『イギリスのお菓子とごちそう アガサ・クリスティーの食卓』北野佐久子

●今回の書評担当者●精文館書店豊明店 近藤綾子

  • イギリスのお菓子とごちそう アガサ・クリスティーの食卓
  • 『イギリスのお菓子とごちそう アガサ・クリスティーの食卓』
    北野 佐久子
    二見書房
    1,980円(税込)
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  • イギリスのお菓子と本と旅 アガサ・クリスティーの食卓
  • 『イギリスのお菓子と本と旅 アガサ・クリスティーの食卓』
    北野佐久子
    二見書房
    2,090円(税込)
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 小学生の頃、アガサ・クリスティにどハマリした私は、片っ端に読み倒した。言うまでもなく、トリックの凄さに圧倒された。 同時に、小説の舞台であるイギリスの風習や風土、雰囲気に酔いしれた。そして、一番気になったのは、料理だった。クリスティが料理好きだったからか、とにかく、クリスティ作品には、美味しそうな料理やスイーツがたくさん登場する。(時々、毒が入るけれどね)

 当時は、インターネットなんてない。シードケーキやラプサン・スーチョン、クロテッドクリームをつけたスコーンやキドニープディングなんてカタカナで書かれた料理名には、簡単な注釈がつけられていたが、なかなかイメージが出来なかった。英会話の先生に聞いたり、図書館で調べたりしたが、目的のものにたどりつくことは、まずなかった。

 夢見る少女もすっかり大人になったある時、婦人画報社から北野佐久子『アガサ・クリスティの食卓』が発売された。小説に登場する料理やスイーツが紹介され、レシピ付き! 実際に作ることが出来るし、何より、何で出来ているかが分かる。ただ、残念なのが、写真が全て、白黒であること。くぅ...これがカラーならば...と何度思ったことか。

 ところがである。ナント、21年ぶりに(2019年)、大幅に加筆、写真も増量で、二見書房から『イギリスのお菓子とごちそう クリスティの食卓』として再刊行! もちろん、レシピ付きだし、なんと言っても、写真はカラー! 最高である。改めて、著者が取材しただけあって、料理の写真はもちろんだが、イギリスの風景やお店などの写真が豊富で、ちょっとしたイギリスのガイドブックとしても楽しい。

 反面、クリスティファンで、クリスティに特化した本を期待している人には、少し、肩透かしを食らった気分になるかもしれない。著者がイギリスに留学していた時の体験話や思い出話が多いから。

 でも、クリスティが住んだグリーンウエイの家を訪れた写真がたっぷり紹介されているのは必見である。だって、この家は、『死者のあやまち』の舞台にもなっているから。

 また、小説のように、実際に、庭に沢山のハーブや木があることが、著者が撮った写真で分かるし、『ハロウィンパーティー』に出てくるリンゴが、プライムリーという品種で、簡単に手に入る身近なリンゴと聞けば、リンゴ食い競争に使われる理由も背景も分かる気がする。つまり、食や食習慣や風土を知ることは、小説のバックボーンとなり、これは、更に、小説に深みや面白さをプラスする効果となる。

 嬉しいことに、第二弾となる『イギリスのお菓子と本と旅』(二見書房)も発売された。こちらも、写真が豊富で、クリスティだけではなく、ディケンズやシェイクスピアなどの本を取り上げ、イギリスの風を感じることが出来る。

 世界地図を広げ、図鑑や事典と、にらめっこしながら、どんな料理なのか?と、必死に調べていた子供の頃の私に、「こんなにいい本があるよ!」と渡してあげたい一冊、いや、二冊である。

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精文館書店豊明店 近藤綾子
精文館書店豊明店 近藤綾子
本に囲まれる仕事がしたくて書店勤務。野球好きの阪神ファン。将棋は指すことは出来ないが、観る将&読む将。高校生になった息子のために、ほぼ毎日お弁当を作り、モチベ維持のために、Xに投稿の日々。一日の終わりにビールが欠かせないビール党。現在、学童保育の仕事とダブルワークのため、趣味の書店巡りが出来ないのが悩みのタネ。