『ルピナス探偵団の憂愁』

ルピナス探偵団の憂愁
  • 津原泰水(著)
  • 東京創元社
  • 税込1,785円
  • 2007年12月
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  1. 桃山ビート・トライブ
  2. 名前探しの放課後
  3. リリイの籠
  4. 堂島物語
  5. ルピナス探偵団の憂愁
  6. Y氏の終わり
  7. ナイフ投げ師
佐々木克雄

評価:星3つ

 お初でした、ルピナス探偵団シリーズ。そもそも本格ミステリ系をあまり読まないものですから、もの凄く新鮮味のある読書だったなあと。
 タイトル見ただけで、ミッション系の学園ミステリだなと思っていたら、アタリ。ただし、時間軸をシャッフルさせた連作短編集だったから、醸し出す雰囲気とかに追憶的なものが含まれていたりして、一筋縄のミステリとは言い難いのですねえ。
 個人的にはすっ飛ばしまくりの脇キャラがツボに入りまくりで、姉の不二子、友人のキリエらの丁々発止のやりとりに、爆笑しまくり。あれ、この会話のスピード感って、どっかで見たことあるなと思って、途中で気がついた。テレビドラマ『時効警察』のキャラたちのやりとりに近いのだなと、だから楽しく読めたのかな。謎解きよりもキャラの方がインパクト強いミステリってとっても不思議。それもまあ、アリと言えばアリなのだろうけど。

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下久保玉美

評価:星4つ

 前作の『ルピナス探偵団の困惑』は発売当時、存在は知っていたのですが「ちょっと…。」と躊躇して買いませんでした。「ルピナス」というところで「ああ、ドタバタ学園コメディミステリ小説かなあ」と思って敬遠してしまったんですよね。あの頃は本格志向が今よりもずっと強かったもので。しかし、今回本書と前作を読んでその時の判断を激しく後悔! 読んでおけばよかったー。
 うっかり密室殺人事件の真相を言い当ててしまったがために刑事である姉に利用されてしまう主人公と主人公を取り巻く仲間たちが活躍する短編集。「ルピナス探偵団」とありますが本人たちはさほど積極的でもなく、ミステリにおける掟をこれでもかと論争しあうわけでもなく、こいつらミステリ読んでんのかい!というくらい謎に程遠い存在。読んでいて疲れません。
 そういうミステリ的な謎解明部分はおいといて、いいなあと思ったのは本書全体にかかるセピア色の靄。身近にある風景のようでいてそうではなく、かといって遠い絵空事でもなく。懐かしさと同時に、いずれは失われてしまうという哀しさを感じました。

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増住雄大

評価:星4つ

 バックミュージックでレクイエムがエンドレスで流れているような印象を受けた。
 原因は構成に由来する。四話仕立ての連作短篇集なのだが、第一話冒頭の時点で、主人公が高校時代に仲の良かった同級生・麻耶が亡くなっている。第二話以降では徐々に時間を遡っていく。読者にとっては未来が確定しているからこそ、要所要所で言いようのない感情が生まれる。
 人間関係がいい。登場人物同士が近すぎず遠すぎず絶妙な距離感を保っている。会話もいい。みんながみんな、優しすぎず厳しすぎない。また、衒学的とすら言えるかもしれないディテールや小ネタもいい。微笑ましかったり、得した気分になれたりする。
 水の表面にできた氷みたいに、冷たくて、ピンと張り詰めているけど、とてももろい。この感じ、好きな人は案外多いはず。
 タイトルに「探偵団」とあるように、もちろん基本は探偵小説。でもキャラクター小説としても、青春小説としても、大変おもしろい。

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松井ゆかり

評価:星5つ

 津原泰水は長らく“マイ食わず嫌い作家”だった。敬愛する作家である三浦しをんさんが津原さんの「綺譚集」や「少年トレチア」の書評などを書かれているのを読みながらも「耽美?ホラー?」と二の足を踏んでいたし、「ブラバン」が発表されたとき「思い切って読んでみようかな…」と乗り気になったにもかかわらず結局頓挫してしまった。
 津原泰水をミステリー作家とはまったく思っていなかった私にとって、この本は驚きであった。しかもかなり好きなタイプの短編集だった。学園もの(+変形バージョン)であることとか、キャラクターが好みだとか、美点はいろいろあるが、最も好感を持ったのは犯人にきっちり落とし前をつけさせるところ。
 津原泰水は“マイ現在気になる作家”の上位ランクインを果たした。私の場合、初めに苦手意識があった相手ほど心惹かれてしまう傾向がある(例:元THE YELLOW MONKEYの吉井和哉ほか)。
まずは同シリーズの前作「ルピナス探偵団の当惑」を読んでみよう。

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望月香子

評価:星3つ

 私立ルピナス学園高等学校時代に、仲間達と事件に直面してゆく物語『ルピナス探偵団の当惑』の姉妹作。 
その「ルピナス探偵団」仲間で一番の美女、麻耶が25歳という若さで亡くなり、その死後に様々な事実が…。
 第一弾を未読なわたしでも、ほとんどハンディなく読めました。主人公が小説家志望で、出版社へ売り込みに行ったり、ある作家と食事をして「若いね。大学生? だったらちゃんと就職しなさいよ。この道で食っていけるなんて思ったら大間違いだよ」と言われちゃうシーンが妙に印象的でした。
 人が亡くなるところからはじめる物語だけれど、軽妙なリズムがあるのは、著者の方が少女小説を過去に多数執筆されていたパワーだと思います。

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