感慨を抱くのか、あるいは他の女子が女子校に対してどのような感慨を抱くのかはわからないが、私の個人的な印象としては女子のみが集う学校(寮が併設されていればなおのこと)には甘美なイメージがつきまとう。自分が幼い頃、女子同士の間に発生する悪意や嫉妬といった負の感情にさんざん翻弄されたというのに。
まあ、この小説で描かれる学校の場合はまた特殊であろう。なにしろとびきり裕福な家の娘のみが入学を許される。正直、主人公である4人の少女たちが抱える悩みそのものは私にとってはいまひとつピンとこないものだ。しかしながら彼女たちが苦悩すること自体は、非常に近しく感じられるものでもあった。なぜなら10代の心が内包する危うさは(さほど深刻なものではなかったにせよ)、自分もまた通り過ぎてきた道に存在したものだからだ。
誇り高い彼女たちがべたべたとした呼びかけ方ではなく、「矢咲」「小津」と名字で呼び合っているのが清々しく思われた。
評価:
バカミスというものがあるのだから、バカSFがあってもいいわけだ。最終章、敵対勢力と思われた集団の正体が判明したときの脱力感は相当のものだった。
しかしこれはけなして言っているのではない。いや、それどころかむしろすごい娯楽小説だと思う、この本は。山本さんの著作は「神は沈黙せず」を読んだことがあるが、たいへん厚く情報量も膨大という二重の意味で超重量級の作品だった。そんなわけで本書も身構えて読み始めたのだが、まさにエンターテインメントと呼ぶにふさわしい。
最近のウルトラマン世界などにおいては、「宇宙人には宇宙人の事情がある」「すべての怪獣が敵なわけではない」といったエイリアンに対してなんとか友好的な妥協点を見つけようという風潮があり、「時代は変わったなあ…」と思わされることも多いのだが、その辺のポイントもばっちり押さえてある。続編が書かれそうな気配もあるし、まだまだ楽しませてもらえそうだ。
評価:
上下巻ということで躊躇しているあなた。ぜひお読みなさい、下巻がすごいから。上巻を読みながら挫折しそうになってるそこの人。ぜひそのままお進みなさい、下巻がすごいから(上巻からおもしろく読めた人は言わずもがな)。
小学生時代に2歳下の弟とともにシートンや椋鳩十および戸川幸夫に親しんだ身で、カタルシスに満ちた動物ものを期待していたため、前半はその淡々とした展開に面食らった。だいたい私の記憶にある限り上記の作品で描かれる動物は基本的に敵対する存在で、この本のように崇拝の対象ではなかった気がする(もちろん前者においても“敵ながらあっぱれ”という記述もあったし、後者においてもオオカミ狩りで対立する場面もあったのだが)。
それにしてもこのような真面目な作品がベストセラーとなるところに中国のすごさを感じた(まあ、もともとの人口が多いのだから“1800万人が読んだ”といっても日本の感覚とは違うのかもしれないが)。主人公たちが自分の国の歴史や未来について真摯に語る様子に背筋が伸びる思いである。
ほんと、ケータイ小説ばっか読んでちゃだめじゃん?
評価:
なんというか、あまり体験したことのない読後感だった。本書には17の短編が収められているのだが、「おお、こういうオチか!」とはっきりわからないものがある(「おまえの頭が悪いだけだろ!」というご批判があれば甘んじて受ける所存である)。「たぶんこういうことだよな…?」といまひとつ自信が持てないままに終わってしまう作品がほとんどなので、なんとなく高揚感が少ないのだ。
また、ブラック一辺倒の作風かと思いながら読み進むと何やら前向きさを感じさせる描写などもあるし(特に「船から落ちた男」)、ますますとらえどころのなさが際だつ。とはいえ、表題作など(北村薫「謎のギャラリー」にも収録)のようながつっと恐るべきインパクトがある作品にはやはり唸らされた。妙に気にかかる作家ではある。
読んで損はありません。だって悶絶がスパイラルするんですよ! (←意味不明)
本書は三浦さんが週一でホームページに掲載されていたエッセイをまとめたもの。現在更新が中断している状態なので、この本を逃したらしばらく新刊という形では読めないだろう。
三浦しをんという作家の魅力をあげたらきりがないが、小説の凛とした素晴らしさとエッセイのはちゃめちゃなおもしろさのギャップも間違いなくそのひとつに数えられるだろう。そう、ギャップの妙は侮れない。Gacktはあの美貌で歌を歌うときにはこぶしをきかせたりガンダムおたくだったりするのがいいのだ。チュートリアルは徳井のような二枚目がボケているのがいいのだ。スキマスイッチはアフロと小太り気味の人が歌っているのがいいのだ。
話がそれましたが、おもしろさは保証します。だって衝撃はインペリアル並みですから! (←意味不明継続中)
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