『隠蔽捜査』

  • 隠蔽捜査
  • 今野敏 (著)
  • 新潮文庫
  • 税込620
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評価:星5つ

 ほんの10ページほど読むと、竜崎伸也が家と職場でどう思われているかがよくわかる。“頭が固くていやなヤツ”だろうと。しかし、こんな融通の利かないヤツは嫌だなという思いはあっという間に覆された。夜中の呼び出しもいとわず職務をまっとうする姿勢。考えの端々ににじむ、一本筋が通った考えは驚くほど清々しく、それ以上に、人としていいヤツなのだ。なかなか他人にはわかってもらえないけれど。
 連続殺人事件発生から、警察組織が崩壊しかねない方向へすすんでいく。竜崎は困難に真剣に立ち向かっていく。彼は、私たちが望んでいる公人の理想の姿であり、こういう人がいてもらわなくては困ります。警察だけでなく、権力を持ちうるすべての立場の人に見習って欲しいと思いました。読めば熱くなる。こんな警察小説は味わったことない。絶対オススメしたい一冊です。

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『かたみ歌』

  • かたみ歌
  • 朱川湊人 (著)
  • 新潮文庫
  • 税込460円
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評価:星4つ

 アカシア商店街のある小さな町の住民が遭遇する出来事は、奇妙だけれど心にじんとしみる。古本屋の店主を中心につながる短篇たちは、悩みを抱えた人たちのすき間を埋めてくれるあったかな話だ。
 ノスタルジックな昭和時代を書かせたら、朱川氏の右に出るものはいないだろうと思ってしまう。彼の作品は怖いけれど、せつないファンタジーを実現してくれるうれしさもある。懐の深さとかやさしい気持ちを思い出させ、やわらかいところを刺激してくる。
 「ひかり猫」の話が好きだ。死んだ猫が魂となって人恋しく甘えてくるのを主人公はあっさり受け入れる。猫ですら寂しさを抱えている現実の悲しさ。いろいろ深読みしてしまいました。大事なものを大切にしたいという素直な気持ちになる作品たちです。

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『名短篇、ここにあり』

  • 名短篇、ここにあり
  • 北村薫、宮部みゆき (編)
  • ちくま文庫
  • 税込798円
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評価:星3つ

 素晴らしい作家、そして、素晴らしい作品というのはあまた世の中にある。けれど、そのすべてと出会うのも知るのも難しい話だ。そこで必要なのは、素晴らしい作品を集めたアンソロジー。それが、お気に入りの作家が選んだものだとしたら、文句なく信頼できるというものでしょう。
 ここで紹介されている3分の1の作家しか知らなかった。もちろん紹介作品は未読。山口瞳の「穴」の不思議世界感、吉村昭の「少女架刑」の冷静で残酷な目線、黒井千次の「冷たい仕事」で書かれる思わぬテーマ選択の驚き。あげればきりがない。
 これら12の作品に文句などないが、一番よかったのが、巻末の北村薫と宮部みゆきの解説対談。二人の選別理由とか、作品に対する思いなどもわかるが、現代有名作家が嬉々として好きなことを語る姿というのはほほえましいです。

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『AMEBIC』

  • AMEBIC
  • 金原ひとみ(著)
  • 集英社文庫
  • 税込420円
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評価:星2つ

 残念ながらまったく意味がわからない。壊れていく(すでに壊れている?)主人公の女性作家に共感できないのは、彼女がまったく物を食べないからかも。彼女の目を通して食風景がひどくけがされているのがいやでした。  
 しかし、結婚を控えた編集者とその婚約者の影を前に彼女がどんどん壊れていく様は圧倒されます。酔っぱらって、錯乱して書かれたらしい、「錯文」と名づけられた意味不明の文章も、孤独が充満した部屋の荒びかたも、タクシー内で嬉々として恋人の婚約者へと変身していく異様さも。うっかりしてたら、こちらまで巻き込まれる雰囲気がある。そういうところはすごいと思うんですが、やっぱりよくわからない作品でした。

