WEB本の雑誌>今月の新刊採点>【単行本班】2008年8月の課題図書 >『ザ・ロード』 コーマック・マッカーシー(著)
評価:
こんな不思議な本に出会ったのは初めてであり、出会えて幸せである。
何かしらの危機的状況におかれた父親と息子が南に進んでいるのだが、ストーリー全体を俯瞰する説明がないのだ。読者は与えられた一字一句から最大限の想像力を働かせ、父子の置かれた状況を思い描くことになる。これがものすごく刺激的な読書だった。どうやら現代文明が破壊され、生き残った人間たちのサバイバル──らしい。
読んでいてヒリヒリするようなSFなのだが、ストーリーそのものより、父子の会話から見えてくるお互いへの愛、生きることへの希望と諦観がジンジン響いてくる。待ち受けるのは悲劇なのか、それとも救いはあるのか……終盤は祈るような面持ちでページをめくっていた。
独特の世界観はなかなか説明しづらいので、興味のある方はご自身の目で確かめていただきたい。ただ、読点が異様に少ないので、正直かなり読みづらいんですけどね。
評価:
おそらく核戦争後、何年か過ぎた世界が舞台の本書。大地は荒廃し、生物もほとんど死に絶え、わずかばかりに生き残った人間が生存のためだけに生きている世界を筆者は淡々とモノクロームの風景を描くように表現しています。しかし、淡々とした描写であるゆえに底知れぬ恐怖を感じます。まさしく世界の終わり。
その世界の終わりをある父子が生き残るために南へ向かって旅をする、という単純極まりないストーリーでありますがその旅で描かれるのは父と子の絆であり、父が子を守ろうとする愛であり、そして子を守るためならばどんなことでもする強さでもあります。生存のためにどんなことでもするのはこの父子にだけではなく、他の生き残った人間たちもまた生存のためにどんなことでもします。本書のページをめくるたびに、どうかこの父子がこうした人間たちに出会わず無事南へとたどり着いて欲しいと思いました。しかし無情にも幾度かそうした人間たちに遭遇し、危険な目に遭ってしまいます。この非情な世界の終わりが描かれる中、唯一の光として存在するのがまだ幼い息子。他者への優しさを失わない彼がこの世界に希望を見出せる唯一の存在であるけれど、多少のじれったさを感じずにはいられないんですよね。
評価:
いつからだろう。自分が何故生きているのか考えなくなったのは。
いつの話かも、どこの話かもわからない。ただ、何らかの原因で世界は破滅しており、地表には生物がほとんどいない。空は分厚い雲に覆われ、太陽は顔を見せず、気温は下がる一方。冬を越すために、南を目指して歩き続ける父親と幼い息子。
暗い暗い世界の中で、ぽつりぽつりと交わされる父子の会話。息子のために「善き人」であろうとする父親と、希望のない世界の中で奇跡的なほど純粋な息子。読点のほとんどない地の分と、「」のない会話文が、作品のイメージをどんどん研ぎ澄ましていく。
何故生きているのだろう。どう生きれば良いのだろう。自我が芽生え始めた頃、繰り返し繰り返し考え続けた疑問を、考え直すきっかけをもらった。
訳者あとがきにて、様々なSF小説や映画からの影響や類似を挙げているが、私は無知なので、ほぼ全部わからなかった。代わりに浮かんだのは、望月峯太郎『ドラゴンヘッド』。荒廃した世界を二人で歩いていく姿が二つの作品でつながった。
評価:
読み進めるのがつらくてつらくて、歯を食いしばりながら読んだ。まだ100ページ、まだ半分…と残りのページのことばかり気にして、早く終わってくれと祈りながら読んだ。
解説によれば、著者は自分の幼い息子とテキサスのホテルに泊まったときにこの作品の着想を得たそうだ。作家というのはなんと因果な商売かと思う。私などもし自分の息子たちがこんな目に遭ったらと考えただけでも呼吸困難に陥りそうだ。
物語の結末は、作者が未来への希望を託そうとして書かれたものだということが強く感じられるものになっている。しかし、と私は思う。ほんとうに親としての最善の策はこれだったのか。現実においてであれば私は、人間はいかなる場合であっても生き続けなければならないと思っている。しかし、本書に書かれたような世の中で果たして生き残ることが善なのか。自分は息子に「何があっても生きろ」と言えるか。どれだけ考えても答えを見つけられそうにない。
評価:
舞台は、破滅した世界。生き残った父親と幼い男の子。少ない荷物と一緒に、暖かい南を目指し、歩いてゆく…。
一寸先は闇とは、このことです。親子の行く先に、どんなことが起こるのか、それを考えるとページをめくるスピードも速まる緊張感。救いの見えない状況の中、唯一の救いは、父と息子の会話です。純真でまっすぐな心の持ち主である息子と、自分が鬼となっても息子を守ると決めた父親のやりとりが溢れています。ですが、心温まるということはなく、相手を思いやる分だけ、かなしく怖くなります。状況が状況なので当たり前かもしれません。
著者の作品は過去に映画の原作となったこともあり、本作品も映画化決定のようです。小説よりも映画になってのからのほうが、より魅力を発揮すると感じる物語でした。
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