WEB本の雑誌>今月の新刊採点>【文庫本班】2008年11月 >『ブライトノミコン』 ロバート・ランキン (著)
評価:
表紙を見ただけでなごむ。なんだこのバカっぽいマスクは。バレンタインデーに、恋人とブライトンに出かけた「ぼく」が、本作の語り手だ。ところが「ぼく」は海から落ちていきなり死んでしまう。これじゃ話が終わっちゃうじゃないか!いえいえ。名前をリズラとつけられた主人公と、ミスター・ルーンの冒険は、ここから始まる。ルーンは、またの名を、神秘の探偵、麻薬愛好家、宇宙刑事、男の中の男、オカリナに新たな力を与えし者だそうだ。宇宙刑事ってなんだそれは。空を飛ぶわけでもないのに。だったらタクシーに乗らなくてもいいじゃないか。だいたい、タクシー代や飲み代を踏み倒して、男の中の男と名乗らないように。こんな風に、キャラクターにどんどんツッコミを入れられるところが面白い。お堅いイメージのイギリスで、こういうヘンな話が出てくるんだなぁ。
そういえば、昔NHK衛星でやっていたイギリス発ドラマ『ドクター・フー』も、B級SFだったっけ。神出鬼没のキャラが出てきたり、ランキン独自のキーワードがあるところは、三谷幸喜さんのドラマに似てるかも。
評価:
謎の人物ミスター・ルーンと主人公がイギリスのブライトンという町に隠された秘密を解きながら、世界征服を企むオットー・ブラック伯爵の野望を阻止するというお話。
謎ごとに十二の章に区切られていて、毎回毎回挿入されるお約束の小ネタは爆笑するほどではないけれど、くくくっと笑ってしまう。ただここらへんは好みの分かれるところで、くどいと感じる方もいるかも知れません。「銀河ヒッチハイク・ガイド」や「サンダーパンツ!」のように、ふざけながらも実は真面目なスラップスティック・コメディ。でもやっぱりこういうのは、好き嫌いの差が激しいような……。
良い意味でふざけているというか、帯の「ま、とにかくオモシロイから読んでみて(by リズラ)」や実在しないラズロ・ウッドバイン探偵シリーズの紹介など、ストーリーとは関係ないところも人を食っていて笑えます。
評価:
ミスター・ルーンに助けられた「ぼく」ことリズラ。本当の名前は自分の過去とともにわかりません。きっかり1年間、ミスター・ルーンと一緒に「クロノビジョン」を悪から守るため、「ブライトノミコン」をめぐる事件の解決の手伝いをすることになる。
派手なカラーの表紙をみたとたん、ポップで面白い作品だと予感した。そして、その予想は裏切られませんでした。へんてこもへんてこ。どのあたりが「人類の未来を守るため」なのか……。リズラじゃなくても、早々この場から退場しようかと思ったのですが、気がつけばすっかりやみつきに。
ミスター・ルーンとリズラのウィットにとんだ会話に、神出鬼没のバーテン、ファンジオとの下品なバカ話ときたら。サッカークラブの熱狂的ファンであるタクシー運転手の登場も忘れてはなりません。支払いを踏み倒すミスター・ルーンはめちゃくちゃだし。でも、そんな彼らが登場する12の冒険話は、ばかばかしくてすばらしい。ユーモアってこういうことだと思うお手本みたいだ。
このおかしなナンセンスワールドにすっかりはまってしまった。作中に溢れるランキンのギャグや、愛すべきキャラクターたちは彼の作品の常連らしい。商売上手な作家の罠だとは思うけれど、さっそく他の作品も読んでみようと思う。
評価:
なんとまあ、見方によってはアホらしいとも言える話を、大まじめに六百ページも書いたものである。ナンセンスなシチュエーションと、はちゃめちゃな登場人物が織り成すコメディタッチの物語は、ばかばかしいけれど実は結構面白い。
とは言え、最初から手放しで笑えるわけではなく、実を言えばこの作品の空気に馴染むまではやや退屈に感じていた。ところが、この独特のリズムに慣れてくると、いつのまにか話に引き込まれて、時折ニヤッとしながら読んでいる自分に気づく。「爆笑コメディ」というほどではないが、こういうのもアリかなと思わせてくれる。爆笑ではないが微妙に面白い……そんな笑いが好きになれそうなら是非!
評価:
延々と繰り返されるおバカなコネタの数々。なんなんだこれは、と最初と惑っていたけれど、読み勧めていくうちにはまってくる。
海に落ちて記憶喪失になった主人公を、助けてくれた探偵のような謎の男・ルーン。彼は勝手に主人公をリズラと名づけ、事件の記録をするよう仲間に引き込む。ブライトンの地図に隠れた12の図柄に関わる事件を順番に解決しなければならないというのだ。
物語は後にリズラがロバート・ランキン(この本の著者)名義で本を出したという体裁をとっている。がしかし、事件と呼べるかどうかさえ疑問なめちゃくちゃな12個の騒動の記録は、辻褄合わせ、言葉遊び、前章で出てきたネタの繰り返しでてんこ盛り。特にリズラと、バーテンのファンジオの掛け合いがくだらなすぎて大好きだ。
『MOTHER2』というゲームが大好きなんだけれど、ネタはそんな感じで、細かいところに気付けば気付くほど面白い。ただし本筋もくだらない事件ばかりでテンポはよくないので、苦手な人は回り道の多さにはまる前に投げ出してしまうかも。
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