『Y氏の終わり』

Y氏の終わり
  • スカーレット・トマス(著)
  • 早川書房
  • 税込 2,100円
  • 2007年12月
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  1. 桃山ビート・トライブ
  2. 名前探しの放課後
  3. リリイの籠
  4. 堂島物語
  5. ルピナス探偵団の憂愁
  6. Y氏の終わり
  7. ナイフ投げ師
佐々木克雄

評価:星3つ

 ウッ……この苦痛と快楽が入り交じった読書ってば、安部公房とか笙野頼子を読んでるときの感覚に似ている。何が書いてあるんだか分からなくてクラクラして、それがまた心地よかったりして。でも面白いですよ。SFとしてしっかりできているし。
 最初の100ページくらいまで、話がどこに向かうのかサッパリわからずで、奇想なのか、ミステリなのか、それともメタなのか(でもまあ出版元から察しはついたけど)。主人公の大学院生、アリエルがはまり込む世界について行ってからは、グッと読み込むことができた。特に450ページあたりの「思考と物質」の考察については、ホホウと唸ってしまうくらい。
 けれど、他者の頭の中に入り込むって設定は、似たような話をすでに見たことがあるしなあ。筒井康隆センセの『パプリカ』(アニメをDVDで見た)とか、6歳の息子と毎週かかさず見ている『ケロロ軍曹』とか。なもんで正直、新鮮味はなかったす。

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下久保玉美

評価:星3つ

 どうしたもんかなあ、と頭を抱えてしまいました。
 「Y氏の終わり」という小説を偶然手に入れたことから、他人の心に入る技術を手に入れた主人公がその技術を狙う男たちに追われます。物語自体はわりとオーソドックスで、謎の男たちに追われたり追いつかれたり危機一髪の目に遭ったり、でも助けてもらってなんとかなったりならなかったり、とさほど目新しいものではありません。ただ、その合間に哲学的、物理学的な思索が入ってきます。『ソフィーの世界』か?と思いつつも興味深い内容でした。たぶん半分も理解できてないけど。
 どうしたもんかなあ、と思ったのは本書をどういう風に捉えればいいのか、ということでして。SFにしてもファンタジーにしても中途半端なんですよね。これどうなったの?という所も目立つし。アイデアに酔っていませんか?

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増住雄大

評価:星3つ

 哲学に関する知識は全く持っていない、と言うと意外な顔をされることがある。
 いや、私だって興味はある。でもいきなり原典は厳しかろうと『ソフィーの世界』やら『図解 哲学』やら『1冊でわかる〜』やらに挑戦し、そしてどういうわけか早々に挫折した。それ以来どうにも「哲学的なもの」に対して苦手意識が生まれてしまった。今では、小説を読んでいて作品内に哲学的な話題が出てくると軽い拒否反応が出るほどである。
 だから本書を少し読んで「あ、哲学っぽい話題が」と気付いたとき、いつもの私なら読書にかけるテンションが落ち、場合によっては読書を中断するくらいである。でもテンションは落ちなかったし、それまでと変わらず読み続けた。おもしろかったからである。
 無理矢理分類するならSF? だろうか。主人公は大学院生アリエル。彼女は偶然立ち寄った古書店で、幻とされていた『Y氏の終わり』という本を発見。その本を読んだものは死ぬと言われていた……。
 随分と思索的な小説であった。なるほどこれは帯にあるように「こんな小説読んだことない。」

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松井ゆかり

評価:星3つ

 「今月の新刊採点」の課題図書は月に7作品。その中にほぼ確実に、読み進むのに苦労するものが1冊はある。今月はこれ。これから手に取ろうとされているあなた、覚悟なさいますよう。でもおもしろくないわけではないですから、ご安心を。
 ページが進まない最大の原因は基本的に難しいからだ。ロールプレイングゲームのような革新的な部分と膨大な知識量によって説得力を持たせようという保守的な部分が混在しているのだが、そのためすいすいと読み進められる類の話にはなっていない(私の頭はかなり保守派寄り…というかアナログな作りになっているのだろう)。いったいこれはSFなのか、哲学書なのか、宗教書なのか(主人公アリエルが一目で惹きつけられる青年の名前がアダムというのも象徴的である気がする)、はたまたバカミスなのか。ジャンル分けに意味はないと思いつつも、あまりにいろんな要素が盛り込まれていて軽いめまいを覚える。最近骨のある本がないとお嘆きの貴兄に。

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望月香子

評価:星3つ

 大学院生のアリエルは、探し求めていた『Y氏の終わり』という本を偶然、古本屋で見つけ…。
 人の心の中に入れるようになる、というストーリーからSFファンタジーかぁ。ちょっと苦手分野だなぁと思っていたら、それは早合点でした。現実の世界と異世界へと行き来するさまは、まさにファンタジーなのですが、ほどよく哲学的趣を含んでいて、物語を多面から味わえました。
 全体にちりばめられる、アインシュタイン、アリストテレスなどの理論物理学、哲学についての数々。これらが小休憩となるくらいに、物語は加速して進んでゆきます。
 アリエルの小生意気というか、若さ特有のつんとしたさまは、いやみがなく魅力的に映りました。生とは? 性とは? 読んでいる最中から考えだしてしまいます。答えはでません…。

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