『堂島物語』

堂島物語
  • 富樫倫太郎 (著)
  • 毎日新聞社
  • 税込2,100円
  • 2007年12月
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> 本やタウン
  1. 桃山ビート・トライブ
  2. 名前探しの放課後
  3. リリイの籠
  4. 堂島物語
  5. ルピナス探偵団の憂愁
  6. Y氏の終わり
  7. ナイフ投げ師
佐々木克雄

評価:星3つ

 時代小説を読んでいるとき、妙な安心感を覚えたりする。書き手は熟練の作家さんが多いので時代考証がしっかりしているし、読みつっかえることもない。それに(たとえは悪いが)水戸黄門のような「お約束的展開」が多いので、身を委ねてしまうのです。
 本書は、大坂堂島の米問屋へ奉公にあがった丁稚どんのお話。継母との確執から家を出された小作農の長男・吉左が、才覚と人情とド根性で米問屋・能登屋吉左衛門になるまでの日々が、彼を囲む温かな人々とのやりとりの中で綴られていく。(←ほら、安心するでしょ?)
 とはいえ話のミソは、これが享保年間の米相場をめぐる、かなり高度な経済小説であること。日本史は好きだったけれど、たしか江戸時代のこのあたりから展開がマッタリして、米相場云々の話を授業でちゃんと聞いていなかった気がする。反省。だからではないが、語り口による相場の話は素人であってもなかなか興味深く読めました。

▲TOPへ戻る

下久保玉美

評価:星5つ

 あっという間に読めました。とても面白かったです。
 貧しい小作農民の家から大阪の米問屋の家に奉公に出た主人公が自分の未来を切り開くとにかく爽快な小説。また、米というのが江戸時代においていかに重要でかつ厄介なものであったのかということもよくわかります。江戸時代経済小説なんて滅多にないから貴重です。不満を言うのなら、もう少し長くてもいいかな、ということ。ここから大商人に、という所で終わっています。人情としてはもう少し成功譚を読みたいじゃないですか、こんな嫌な事件ばかりの世の中なんだし。
 さて、主人公の成功は主人公の商売の勘とか頭の良さだけではなくて、謙虚であるということも影響しているわけです。とても謙虚で、「人間、謙虚になるというのは本当に大切なことだなあ」と思いました。そんなことを思ったのは最近では去年の日本シリーズの中日優勝時にMVPに輝いた選手を見たときぐらいです。

▲TOPへ戻る

増住雄大

評価:星3つ

 江戸時代の「米」相場は、今でいう「株」みたいなものだった!
 その米相場を扱った「本格時代経済小説」(帯より)が本書。
 何かと運の悪い主人公・貧農の倅である吉左(きちざ)が、16歳にもなって米問屋の丁稚にされるところから物語は始まる。普通、丁稚になるのはもっと幼い頃。吉左には、出世の道は閉ざされていると言っていい。でも吉左は持ち前の才覚・性格で自らの運命を切り開いていく。
 設定もキャラクターも筋運びも面白くてするする読ませる。気持ち良い笑いもあるし、優しい気持ちになれる恋愛もあるし、涙を流しそうになる場面もある。読者に楽しい時間を約束してくれる良質エンタメ小説。原稿用紙換算で1000枚の長さらしいが、イッキ読みしてしまった。
 というわけで、とっても良い小説なんだけど、表紙とタイトルの地味さで損をしているような気がする……

▲TOPへ戻る

松井ゆかり

評価:星3つ

 主人公吉左をハリウッド映画のヒーロー的強さに換算すると、スーパーマンあるいはバットマンあたりに匹敵すると思う。丁稚奉公から着々と出世していくところは、「あかんたれ」の志垣太郎を思い出した。(←古い)
 時代小説の入門編としては、たいへんに読みやすく題材的にもわかりやすい。難があるとすれば、吉左の対抗勢力として力のある敵役がいないことだ。小物ならば2〜3人出てくるのだが、疎遠になったり味方に転じたりとどうにも影が薄い。米相場の変動だの、身分違いの恋だの、苦境らしきものも用意されてはいるが、それらも含めてこんなにとんとん拍子にいくかよ、という突っ込みは避けられないだろう。
 とはいえ、痛快な立身出世の物語というのはやはりおもしろい。これいっそ道徳の教科書にでも載せたらどうか。やっぱり勉強は大事だよ、ということがよくわかる一冊だと思うのだが。

▲TOPへ戻る

望月香子

評価:星4つ

 江戸時代の大阪堂島が舞台の時代小説。
 幕府未公認のお米の先物取引に人生を賭けた男、吉左の物語です。
先物取引がテーマの物語とはいっても、専門的なことに全く詳しくないわたしでも、知識不足で読書が滞ることはなかったので、そこは安心です。
 吉左が度胸と才能で、人生を切り開こうとしてゆく様は、ほんとに惚れ惚れしちゃいます。格好いい。
 同じ1秒を過ごすのでも、厚みと重みがある1秒を過ごしたいな、なんて思ってしまいます。

▲TOPへ戻る

 

<< 課題図書一覧>>