『鷲は舞い降りた』ジャック・ヒギンズ

●今回の書評担当者●マルサン書店仲見世店 小川誠一

  • 鷲は舞い降りた (ハヤカワ文庫NV)
  • 『鷲は舞い降りた (ハヤカワ文庫NV)』
    ジャック ヒギンズ,Higgins,Jack,光, 菊池
    早川書房
    1,254円(税込)
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 静岡県沼津市マルサン書店小川と申します。

 前回も不屈の男たちが描かれた作品をご紹介いたしましたが、今回ご紹介する作品も魅力的で素晴らしい男たちが活躍する作品です。

 さて突然ですが、70年以上前に起こった第2次世界大戦(太平洋戦争)当時についてお話してくださる方が周囲にいらっしゃいますでしょうか。もしあなたの身近にそのような方がいらっしゃいましたら、今のうちにいろいろお話できるといいですね。戦中・戦後には食べるものも着るものもなく、ものすごく苦労した話は便利で快適な現代に生きる私たちにとって別世界の出来事のような気がしてしまいます。亡くなった方だけでも世界中で8500万人以上!という記述がありますし、日本人は300万人以上!の方が亡くなっているようです。(私のお爺ちゃんも沖縄で戦死しました。)

 周囲にいらっしゃる年配の方は揃って「戦争は嫌だったねー。」と呟かれます。「戦争って何?世界中でどんなことがあったの?」という素朴な疑問か実は一番大事なのではないかと。そこから何かいろいろ見えてくることがあると思うのです。

 でもいきなり世界史年表を読むところから入るのは少々難易度が高いですよね。まずは入りやすい小説や映画から入るのもひとつの方法だと思います。男性はアクション映画が好きなのでそこから入ってもいいかもしれません。そこでおススメなのがこの映画にもなった『鷲は舞い降りた』です。

[あらすじ]
 鷲は舞い降りた! ヒトラーの密命を帯びて、イギリスの東部、ノーフォークの一寒村に降り立ったドイツ落下傘部隊の精鋭たち。歴戦の勇士シュタイナ中佐率いる部隊員たちの使命とは、ここで週末を過ごす予定のチャーチル首相の誘拐だった!イギリス兵になりすました部隊員たちは着々と計画を進行させていく...使命達成に命を賭ける男たちを描く傑作冒険小説―その初版時に削除されていたエピソードを補完した決定版。

 アクションだけでなく、その当時のイギリス・ドイツを中心とした世界の状況が見えてきます。それは作中に登場する人物たちの行動や言葉からも感じ取れます。そしてのちに発売された完全版と見比べてみた時に初めてわかることがあるのですが、勇敢な軍人たちの話だけでなく、悲しいラブロマンスが実はこの作品にとって大きな役割を果たしていたのです。

 1回読んだだけではよくわからなかった。それがあったからこそ、この作品は発売から半年の間アメリカ・イギリスでベストセラーだったのですね。戦争により出会い、そして別れた男と女。そしてその恋をいつまでも引きずる男がいて、そして彼をいまでも愛しているのに彼の腕に飛び込んでいかない決断をした女。読者の心を揺さぶる悲恋です。

 スクリーンに登場されていた俳優は、ドナルド・サザーランド(『24』で有名なキーファー・サザーランドのお父さん) ロバート・デュバル マイケル・ケインなどなど 超有名俳優が出演しております。映画の出来には賛否両論あるようですが、私は傑作だと思っています。まずは映画を観てそれから小説がいいかもしれません。もちろんその逆でも。

 著者のジャック・ヒギンズは冒険小説では大変知られた作家ですが、この作品の他にも数々の傑作を残しています。まだこの作家の作品を1冊も読んだことがないというあなた。この「ヒギンズ節」と呼ばれる作風にぜひ触れてみてください。必ず他の作品も読みたくなります。私は彼の作品を読み第2次世界大戦の事に興味を持ちました。人種・宗教・思想を含め、数々の問題を抱え込んでいるイギリスを垣間見ることもできました。

『三国志』を読んで中国に興味を持つかもしれないし、『JOJOの奇妙な冒険』を読んでメキシコに思いを馳せるかもしれない。あなたがこれから出会う素敵な本はどこへあなたを導くのか気になります。ぜひ出会いを求めて書店にいらしてくださいね。

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マルサン書店仲見世店 小川誠一
1968年生まれ。SF・冒険小説が大好き。最近は読むスピードが落ちているのが悩み。