『AMEBIC』

AMEBIC
  • 金原ひとみ (著)
  • 集英社文庫
  • 税込420円
  • 2008年1月
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  1. 隠蔽捜査
  2. かたみ歌
  3. 名短篇、ここにあり
  4. AMEBIC
  5. ビネツ
  6. 1/2の埋葬
  7. 数独パズル殺人事件
岩崎智子

評価:星3つ

 いやぁ、まさに「錯文」だった、「作文」でなく。このインパクトは本当にすごい。3ページ改行無しで延々と続き、次々と話している対象が飛ぶ。書かれた内容が、自分の想像力を越えていくので、追うのが大変。冒頭にして、読者をかなり狭めてしまうんじゃなかろうか。勿論、全編にわたって錯文が連ねられているわけではなく、この後は、書き手である「私」の言動の中に、錯文が挿入される程度なので、読みづらさはそれほどでもない。でも、やっぱりそうとう強い癖がある文章であり、内容だ。
 主人公は女性作家で、恋人の編集者には婚約者がいる。会話を交わすのはタクシー運転手くらいで、家族が出てくるわけでもなし。極めて閉じられた世界に生きる女性の話だ。恋人の結婚というカウントダウンが設定されているのに、展開はそれほど劇的でもない。「この本を読んで何かの解決になれば」とか、「苦しみの中で、ささやかな幸せを見つけたい」という人には向かない。むしろ、「思いを吐き出す事でカタルシスを感じたい」と思う人の共感を呼ぶ作品ではないだろうか。

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佐々木康彦

評価:星4つ

 人間の脳は「指を曲げる」といった随意運動が意識的に開始される約一秒くらい前に、既にその準備となる無意識の活動を始めているのだそうです。じゃあ、その無意識の活動を始めようとするのは「私」以外の何なのか?「私」という存在が自由意志によって行っていると思っているいろいろな行動も、実は脳内の何かによって決定されているのでしょうか?そういったことで言うと、本作で錯乱状態の「私」が書き残す「錯文」も、「私」という意識以外の何か別のものが書いているとしても不思議ではありません。
 本作では自分が分裂していく感覚をアミービックと表現していますが、このような感覚というのは主人公の肉体にも関係しているのかも知れません。サプリメントと漬物以外はほとんどものを食べない主人公。減量中のボクサーの五感が鋭敏になっているのに似ているような気がします。

「蛇にピアス」よりはこちらの方が好きなタイプの作品でした。「蛇にピアス」があわなかった人も読んでみてはどうでしょうか。

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島村真理

評価:星2つ

 残念ながらまったく意味がわからない。壊れていく(すでに壊れている?)主人公の女性作家に共感できないのは、彼女がまったく物を食べないからかも。彼女の目を通して食風景がひどくけがされているのがいやでした。  
 しかし、結婚を控えた編集者とその婚約者の影を前に彼女がどんどん壊れていく様は圧倒されます。酔っぱらって、錯乱して書かれたらしい、「錯文」と名づけられた意味不明の文章も、孤独が充満した部屋の荒びかたも、タクシー内で嬉々として恋人の婚約者へと変身していく異様さも。うっかりしてたら、こちらまで巻き込まれる雰囲気がある。そういうところはすごいと思うんですが、やっぱりよくわからない作品でした。

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福井雅子

評価:星2つ

 摂食障害気味の女性作家のパソコンには朝になるとヘンテコな文章が残っていて、どうやら夜中に無意識のうちに錯文を書いている……という小説なのだが、いまひとつ作者の意図したものが伝わってこなかったように思う。特に錯文の部分は、主人公の深層心理から湧き上がるものという設定のため、神経症すれすれのアブナイ心理状態の根本にあるものが浮かび上がるのかと思ったが、これが読んでもさっぱりわからない……。作者と私の感性の違いはあるとしても、やはり何か物足りない。
「孤独と分裂の感覚を言葉で表現する」ことがこの作品のテーマだったということを作者のインタビュー記事で読んだ覚えがあるが、表現したところで終わらずに、その孤独や分裂する自己とどう向き合い、そこからどうするのかというところまで描いてほしかったなあと思う。

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余湖明日香

評価:星1つ

 著者とダブるような(おそらくあえてイメージをダブらせている)主人公である作家の女性の自意識にどうしても違和感を覚える。思いを寄せる男の婚約者の職業・パティシエを意識し、お菓子を作っては捨てる行為。水分を取らないといいつつエスプレッソを飲む。彼女の行為は、彼女自身が格好いいと思っているだろうことがわかるのだけれど、主張も行動も一貫性がなくどうにも格好よくない、魅力的に見えないのだ。錯乱した状態で残した文章「錯文」も、ただ思考をまるまる文章に移したようで、こういう文章を書いて発表していた人は大学時代に複数いたなーと思ってしまう。
ライムと地球の話、ブックマークと領収書など、面白いと思うエピソードもあるのだけれど、エピソードだけを盛り込んだようで、全体の物語からは浮いて見える。
1983年生まれの私は金原ひとみさん、綿矢りささん、島本理生さんと同年代。彼女たちの作品を読むと、どうしても「同じ年の人がこんなことを考えるのか」という視点が入ってしまう。もっと素直な気持ちで、そしてもっと私に読解力があれば、面白かったのかもしれない。

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