『桃山ビート・トライブ』

  • 桃山ビート・トライブ
  • 天野純希 (著)
  • 集英社
  • 税込1,470円
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評価:星4つ

 豊臣秀吉が天下の安土桃山時代が舞台の時代小説。
 三成が新しい社会をつくり出そうと躍起となっている最中、音と踊りを武器に権力に抵抗する若者達が…。第20回小説すばる新人賞受賞作。
 三味線弾き、笛役者、太鼓叩き、踊り子の4人は、反体制的言動と音楽で、あっという間に人気を極めていきます。その成功を追うだけでもかなり愉しめるのですが、時代は桃山です。やがて、政治的争いに巻き込まれ…。戦うのですが、武器が音と踊りっていうのがクール!
 大きな波にのみこまれるように、天野純希ワールドに入ってみてください。

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『名前探しの放課後』

  • 名前探しの放課後
  • 辻村深月 (著)
  • 講談社
  • 税込 1,470円
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評価:星3つ

 3ヶ月前の世界から、タイムスリップで戻されてしまった男子高校生の依田いつか。
 同級生が自殺してしまうという事実を知ったまま、タイムスリップしてしまったいつかは、その秘密を打ち明けた同級生のあすなたちと、誰かは特定できない同級生の自殺を止めようと…。
 3ヶ月前にタイムスリップした主人公、という設定に、妙にすんなりと入っていけたのは、一見軽やかにみせた文体のお陰かもしれません。高校生が結託して自殺をくいとめようと努力する様子に、惹き込まれてゆきます。
 洋食レストランを営んでいるあすなのおじいちゃんは、かなりいい味を出しています。

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『リリイの籠』

  • リリイの籠
  • 豊島ミホ (著)
  • 光文社
  • 税込1,365円
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評価:星3つ

 10代の学生生活だけにある独特のきらきらしたものを纏った7つの短編集。
25歳の女性が描いた、女の子のコンプレックス、憧れ、別れ、嫉妬、裏切りなどの10代で避けて通ることのできない様々な感情が、作品中で水しぶきをあげるように生きています。
 女同士の感情の綿毛がからまるような繊細なやりとりは、ときにその不毛さにたまらなくなります。学生生活のバイブルといえば、私にとっては山田詠美の『放課後のキイノート』なのですが、この著者の方も、もしかしたらそうなのかな…? と思ってしまいました。

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『堂島物語』

  • 堂島物語
  • 富樫倫太郎 (著)
  • 毎日新聞社
  • 税込2,100円
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評価:星4つ

 江戸時代の大阪堂島が舞台の時代小説。
 幕府未公認のお米の先物取引に人生を賭けた男、吉左の物語です。
先物取引がテーマの物語とはいっても、専門的なことに全く詳しくないわたしでも、知識不足で読書が滞ることはなかったので、そこは安心です。
 吉左が度胸と才能で、人生を切り開こうとしてゆく様は、ほんとに惚れ惚れしちゃいます。格好いい。
 同じ1秒を過ごすのでも、厚みと重みがある1秒を過ごしたいな、なんて思ってしまいます。

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『ルピナス探偵団の憂愁』

  • ルピナス探偵団の憂愁
  • 津原泰水(著)
  • 東京創元社
  • 税込1,785円
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評価:星3つ

 私立ルピナス学園高等学校時代に、仲間達と事件に直面してゆく物語『ルピナス探偵団の当惑』の姉妹作。 
その「ルピナス探偵団」仲間で一番の美女、麻耶が25歳という若さで亡くなり、その死後に様々な事実が…。
 第一弾を未読なわたしでも、ほとんどハンディなく読めました。主人公が小説家志望で、出版社へ売り込みに行ったり、ある作家と食事をして「若いね。大学生? だったらちゃんと就職しなさいよ。この道で食っていけるなんて思ったら大間違いだよ」と言われちゃうシーンが妙に印象的でした。
 人が亡くなるところからはじめる物語だけれど、軽妙なリズムがあるのは、著者の方が少女小説を過去に多数執筆されていたパワーだと思います。

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『Y氏の終わり』

  • Y氏の終わり
  • スカーレット・トマス(著)
  • 早川書房
  • 税込 2,100円
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評価:星3つ

 大学院生のアリエルは、探し求めていた『Y氏の終わり』という本を偶然、古本屋で見つけ…。
 人の心の中に入れるようになる、というストーリーからSFファンタジーかぁ。ちょっと苦手分野だなぁと思っていたら、それは早合点でした。現実の世界と異世界へと行き来するさまは、まさにファンタジーなのですが、ほどよく哲学的趣を含んでいて、物語を多面から味わえました。
 全体にちりばめられる、アインシュタイン、アリストテレスなどの理論物理学、哲学についての数々。これらが小休憩となるくらいに、物語は加速して進んでゆきます。
 アリエルの小生意気というか、若さ特有のつんとしたさまは、いやみがなく魅力的に映りました。生とは? 性とは? 読んでいる最中から考えだしてしまいます。答えはでません…。

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『ナイフ投げ師』

  • ナイフ投げ師
  • スティーヴン・ミルハウザー(著)
  • 河出書房新社
  • 税込2,100円
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評価:星4つ

 12の物語からなる短編集。
 一行目を読んだときから、魔法をかけられたようにその世界に入り込んでしまいました。現実には考えがたい設定の物語でも、というか、そういった物語にこそ魔力は強いようで、読み終えても、その物語の世界の名残が、身体の隅に残っているかのようです。かなり癖になる魔法のようで、なかなか離れられそうにありません。
 裸の背筋を、羽根でそっと撫でられるような読後感には、参ってしまいます。

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勝手に目利き

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『書名』 著者/出版社

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望月香子

望月香子(もちづき きょうこ)

 1981年生まれ。一人前のライターを目指し、奮闘中です。静岡県出身、今は東京都豊島区在住です。好きな本のジャンルは、小説、書評、インタビュー、エッセイ。
 好きな作家は、山田詠美、小池真理子、花村萬月、桐野夏生、三島由紀夫、斉藤美奈子、本橋信宏など。忘れられない本はパール・バックの『大地』。チャレンジしたい本は九鬼周造の『「いき」の構造』。よく行く書店さんは、芳林堂高田馬場店、あおい書店高田馬場店、新宿紀伊國屋です。のめりこんでしまうような小説に出会い、それを読み途中の期間、その物語の主人公のような気分で生きてしまうという、ちょっと行き過ぎな没頭癖があります。

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