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『ビネツ』

  • ビネツ
  • 永井するみ(著)
  • 小学館文庫
  • 税込730円
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評価:星3つ

 美しくなることに関心はある。でも、エステサロンの敷居は高い。値段も高いだろう。その割に効果は期待できないかもと、遠ざける理由は多々ある。私が初めて体験するエステの世界はこの本でした。
 分厚い掌でこってりと撫で回されるマッサージ。その気分とは、どんなものだろう。気持ちいいのは間違いなさそうだ。「ヴィーナスの手」にヘッドハンティングされた麻美。かつてこの店にいた“神の手”をもつサリの再来といわれ、彼女を意識していく。夢を追い、階段を登っていく才能ある女性のサクセスストーリーを楽しめる。
 けれど、ここは女の欲望渦巻く世界。濃厚でドロドロとした女の本音と、そこから湧き出てくる化け物を目の当たりにすることができる。正直こわいよ。女の美の秘密。裏に隠れている物の正体をみたりというとこでしょうか。

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『1/2の埋葬(上・下)』

  • 1/2の埋葬(上・下)
  • ピーター・ジェイムズ(著)
  • ランダムハウス講談社文庫
  • 税込861〜893円
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評価:星4つ

 結婚前夜の悪ふざけが悪夢に。でも、生きたまま埋められるなんてありえない。絶対。たとえ小説の中の話だとしても、冗談でも、背筋が凍るシチュエーションである。悪夢の主人公、マイケルだったとしたらと思っただけでパニックになりそうだった。最低最悪の状況を救えるのはグレイス警視のみ。とにかく時間がないうえに、不穏な陰謀まで絡んできて、一時も読むのをやめられない。ああ神様仏様グレイス様と思いました。
 さて、このグレイス警視、妻に失踪され、霊能力を捜査に取り入れたことで世間からバッシングを浴びてしまう問題児だが、なんとも好感を持ってしまう。出てくる女性出てくる女性を、非常にアゲアゲな評価をするのだ。ついつい女性を美しいと表現してしまう愛らしさ。下心と言えばそれまでだが、彼の今後の活躍とともに恋愛方面へも期待したいと思う。

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『数独パズル殺人事件』

  • 数独パズル殺人事件
  • シェリー・フレイドン(著)
  • ヴィレッジブックス
  • 税込893円
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評価:星4つ

 数独は私が好きなパズルのひとつ。空欄に数字がぴたりぴたりとはまったときの快感といったらない。これが欧米でブームになっているとは知らなかったけれど、人気とはいえパズルとミステリーがどう結びつくの?答えは簡単、数独が事件に重要な役割を与えられているようなのです。
 主人公ケイトの事件解決への奔走はもちろん、アメリカの田舎町のパワフルなおばばたちも、頼りになるけどおせっかいな叔母も、いかにも田舎の人のよさを感じてゆかいで面白いけれど、私が一番気になったのは、事件に巻き込まれたケイトと警察署長との恋の行方。二人がぎこちなくも次第に接近していくところ、ティーンエイジャーの恋愛みたいで可愛らしくて目が離せませんでした。こちらはパズルのように簡単には解けないようです。

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島村真理

島村真理(しまむら まり)

1973年生まれ34歳。主婦。徳島生まれで現在は愛媛県松山市在住。
本なら何でも読みます。特にミステリーとホラーが好き。
じっくりどっぷりと世界に浸りたいから、乱読から精読へと変化中。
好きな作家は京極夏彦、島田荘司、黒川博行、津原泰水、三津田信三など。
でも、コロコロかわります。最近のブームは、穂村弘。
ここ1年北方謙三の「水滸伝」にはまってます。本当にすばらしい。
よく利用するのは図書館、Amazon、明屋書店。
時間を忘れるくらい集中させてくれる作品と出会えるとうれしいです。

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