『明日、晴れますように 続七夜物語』川上弘美

●今回の書評担当者●福岡金文堂志摩店 伊賀理江子

  • 明日、晴れますように 続七夜物語
  • 『明日、晴れますように 続七夜物語』
    川上 弘美
    朝日新聞出版
    2,090円(税込)
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『明日、晴れますように』
きっとみんな一度は祈ったことのある言葉。

『明日、晴れますように 続七夜物語』

タイトルに「続」とあるが私自身『七夜物語』は未読。(この時点では)

なんの前情報も持たず、余分な先入観もなくこの本を読んだ。
読み終えて悟った。
この本はたぶん私にとって一生大切な本になる。

仄田りらと鳴海絵(かい)は小学3年生でクラスメートだ。
二人の視点で交互に、内面をとても丁寧に描かれている。

10歳は子どもだけれど、寝起きや着替えや生活のいろんなことがある程度自分でできるようになり、こころが急成長していく時期。
自分でもうまく扱いきれない衝動や、入り込みすぎる集中力もある。
周りの大人や親を落ち着いて観察したり、もてあます程の自分自身としっかりと向き合ったりする。
このふたりはなんていうか、根性がある。
いやガッツ!みたいな根性じゃなくて、投げ出さない、というか、雑にしないというか。
このふたりの、それぞれの温度が好きだ。
すごくいい。

りらはあるとき思う、
「なつかしい、と、さみしい、は、近い気持ちなんだということを、あたしはその時、初めて知った。」
自分の気持ちに正直に向き合って、自分で見つけた。すごいことだ。
人生を重ねていくとこの感情は親しみ深いものになる。なんていうかちょっと切ない。

絵はあるとき思う、
「なかよしな感じが、へっちゃったような感じ、なのかな。なかよしじゃなくなるのが、こんなにいやなことだったなんて、知らなかった。」
なんてみずみずしい発見なんだ。
なかよしがへっちゃったような感じ、わかる。少し胸が詰まる感じ。
ぐいぐいと、自分自身が10歳の頃の感覚に戻っていく。

絵はまたべつのとき思う、
「やだなあ、『自分で考える』ことって。自分のうつわが小さいことが、どんどんはっきりしてきてしまう。」
なんてこった!!
これはもう真理じゃないか。ビックリした。
自分のうつわの小ささと葛藤しながら、それでも自分で考えて考えて考えて、人生は進む。
死ぬまで自分のことは自分で考えるしかないのだ。

この本には大切なことが散りばめてある。
そっと、たくさん散りばめてある。
この世界でもう少し息をして過ごしていくうえで、実はとても大切なこと。

物語は、りらと父親が冒険をするところから急展開を迎える。
前作を読んでいなくてこれだけ楽しめたのなら、読んでいればさらに8倍、いや12倍は楽しめたのでは......と思わなくもない。
ここからはもう読むのを止められなくなる。
本に没頭する気持ちよさみたいなものをしっかりと味わえた。

少しだけ、
記憶を消して、子どものときに読みたかったなとも思う。
なぜだかもどかしさを抱えていたあの頃に。

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福岡金文堂志摩店 伊賀理江子
福岡金文堂志摩店 伊賀理江子
福岡県糸島市在住。2020年福岡金文堂志摩店入社。2022年頃から文芸文庫担当。夫がひとり娘がひとりの3人家族。江國香織が好き。大好き。ミステリやコワいものグロいものも大好物。整体ですべての筋肉が眠っていると言われたことがある。だからかよくつまづく。いろんな意味で。