『海を破る者』今村翔吾

●今回の書評担当者●ふたば書房京都駅八条口店 宮田修

  • 海を破る者
  • 『海を破る者』
    今村 翔吾
    文藝春秋
    2,200円(税込)
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あなたは、河野六朗通有という武将をご存じだろうか。

伊予の水軍、河野一族の棟梁。
時代は、鎌倉時代。
北条時宗、元寇の時代です。

海の向こうの国々に憧れを持つ彼が、異人二人と出会い、心を揺さぶられます。

一遍と会うたびに、深刻になっていく元、蒙古帝国の動向。
この束の間の邂逅が、お互いに自己の進む道の確認を行なうことになる。
この二人が同じ一族だと、初めて知りました。
知らないことが知れる、本読みの醍醐味ですね。


六郎の己は、何をするべきか。
人との出会いの中で、培われたブレることのない信念。
人を信じ抜く強さ。
かく有りたいという理想を実現していく逞しさ。

いつも、新鮮な解釈を見せてくれる固定概念を覆してくれる今村先生の小説。
有名な@「河野の後築地(うしろついじ)」も別解釈でみせてくれます。

これがまた、六郎の生き様を見ている私達には、しっくりくる。

ラスト涙目になってしまいました。
現在と、リンクして読んでしまいました。

言葉の壁、人種の壁はある。
恐れるのはしょうがない。

でも、その人のことその人の国のことを想像すること、知ろうとすること、わかろうとすることから始めよう。

違う人間だということ、考え方もわかってくるはず。
喜ぶ、怒る、哀しむ、楽しむ、同じヒトだということが。

そうしたら、一緒に前を向いて歩めるかもしれない。

今、眼の前で困っている、助けを求めている、そんな人を、ヒトは、人間なら手を差し伸べる、差し伸べられる人でありたい。

そういう世の中でありたい、そういう世の中でないと駄目だ。

まずは、出来ることから、始めよう。
手の届く範囲から始めよう。

そんな希望を抱かせてくれる物語。

800年前の時代、でもいまと変わらないのではないか?
戦争はおこっている。でも、わたしたちが見ているのはスクリーン越しの戦争だ。

なぜ、助けてくれなかった中というの悲痛な叫びが、海を破るもののタイトルに込められた想いが胸を打つ。

風の音と海の匂いがする快男児河野六朗通有の物語。

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ふたば書房京都駅八条口店 宮田修
ふたば書房京都駅八条口店 宮田修
高知県生まれ、大阪在住。他書店から、2020年よりふたば書房入社。好物は、歴史時代小説、ミステリですが、ジャンルは、問いません。おすすめありましたらお願いいたします。好きな作家さんは池波正太郎先生。