『ボックス!』

ボックス!
  • 百田尚樹 (著)
  • 太田出版
  • 税込1,869円
  • 2008年6月
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  1. ぼくは落ち着きがない
  2. カイシャデイズ
  3. ボックス!
  4. さよなら渓谷
  5. 平台がおまちかね
  6. ザ・ロード
  7. 前世療法
佐々木克雄

評価:星4つ

 ぶ厚くて、熱い全585ページの中には、高校ボクシング部の汗と涙と青春がギュウウウ〜ッと詰まっております。まずは、ここまで綿密に描ききった作り手側の熱意にプラスのポイントを差し上げたい。きっと世の中的には「あの小説のボクシング版でしょ?」てな比較をされてしまうかも知れないが、声を大にして言いたい。「いろんな青春があって当然でしょうが、スプリンターでもボクサーでも、何かにひたむきになってる姿は美しいのだあ!」
 ひとりで勝手に熱くなってしまいスンマソン。ともかくこの小説には中途半端な文化系だった自分を揺り動かすモノがあったことは確か。天才少年と、最初はひ弱だったエリート君と、彼らを見守る顧問の女性教師──お互いの思いが螺旋状に絡み合って昇華していくてなプロセスは(ドラマティック過ぎる部分もあるが)読み手の心を鷲掴みにしてくれます。
「努力・友情・勝利」──そんな言葉をたまには肯定したくなるもんです。

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下久保玉美

評価:星4つ

 先日、ボクシングの内藤の試合をテレビで見ました。9Rまで挑戦者有利だったので、内藤も今回で終わりかなと思っていたところ10Rの左フックから始まった反撃、そして右でダウン、防衛成功。ボクシングは恐ろしいスポーツだと改めて実感しました。
 本書はそんなプロボクシングの世界ではなく、高校アマチュアの世界を天才的才能を持つ少年とその親友で勉強はできるけどいじめられっ子の少年2人を通して描いています。本書を読んで初めて知りましたがプロとアマチュアでは試合形式や戦術が全然違います。プロの一撃必殺ではなく、どれだけパンチを相手に多く入れたかをポイントで競います。簡単に言えば手数が多ければ勝ち、というもの。しかし、それでもボクシングは恐ろしい。本書には試合が何度も描かれていますが、そこにはポイントを競うということ以上に人間の闘争本能をむき出し闘う男たちの姿が描かれます。
 そうしたボクシングの描写だけでなく、少年2人の成長も見逃せない。個人的にはがり勉タイプだった少年が練習を通して変貌していく様子をもっと見ていたいところです。

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増住雄大

評価:星3つ

 ボクシングジム、行ってみるかな。
 今度テレビでやってたら、見てみよう。
 そう思う人を次々生み出すだろう。優れたスポーツ小説(漫画、映画)に出会うと、題材になっているスポーツまで好きになる。かくいう私も、すっかりボクシングが好きになった。
 本書は高校のボクシング部を舞台にしたスポーツ青春小説。登場人物たちのひたむきな努力に心打たれ、汗が飛び散るような臨場感ある試合展開に興奮する。そして繰り広げられる人間ドラマに、思わずうなる。友情、戦い、恋愛、成長、挫折、そして栄光とスポーツ青春モノに必要なすべてがつまっている作品。
 ボクシングの知識がない人でも大丈夫。冒頭の時点では視点人物がボクシング素人なので、ボクシングのルールや用語や考え方を登場人物と一緒に学んでいける。
 一言で紹介するなら「松本大洋『ピンポン』のボクシング版」だろうか。漫画が好きで、でも小説はほとんど読まないような中高生に、ぜひとも薦めたい。

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松井ゆかり

評価:星4つ

 最近は格闘技といえばK-1ということになっているのかもしれないが、昔は(というか自分にとっては)ボクシングだった。当時小学生だった私の家では、月曜夜7時「キックボクシング」以外のテレビ番組を見ることは許されなかった。今は亡き父がボクサーを目指して上京してきたと母から聞かされたのは、ずいぶん後になってからだ。とはいえ、娘の私にはボクシングへの興味は遺伝しなかった。こんなケンカのような行為がなぜスポーツとみなされるのかまったく理解できなかった。
 偏見に近い複雑な気持ちで読み始めた本書だがしかし、驚くほど引き込まれた。特待生でもある優等生の木樽優紀とボクシング部員で天賦の才に恵まれた鏑矢義平の幼なじみふたりを中心に物語は進む。ボクシングに入部した優紀が鏑矢の後を追いかけてめざましい成長を遂げる様子が描かれる。「才能は目に見えるものではなく、自分の中に眠るそれを掘り出すことができるかどうかは運でしかない」という内容の台詞を部の顧問沢木が語る場面がある。私たちは全員、それが開花するかどうかは別として、自分の内に可能性の種を持っている。たとえ脚光を浴びることはなくとも、ひとりひとりが唯一無二の存在なのだ。そういったことをも書ける著者の力量、只者ではないと思った。

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望月香子

評価:星3つ

 タイトルの「ボックス」とは、ボクシングする、ボクシングしろ、という意味だそうです。その名の通り、高校生が突き進む、ボクシングに賭けた青春小説。
 ひょんなことからボクシングに興味と関わりを持つようになった高校教師の耀子は、ボクシングに対する知識も興味も、ど初心者。その視点からボクシングを見られ説明を受けられるので、ボクシングを全く知らなくても、ぐいぐい読めます。
 ボクシング部の鏑矢、優紀など、登場人物の真っ直ぐな人柄がとても魅力。その性格ゆえにトラブルも生まれますが、彼らが光り輝いて見えます。
 特にラストが印象的で、その箇所を何度も読み返してしまうほど。高校生のボクシング小説に収まらず、夢が叶うのと、自分の幸せはイコールなのかを考えさせられました。

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