『リリイの籠』

リリイの籠
  • 豊島ミホ (著)
  • 光文社
  • 税込1,365円
  • 2007年11月
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  1. 桃山ビート・トライブ
  2. 名前探しの放課後
  3. リリイの籠
  4. 堂島物語
  5. ルピナス探偵団の憂愁
  6. Y氏の終わり
  7. ナイフ投げ師
佐々木克雄

評価:星4つ

 豊島ミホって、他の若手女性作家と違うものを持っている──そう思うのは自分だけでしょうか? じゃあ何が違うのか、それを言葉にできずにいたのですが、著者ブログ「告知板としま」12/19付に、本作についてのコメントがあり、「そっかぁ」と気付いた次第。以下抜粋。
「女の子に対する反感(同族嫌悪的な)も、逆に同性としての理解も、書き手の感情としては入ってないんです」……そうそう、作中キャラと書き手の距離感が絶妙なのですよ。
 七つの短編からなるが、舞台はみな同じ女子校。各編、異なる女子が主人公となっているのだけど、作者が俯瞰しているぶん、彼女たちと周囲との距離感がもの凄く繊細に浮かび上がってくる──これにプラスして、色が見えてきそうな細やかな描写が豊島ミホ作品の「味」なのではと思うワケです。どの作品も、最後の一文を読んで、ああ巧いなあと。
 この一冊を読んで、益々これからが楽しみな作家さんになりました。

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下久保玉美

評価:星4つ

 いわゆる女の子同士の恋を「百合」という言葉で表現するのはいつからなのでしょう? 「薔薇族」ほど浸透していませんが「百合」はある種のシンボルですよね。
 さて、本書はある(おそらく仙台の)女子高でおこる人間模様を描いています。恋愛というほどではなく、思慕であるとか憧れであるとか嫉妬であるとか、感情として成立しているのかいないのか不安定な、一筋縄ではいかない感情の往来を表現しています。
 まあ、私も女でありますから、ある程度の女の子同士の心安さやドロドロとしたところも知っているつもりです。しかし、そうした感情を目の前に突きつけられるとやっぱりしんどい。女性の作家さんのなかには、これでもかこれでもかと目の前に突きつけてくる方もいらっしゃいますが(蛇足だけど女性の描く女性は現実的すぎ、男性の描く女性は夢がありすぎる)本書はその辺をうまい温度で表現しています。悪い言い方をすれば生ぬるいんだけど、そういうところ好きです。
なんだかこの1冊で終わってしまうのが残念。もう少し読みたいんですけどね。

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増住雄大

評価:星2つ

 女子校って、こんな感じ。……なのか?
 私が恋愛やおしゃれとは縁がなく、閉じた人間関係の高校生活を送ってきてしまったからだろうか。何だか別世界なのにリアル過ぎて直視できない……。
 同著者の大学生を描いた連作短篇集『神田川デイズ』を読んだのは就活が苦しかった頃で、心情描写があまりにも自分に重なりすぎて「そうそう、そうなんだよ!」と思うことしきり。著者にお礼を言いたいほどの元気をもらったのだけれど今回は……。
 でもまあ、あれだ。どんなところにも、やっぱり似たような人間関係があるんだな。友情・羨望・見得・嫉妬・葛藤。感情がごちゃごちゃしてて、一言じゃ言い表せない感じ。豊島ミホは、思春期のそういう感じを描くのがとても上手い。
 収録作の中では「やさしい人」が一番好き。何かのきっかけがあれば、とても仲良くなれそうだった人、っているよね。あの人、今頃どうしているんだろうか……

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松井ゆかり

評価:星3つ

 現在の私を知っている人には容易には信じてもらえないが、10代の間は超内気な性格だった。この短編集の主人公のほとんどと友だちになれなかっただろう。たぶんいちばん近しいのは2番めの短編の主人公の先生か。
 女の子同士って最高。もしくは、女の子って残酷。どちらも正解だと思う。著者の豊島さんは1982年生まれとまだお若く学生時代が近過去だということもあるのだとは思うが、よくこんなにいろんなタイプの女子の心理を書き分けられるものだと感心した。一方それが女子の女子たる所以かもしれない、とも思えてきた。女の子だから複雑でいろんなタイプに分かれてしまう。もしくは、女の子だから根っこは同じで、自分と違うタイプの子でも気持ちがわかる。
 好きな歌で、スキマスイッチの「全力少年」という曲がある。女子もきっと、ずっと全力で少女なのだろう。

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望月香子

評価:星3つ

 10代の学生生活だけにある独特のきらきらしたものを纏った7つの短編集。
25歳の女性が描いた、女の子のコンプレックス、憧れ、別れ、嫉妬、裏切りなどの10代で避けて通ることのできない様々な感情が、作品中で水しぶきをあげるように生きています。
 女同士の感情の綿毛がからまるような繊細なやりとりは、ときにその不毛さにたまらなくなります。学生生活のバイブルといえば、私にとっては山田詠美の『放課後のキイノート』なのですが、この著者の方も、もしかしたらそうなのかな…? と思ってしまいました。

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