WEB本の雑誌>今月の新刊採点>【文庫本班】2008年3月 >『名短篇、ここにあり』 北村薫・宮部みゆき (編)
評価:
つくづく、宇宙人は、着陸場所の選択を誤りましたね…。
いえ、映画の話です。最初から、日本に着陸していれば、『地球の静止する日』『インデペンデンス・デイ』みたいに「いきなり撃たれる」「鉄拳を見舞われる」なんて事態は避けられただろうに。やっぱり肉食中心の欧米人は戦闘的なんですよ。農耕民族の日本人をご覧なさい。
と、えらく前置きが長くなってしまったが、そんな穏やかな日本人と宇宙人の遭遇を描いたのが、本書トップの『となりの宇宙人』。落ちてきた円盤の中から、宇宙人が出て来た時の第一声、「嫌だ、宇宙人じゃない。」そして皆笑って、「宙さん」と呼び名をつける。どうです、こののどかさ。やっぱりねぇ、まず第一に拒絶よりも受容ですよ。人づきあいの基本だと思いませんか?戦国にタイムスリップしてきた自衛隊と、戦国武将達のドンパチ『戦国自衛隊』を著した半村良先生の作品とは思えません。感情表現を極力抑えた文章なのに、登場人物の語らぬ思いを感じ取る事ができる松本清張の『誤訳』もお勧め。
読んだ事がある作家の意外な面を発見したり、変わらぬ作者のテイストに安心したりと、人それぞれの楽しみ方が出来る短編集。
評価:
解説にもあるように、乙一「夏と花火と私の死体」での死体の一人称語りを初めて読んだ時には驚いたものですが、収録されている「少女架刑」を読んで、何十年も前に既に使われていた手法だというのがわかり、またまた驚いた次第です。
世の中にはすぐれた作品を書く作家さんがたくさん存在していて、また世間にとってはすぐれた作品でなくても自分にとってはかけがえのない作品というのもあって、そういうものを全部読んでいこうとしたら膨大な時間が必要になるのですが、限られた時間の中、このような短篇集で未読だった作家さんの作品を一篇だけとはいえ読めるというのは非常に貴重な読書体験だと思います。
収録されている山口瞳「穴―考える人たち」がとても面白かったので、「考える人たち」を購入しようとしたら既に絶版または重版未定とのことでした。ということは本屋さんで気になったものを買うだけだったら出会えなかった作品なわけで、そういう意味でもやはり貴重な読書体験でした。
評価:
素晴らしい作家、そして、素晴らしい作品というのはあまた世の中にある。けれど、そのすべてと出会うのも知るのも難しい話だ。そこで必要なのは、素晴らしい作品を集めたアンソロジー。それが、お気に入りの作家が選んだものだとしたら、文句なく信頼できるというものでしょう。
ここで紹介されている3分の1の作家しか知らなかった。もちろん紹介作品は未読。山口瞳の「穴」の不思議世界感、吉村昭の「少女架刑」の冷静で残酷な目線、黒井千次の「冷たい仕事」で書かれる思わぬテーマ選択の驚き。あげればきりがない。
これら12の作品に文句などないが、一番よかったのが、巻末の北村薫と宮部みゆきの解説対談。二人の選別理由とか、作品に対する思いなどもわかるが、現代有名作家が嬉々として好きなことを語る姿というのはほほえましいです。
評価:
半村良、小松左京、吉行淳之介、山口瞳、松本清張、井上靖、円地文子など12人の作家の知られざる短編を集めた、なかなか贅沢な本である。ひとつひとつの短編は、それぞれの作家の「いかにもその作家らしい」作品というよりは、どちらかといえば「へえ、これがあの作家の作品?」と思うような作品が多いのだが、どれをとっても味わい深く、秀作ぞろいである。帯にある通り、まさに「意外な作家の意外な逸品」ばかりだ。
また、あえてこの12編を選んで一冊にまとめたところに、編者である北村薫と宮部みゆきの趣向が色濃く出ていて、その意味でも面白い本である。二人の対談の形で巻末に「解説対談」が収録されていて、最後にこれを読むとこの本を二度楽しめる。収録されている作家の豪華な顔ぶれといい、お得感たっぷりである。
評価:
北村薫さんの著書もアンソロジーも好きなのだけれど、その豊富な知識と物語への愛はほんとうに尊敬しています。
収録されている12編は、名前は知っていてもほとんど読んだことのない作家の小説ばかりだったのでお得感たっぷり。
特に松本清張「誤訳」は、わずか17ページながら読み終えた後に彼らのその後を思わずにいられない。
欲を言えば、巻末の北村薫さんと宮部みゆきさんとの解説対談を、もう少し長く掲載してほしい!本編を読んで、解説を読んで、また本編に戻って読んで……読者の数だけ読み方があるけれど、楽しかった部分や感動した部分を他の人と共有するのも、そこからまた新しい発見をするのも、読書の楽しみの一部だと、お二人はよく実感しているんだろうなあ。
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