WEB本の雑誌>今月の新刊採点>【単行本班】2008年8月の課題図書 >『カイシャデイズ』 山本幸久 (著)
評価:
当世、働く人々を描かせたら山本幸久はピカイチだ。
会社なるものを舞台に例えると、社員は役者となってドラマを繰り広げることになる。しかも利益を追求する集合体だから、各々のエゴイズムが縦横無尽に駆け抜ける。経済小説だったら専門用語が飛び交って、アクの強い人々のぶつかり合いに息を飲むだろう。
でも、山本幸久のカイシャは、どことなく「のほほん」としていて笑えるのだ。もちろん、内装会社にいる人々は一癖も二癖もあって、衝突することしばしば。けれど悪人は一人もいない。誰もが「コンチキショー」ともがき、耐えて、成長を見せてくれる。こんな会社で、こんな人たちに囲まれて仕事がしたいなあと思ったりして。
著者自身が内装会社に勤務していたバックボーンがあったと思うが、サラリーマン経験のある人なら作中に「自分」や「知ってる人」がいるはず。それを探すのも楽しいっすよ。
評価:
ある内装会社に勤める人々をコミカルに描いた短編集。
読んでいてこれほど楽しい本は久しぶりかも。仕事ってこうだよ、というような押し付けがましい人生訓のようなものはなく、ただ「仕事楽しい」と思っている人々、その予備軍を見るのはとても楽しい。中にはおいおい、という上司もおりますがそれも小説を盛り上げるのに一役買っています。
そんな楽しい人々の中で最も好きなのが天才型デザイナー隈元歳蔵。まるで明治時代に活躍した志士のような名前の持ち主ですが、彼のすることはとにかく可笑しい。自腹で大木を買ったり、上司とケンカしたり、「コレをしたい!」という希望のために周囲を巻き込んだり、で女性が苦手。出てくるたびにププッと笑ってしまいます。あと、あげるとすれば大屋時絵女史。「コワいオバサン」と会社中から恐れられているお局様ですが筋の通った仕事をします。
どうか、この内装会社が不況に負けて倒産しないことを切に祈るばかりです。
評価:
こんな会社で働きたい!(←帯のコピー)
そうそう、そうだね。そりゃ嫌なこと、辛いことがあったり、つまんねーな、なんでこんなことを、と思ったりすることもあるでしょう。でもさ、愉快なことや楽しいことがあったり、アツい気持ちがたぎったり充実感を感じたりすることもあるわけさ。
本書は従業員50人くらいの内装会社が舞台の連作短編。けっこう熱血な営業チーフ、何かと器用な施工管理部、型破りなヒラメキ型デザイナーの三人組を中心に、古株の庶務女史、野心家の営業リーダー、悩み戸惑う若手社員などが織り成すシゴトの日々を描いている。憎めない彼らのシゴトぶりを見ていると「カイシャって何だかおもしろそうだなあ」と思うことうけあい。カイシャって、何より「人」が大事だよね。
五月はとっくに過ぎたけど今頃五月病にかかってしまった新社会人や「カイシャって、どんなとこ?」な感じの学生さんたちに、ぜひ。
評価:
ちょーっと荻原浩とか奥田英朗とかとかぶってるかなっていう気がしないでもないけど、とてもおもしろく読んだ。私の会社員生活は4年間だったが、業務そのものにはそれほどの情熱を持てなかったにもかかわらず、とても愉快な同僚たちとともに過ごすことができた。生きがいを感じられる仕事と良好な人間関係。そのどちらもなしに働く人々は多い。本書の舞台である内装請負会社ココスペースは、ほとんどの登場人物にとって両方を兼ね備えた職場である。こういう会社で働きたかったと思う人は多いだろう。
特に興味をひかれた人物は、おちゃらけた性格だが人望の厚い高柳とオリジナリティあふれる設計の才能があるが自分の趣味に走りがちな隈元。なかなかこういう型破りな仕事のしかたはできないと思うが、スピリットとしてはこんな風に自由な気持ちを持ち続けたいものである。とはいえ、仕事ができるというのは当たり前だがやはり重要。高度成長期のモーレツ社員とは違った意味での仕事人間であることが要求される時代なのかも。
評価:
ココスペースという内装会社で働く8人の、会社での普通の日々の物語。この「普通」というのがあなどれません。それ、あるある! と膝を打つような気持ちになる、日常での口に出せない感情が、独特のユーモアで描かれています。このセンス、すごい。
慶応卒だから、あだ名がケーオーのちょっと抜けてる営業マン、自分もあだ名で呼ばれたい営業リーダー。男前な顔なのに、全てが古臭い施工管理部…。
相手への心の中でのつっこみの、個性の炸裂さに、読みながら吹き出してしまうことしばしばでした。
読むと元気になれる仕事小説というのは、高度な筆力が必要に思います。それを飄々とやってのけたかのような文体、かなり癖になります。
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