WEB本の雑誌>今月の新刊採点>【単行本班】2008年2月>『桃山ビート・トライブ』 天野純希 (著)
評価:
小説すばる新人賞って、いい才能を発掘しますよねえ。個人的に好きなトコでは荻原浩、山本幸久ですが、また一人、すんごい作家を誕生させましたよ。この受賞作、パワフル!
四人の若者が出会い、ライブパフォーマンス集団として名を上げる──これだと世にあまたある青春モノと変わらないのだが、どっこい、舞台は安土桃山時代! 信長、秀吉、出雲のお国、さらにはヒール役の石田三成と、歴史のスターたちがこれでもかと絡んでくる。史実とフィクションを融合させる手腕はかなりのもの。それにキャラがいい! 若気の至り大爆発といった四人が活字から飛び出してきそう。そのハイテンションたるや、世界陸上の織田裕二ばり。
ストーリーに荒削り感はあるものの、文章に力が漲っているから勢いに押されて一気読みしてしまった。息を飲む終盤も、スカッとする結末もいい。
こんな作品待ってた。三羽省吾の青春モノが好きな人なら気に入るんじゃないかな。
評価:
秀吉政権時代の終わりの頃、聴衆を沸かせる音楽や芸能を模索する河原芸人の主人公たちの活躍とその河原芸人たちを統制し支配しようとする権力との対立を描いています。全編に溢れる音楽の躍動感に心躍ります。主人公たちがどんな芸能を演じていたのか見てみたいです。
また、本書に大きなエネルギーを見ました。それは本書に描かれる人物たちの持つエネルギーであり、また作者が持つエネルギーでもあります。新人らしい新人、と思いました。本書はとにかくエネルギーに満ちています。
ただ、人間の重厚感がなく薄い。登場人物たちがあんなに出ているのだからもう少し重層的な小説になってもいいのではないでしょうか? 事実、かぶき踊りのお国とか主人公たちが世話になる座長とか面白そうな人がいっぱいいるのに。物語を描く、ということに焦ったような印象を受けてしまいました。惜しいなあ。
評価:
「バンドやろうぜ!」
って感じのバンド小説・漫画・映画って、世の中に結構ある。破天荒なメンバーを集め、激しい演奏をして人の心をつかむ、みたいな。けど、安土桃山時代のバンド小説は誰しも初めてなんじゃなかろーか。
型破りな三味線に、一流の笛、アフリカンな太鼓に、天性の才能あふれる舞い。四人そろえば怖いものナシ! 「音楽は人の心を動かすんだぜ!」って感じで、もう、躍動感! エネルギー! に満ち満ちてます。ぜひ実際にこの一座を観てみたい! と思うのは私だけじゃないはず。
小説すばる新人賞は、あいかわらずヒット率・長打率が高いねー。一人ひとりが新人の頃からレベル高い高い。だから、毎回受賞作が注目されるんだね。それでまた次の受賞作が期待に応える。美しい連鎖だなあ。実際、受賞作家の生存率が他のエンタメ系新人賞に比べて桁違いだし、これからも小説すばる新人賞は要注目です。
評価:
時代小説で、題名にならまだしも、地の文にカタカナ使うのはアウトだろ。…と文句をつけたい気持ちを押さえながら読み進めたところ、あに図らんや、どんどんおもしろくなってきた。
現在でいったらバンド、それもいろんな意味で型破りな(安土桃山時代なのに黒人メンバーまでいるという)一座を描いた小説である。かなり強引な設定もあるのにあまり引っかかることもなく読ませるし、人物造形もうまい。べたべたした恋愛模様が絡んでこないのも好感が持てる。
それだけに終盤一転してシビアな展開になったことに不意打ちを食らわされた。歴史はそこに厳然と容赦なく存在していたことを思い知らされる。それまでのポップな流れからするとつら過ぎる事件ではあったが、著者としてはここは絶対に書きたかったところであろう。
ただなんだかんだ言って、いちばん印象的だったのは帯にもあった北方謙三先生の「エネルギーの塊を私に投げつけることに成功」というお言葉だったという気もするが。
評価:
豊臣秀吉が天下の安土桃山時代が舞台の時代小説。
三成が新しい社会をつくり出そうと躍起となっている最中、音と踊りを武器に権力に抵抗する若者達が…。第20回小説すばる新人賞受賞作。
三味線弾き、笛役者、太鼓叩き、踊り子の4人は、反体制的言動と音楽で、あっという間に人気を極めていきます。その成功を追うだけでもかなり愉しめるのですが、時代は桃山です。やがて、政治的争いに巻き込まれ…。戦うのですが、武器が音と踊りっていうのがクール!
大きな波にのみこまれるように、天野純希ワールドに入ってみてください。
WEB本の雑誌>今月の新刊採点>【単行本班】2008年2月>『桃山ビート・トライブ』 天野純希 (著)