『流れ星が消えないうちに』

  • 流れ星が消えないうちに
  • 橋本紡 (著)
  • 新潮文庫
  • 税込540円
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評価:星3つ

 人というのは必ず死ぬように出来ています。死は人生において必然であるにもかかわらず、愛する人が死ぬと悲しい。特に恋人が若いうちに死ぬというのは、相手とこれから過ごしたであろう時間の多さを考えると、その喪失感たるや筆舌に尽くし難いものであることは容易に想像出来ます。しかし、死が必然であるのならば、辛いけれど悲しいけれど全部受け入れていかなければいけないのかも知れません。
 恋人の加地を事故で亡くした奈緒子、加地の親友であり今は奈緒子の恋人巧。二人の視点で語られる日常と加地との思い出。淡々と語られながらも、中盤、抑えていた感情を奈緒子が吐き出す場面から物語は再生へと向かっていく。真実を受け止めてこそ、本当の意味で未来へと歩き出せるのだと感じました。文化祭のエピソードや最後の方で明かされる加地の秘密とか、若いなあ、いいなあって感じで好かったです。恋愛小説が苦手な人も是非。

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『古本道場』

  • 古本道場
  • 角田光代 (著)
  • ポプラ文庫
  • 税込588円
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評価:星3つ

 古本屋さんというのはあまり利用しないのですが、本書を読むとなかなか魅力的な場所のようで、さっそく明日にでも寄ってみようか、といった気分にさせられます。100均コーナーで自分にとってのお宝本を見つけるとかいろいろと楽しみはあるでしょうが、やはり店主から「おっ、佐々木くん。例のアレ、入ったよ」と言われるような、そういったやりとりに憧れたりします。古本は注文して仕入れるものじゃない分、目当てのものを見つけた時もしくは、思いがけず見つけた逸品に出会った時の感動は、普通の書店以上にあるのかも知れませんね。最近は、ネットでいろいろなことも調べられるのですが、古本屋では「超個人的趣味・興味が、どんどんつながっていく」のだとか。たしかに、流行の本を置かなくて良い分、特化している部分もあるのかも知れません。
 岡崎師匠と矢名助のやり取りも軽妙で面白く、角田さんの旅行記としての楽しみもあるお得な一冊。

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『サッカーボーイズ 再会のグラウンド』

  • サッカーボーイズ 再会のグラウンド
  • はらだみずき (著)
  • 角川文庫
  • 税込540円
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評価:星3つ

 小学六年生になった途端にキャプテンの地位とポジションを失い、やる気も失いかけていた少年が、新コーチとの出会いをきっかけにサッカーへの情熱を取り戻し、困難を乗り越えてチームもまたひとつにまとまっていく、という非常にオーソドックスな少年スポーツ小説。
 ありがちな内容ではありますが、ボールに座ったら怒られるけど何故か、とか基本技術が身についていないのに試合中に「ちゃんとトラップをしろ」と言っても意味が無い、など部活経験者はこういったなにげない描写に「おっ!」と思うんじゃないでしょうか。想像だけで書いているな、というのが見えるとそれだけで読む気がそがれますから、こういった細部の描写はスポーツものでは大事ですよ。
 木暮コーチの「楽しむ」という姿勢は、オリンピック選手とかもよく言いますが、本当の意味で実践出来ている人って少ないんじゃないでしょうか。別にコーチとかしているわけではないですが、すごく参考になりました。

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『翡翠の眼』

  • 翡翠の眼
  • ダイアン・ウェイ・リャン (著)
  • ランダムハウス講談社文庫
  • 税込893円
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評価:星3つ

 急速な経済発展を遂げている中国のことなので、本作の舞台1997年はかなり昔のことなのかも知れませんが、現代中国の風俗というか、都会に住む中国人の日常を読むのは初めてなので、興味深く読めました。
「翡翠の眼」だなんて、どこかの冒険映画のサブタイトルみたいですが、これは主人公が捜索を依頼される漢王朝の幻のお宝のこと。おお、ますますそれっぽい。いえいえ、違います。物語は文化大革命からの負の歴史、中国のブラックマーケット、家族愛、そして男女の愛憎などがからみあうミステリー。私としてはミステリーよりも母親と姉妹の関係に心打たれるものがありました。親不幸して苦労かけている子供が、いざという時に役に立つ立たないとは別に、愛情の深さが出るというのは、読んでて涙が出そうになりました。
 小説とはいえ、現代中国の街の空気感が味わえる貴重な読み物。続編にも期待。

