『掠奪の群れ』

掠奪の群れ
  1. 20世紀の幽霊たち
  2. ブライトノミコン
  3. 掠奪の群れ
  4. 私たちがやったこと
  5. チェンジリング・シー
  6. ムボガ
  7. 李世民
岩崎智子

評価:星5つ

 ジョン・ディリンジャーという名前を聞いて、「ああ、あの人!」とすぐ分かるのは、アウトローもののファンでしょう。『俺たちに明日はない』のボニーとクライドに比べると、同時代に活躍(?)した彼の知名度は低いほうだから。さて、物語の語り手はデリンジャーの仲間、ハリー・ピアポント(実在の人物)。さては、側にいた人間の目から、ディリンジャーの実像に迫ろうという狙いか?と思ったが、主役はあくまでもピアポント。初登場時、ジョンはハリーに銀行強盗を指南してもらう若造だ。「闘わずして誰かに何かを奪われてはならない。それは自尊心を汚す行為だ(p20)」「女はつねに謎だった。昔から女は星に似ている気がした。(p263)」「これが男の生きざまだ!」なんてハードボイルドっぽい台詞がいっぱい。でも一方で、何度も「起きうることは、起きる(p110)」という言葉が作品中に登場し、通奏低音のように響き続ける。どんなに楽しみ輝いた人生にも、いつか終わりがくるのだよ、と告げるかのように。

▲TOPへ戻る

佐々木康彦

評価:星4つ

 ビリー・ザ・キッドやボニーとクライド、日本でいえば石川五右衛門など、アウトローのヒーローに胸躍らせるのは、男だけではなく女性も同じ。不良はモテるし、ハカイダーは子供に人気あり(古い)。Vシネマの任侠ものは結構観てしまう。悪いところではなくて、強いところにひかれるのですね。本作の主人公、ハリー・ピアポントも禁酒法時代のアメリカで銀行強盗を繰り返した「ディリンジャー・ギャング」の実質的リーダーというアウトロー・ヒーロー。初めて監獄に入れられた時の騒動から、ギャング時代、最後の投獄まで、カッコ良いイメージが崩れませんが、読了後よく考えてみると本作はノンフィクションではなく、小説なのです。実際はハンサム・ハリーもスケールの小さい男だったりしたのかしら、とか考えたりもしましたが、起こした事件は忠実にあることを考えれば、その事実だけでもすごいこと。映画みたいな本当の話(細部はフィクション)、スゴイです。

▲TOPへ戻る

島村真理

評価:星3つ

 映画や小説で銀行強盗のギャングが活躍するところをみると、彼らがかっこよく思えてしまう。映画なら「バンディッツ」がスマートでお気に入りだし、「陽気なギャングが地球を回す」では個人の能力が最大限にいかされるチームワークが面白いし、おぼろげな記憶だが、映画「俺たちに明日はない」の悲惨な結末ですら、らしくてかっこよく思えた。あくまでも、彼らの理由は超個人的だが、欲しいものを権力から強奪し、出し抜き、何者にも支配されない自由を体現する様子がクールに思えるのだろう。
 この本は、ボーニーとクライドと同時期に実在した、ハリー・ピアポントの生涯を元に記した物語だが、ここで描かれる彼(や仲間)は、ストイックなまでに真のならず者だった。あまりに日常とかけ離れたとこにいる人だという印象が強くて読むのがつらかった。
だからこそ、対照的な仲間たちとの強い絆が印象的だ。ジョンをはじめ、チャーリー、ラッセル、レッドや、彼らの恋人メアリ、ビリーの人間的な魅力と素晴らしい関係に魅せられていった。もちろん、その仕事ぶりにも。当時の大衆に人気だったというのもわかる気がしてくる。

▲TOPへ戻る

福井雅子

評価:星5つ

 あたりまえのように車を盗み、銀行強盗だってへっちゃら。捕まりそうになれば躊躇なく罪もない人たちを撃ち殺す。そんなとんでもない無法者たちが、なぜかかっこいい。冷静に考えればとても受け入れられないようなとんでもないヤツらを、応援したくなるのはなぜだろうか。それはたぶん、彼らが社会的なルールや体裁や慣習やその他もろもろのしがらみからあまりにも「自由」であることへのあこがれと、自由の代償としてふりかかるたくさんの困難や痛みを正面から受け止めて屈しない「強さ」への賞賛からだろう。仲間を想う気持ちの暖かさも、読者の心にあたたかい光を灯す。
 シンプルで力強い文章が、荒々しく無骨で誇り高い男たちを際立たせ、読者をぐいぐい引き込んでいく。実在したギャングたちの実話をもとに描いた作品ということだが、このかっこよさなら本人たちが読んでも大喜びするに違いない。

▲TOPへ戻る

余湖明日香

評価:星4つ

 まじめな女の子にとって、優等生よりもちょっと不良っぽい男のほうがかっこよく見えるものだ。少女漫画の定番。一応(?)まじめな私はこの物語の主人公ハリーにすっかり夢中になってしまった。
明日死刑を執行されるハリーの回想から物語は始まる。若いときの最初の犯罪から、刑務所の中でも自尊心を保って周囲の賞賛を受けていく過程、刑務所で出会った仲間達、ありえないような脱走劇……。
鉤括弧の会話文無しで、ハリーの一人称で進む文章は、権力者達への皮肉も下品な冗談も最高にクール。仲間達との様子はやんちゃな少年のまま大人になってしまったよう。でも自分の信条とは相容れない犯罪者や警察官と対峙する姿は、本当の自由を知っているようでめちゃくちゃかっこいい! そしてジョンをはじめギャング仲間達との信頼関係が熱いのだ。
ジョン・ディリンジャー一味は実際にアメリカで強盗を繰り返していたにも関わらず、ファンも多く何度も映画化されているらしい。ヒーローよりもナンバー2が好きなので、ぜひともジョンではなくハリーが主役の映画を撮って欲しい。
さて、まじめな女の子がまじめである所以は、悪い男に憧れるだけで本当についていくわけではないところだ。ハリーの恋人として生きるメアリがハリーと同じくらいとってもかっこよく思えるのは、自分がそうなれない憧れのせいかもしれない。

▲TOPへ戻る

<< 課題図書一覧>>