『平台がおまちかね』

平台がおまちかね
  • 大崎梢(著)
  • 東京創元社
  • 税込1,575円
  • 2008年6月
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  1. ぼくは落ち着きがない
  2. カイシャデイズ
  3. ボックス!
  4. さよなら渓谷
  5. 平台がおまちかね
  6. ザ・ロード
  7. 前世療法
佐々木克雄

評価:星3つ

 タイトルに未知なる言葉や専門用語があるとそそられる。例えば『ホワイトアウト』、『メフェナーボウンのつどう道』、『ボックス!』。で、このタイトルですが、「平台〜」って……(微笑)。出版業界ウラ話要素の強い大崎作品に関係者ファンが多いのも納得できます。
 私事、カミングアウトしますと、かつて出版社におりました。主に編集職だったのですが、本を愛する書店営業担当さんたちの奮闘ぶりに感服した経験が多々あります。そんな彼らが主人公に重なるのですが、キョーレツな逆風が吹いている古巣の現状を風の噂で聞く度に、この作品は美化されすぎではなかろうかと思ったりもするのです。
 でも、小説は小説として楽しまなきゃソンですからね、はい、楽しませていただきました。結論を言いますと、この作品は好きです。ソフトなミステリ、癖はあるが悪気のないキャラたち、人を見守る優しい視線──その読後感は、真夏に飲む微炭酸飲料のように爽やかなのです。

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下久保玉美

評価:星3つ

 出版社営業は地味ながら、というか日頃は全くスポットの当たらない職業ですが出版業界の底辺を支えているんですよ。いくら作家が書いても、編集者がその本をまとめて世に送り出しても、その本を誰かが売らなければいけない。「いい本だから売れる」というのは常々幻想だと感じていて、「いい本」でもそれが埋もれてしまっては売れない。「いい本」であることを伝えないといけないのです。それをしているのが書店員であり、その書店員に販促をかけているのが営業さん。なのに出版の仕事というと編集の仕事と思っている人が多くて…、おっとこれ以上書くと仕事をしていたときの愚痴になりますね。
 本書はこの出版社の新人営業マンである青年が営業先の書店や出版社主催のパーティで起きる不思議な事件を解決していく短編集。著者の特徴であるほのぼの、おっとりとした雰囲気が全体を包んでいてファンシーミステリーといった趣です。しかし、そうしたファンシーさの中にも第3話「贈呈式で会いましょう」での新人賞贈呈パーティ時に露呈される人間の持つ暗さを描くなどピリリとしたスパイスも欠かさない、というところがニクいです。ミステリとしてだけでなく出版業界の話も楽しめますよ。

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増住雄大

評価:星2つ

 ライトな読み応えの、人が死なないミステリ連作短編集。
 文芸系中堅出版社の新人営業が主人公。日々の業務(書店めぐり)の中で、色々な事件(というほど大袈裟なものじゃないか)にぶちあたる。一昔前の自社文庫本が何故か大量平積みされている!? いつも元気な書店員さんの元気がないのは何故? 新人賞贈呈式で予想外のトラブル発生!? 長年、地元の人に愛されてきた絵本屋さんが店をたたんだ理由は? 出版社の営業対抗POP合戦!?
 著者が書店員経験者だからこそ描ける現場のリアリティ。普段、消費者の立場でしか行くことのない書店。その裏側では、こんなドラマが繰り広げられていた。
 ミステリというよりは「本にまつわる、心あたたまるおはなし」くらいの気持ちで読むと良いと思います。全編「本」がキーになる話なんで、本好きにはたまらんかも。
 こういう物語がたくさん出て、編集ではなく営業になりたくて出版社を受ける人が増えたらおもろいね。

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松井ゆかり

評価:星4つ

 初めて大崎さんの「配達あかずきん」を読んだのは、書店業務の内部事情を知るおもしろさもある作品だという書評がきっかけだった。それ以来著者の本はほとんど読んできているが、現時点では本領は“書店もの”だと言ってもかまわないだろう。
 本書の主人公は、書店に本を売り込む側の出版社営業井辻くん。なるほど、出版社の側から書店や本を見るとこういう視点になるのかと気づかされる。井辻くんは本を愛する心や社会人としての初々しさを持ち合わせているだけでなく、推理力もなかなかのもの。加えてお人好しなのでさまざまな謎に振り回されてしまうわけだが、そういうところがまたぜひぜひ今後も彼の活躍を見せてほしいという気にさせられる要因でもある。ついでに井辻くんの前の前に営業回りをしていて現在は編集部所属の吉野くんの出番も増えるとありがたい。あれもこれもひっくるめて続編を強く期待するものです。

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望月香子

評価:星3つ

 文庫の新刊を多くても10点出す、言うところ「中」の出版社の新人営業マン井辻くんの成長記録。書店さんと出版社営業の知られざる努力と想いが、元書店員という経歴の著者から綴られています。書き手と編集者から手の離れたところで、本を売るため並べるために、こんなにも必死さと熱意がかけられているんだなぁ、としみじみ。
 ポップ、文学賞のエピソードもさすがのリアルさ。毎日のように行っている書店さんが、違う角度から見えます。読後に書店さんに行くと、いつもより本の陳列や平台具合が気になったり。
「ハートフル・ミステリ」ということですが、ミステリ要素は少なくとも、じんわりと充実感のある読後です。

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