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『人間の測りまちがい 差別の科学史(上・下)』

  • 人間の測りまちがい 差別の科学史(上・下)
  • スティーブン・J・グールド (著)
  • 河出文庫
  • 税込1575円
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評価:星4つ

 本書には、自らのイデオロギーを満足させるため、人間の知能について誤った科学的検証を行い、それによる差別の歴史が書かれている。やっかいなのは意図的になされたのではなく、ほとんどが「無意識の詐欺」なのだということ。有色人種は白人より劣っている、という結論を導き出すために科学を無意識にねじ曲げている。悪いことをしていると自覚して行っている人間より、よほどタチが悪い。「人間の測りまちがい」とは知能を測る方法が間違っているというだけではなく、人間の価値を知能というモノサシ(しかも目盛りが正しくない)で、単線上へランクづけしようとする行為自体がまちがいだということなのではないか。動物には自分に近い遺伝子を優先的に残すために、他の集団を排除しようとする行為が本能としてあるのかも知れない。しかし、そういう動物的本能を超えて、客観的に考える力こそが他の動物とは違う人間のユニークさなのではないだろうか。自分の中の偏見を見つめなおす為の必読書。

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『ただマイヨ・ジョーヌのためでなく』

  • ただマイヨ・ジョーヌのためでなく
  • ランス・アームストロング (著)
  • 講談社文庫
  • 税込800円
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評価:星4つ

「あらゆる障害をチャンスとせよ」とはランスの母親の言葉。言うは易し。医師が生存確率3%と診断していた睾丸癌から、ツール・ド・フランスの総合優勝までを誰が予想したか。
 原因があって結果があるのではない。結果をたどっていけば、原因につきあたるのではないか。病気になったからこんなに落ちぶれた、と言うのか、病気になったから精神力が身について成功につながった、と言えるようになるかは自分次第。罹病前のスプリンタータイプのマッチョな肉体は、化学療法によって筋肉が削ぎ落とされ、見る影もなくなったが、それにより体が軽くなり、復帰後は山岳ステージに強くなった。ランスはまさに「障害をチャンス」とした。その後のツール・ド・フランス7連覇という最高の結果も含め「壁と思えるものは実は単なる心の中の障害にすぎない」という自分の言葉を見事に実証したのだ。もちろん、すんなり達成したわけではない。復活するまでの紆余曲折も本書の読みどころ。ランスが自暴自棄になったりする弱い人間だからこそ、感情移入して読めた。

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『四十七人目の男(上・下)』

  • 四十七人目の男(上・下)
  • スティーヴン・ハンター (著)
  • 扶桑社ミステリー
  • 税込860円
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評価:星3つ

 失敗の汚名をそそぐ為切腹させてくれと懇願するヤクザ、潔すぎる日本人、剣道の打ち込む時の掛声が「ハイ」、などなど違和感を感じる描写のオンパレード。それでも日本の文化(特にサムライ)に対する憧れというか愛情みたいなものは感じたので、嫌悪するほどではないのだけれど。
 単純なストーリーも好いし、修行して仇敵を倒すというのも個人的に好きなパターンですが、刀で戦わなければいけない理由にイマイチ納得出来ないし、どうしても設定の甘さは否めない。このシリーズは一冊も読んでいないし、映画も観ておらず、思い入れが全く無いので、必要以上に粗が目についたのかも知れないけれど、ちょっとツッコミどころが多かったです。
「多数の映画を観ただけのガイジン」に時代劇はつくれないと思いこの形にした、とあとがきで書いていて、設定がちょっとおかしくても、その謙虚さに何だか憎めない気はします。

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佐々木康彦

佐々木康彦(ささき やすひこ)

1973年生まれ。兵庫県伊丹市出身、大阪府在住の会社員です。
30歳になるまでは宇宙物理学の通俗本や恐竜、オカルト系の本ばかり読んでいましたが、浅田次郎の「きんぴか」を読んで小説の面白さに目覚め、それからは普段の読書の9割が文芸書となりました。
好きな作家は浅田次郎、村上春樹、町田康、川上弘美、古川日出男。
漫画では古谷実、星野之宣、音楽は斉藤和義、スガシカオ、山崎まさよし、ジャック・ジョンソンが好きです。
会社帰りに紀伊国屋梅田本店かブックファースト梅田3階店に立ち寄るのが日課です。

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