『白と黒』横溝正史

●今回の書評担当者●宮脇書店ゆめモール下関店 吉井めぐみ

  • 白と黒 金田一耕助ファイル18 (角川文庫)
  • 『白と黒 金田一耕助ファイル18 (角川文庫)』
    横溝 正史
    KADOKAWA
    1,232円(税込)
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 日本の名探偵といえば金田一耕助を外せない。

 私の初めての金田一耕助は映画『犬神家の一族』。佐清のゴムマスクに怯え、菊人形から首が落ちるシーンに恐怖を覚えた。その後コミック『獄門島』JET画で怪しく美しく描かれた横溝ワールドに魅了され原作小説を読むようになった。戦後の地方の古い村で起こる事件が印象深いが、実は都会で起こる事件も多かった。その中でも私の記憶に刻まれたのは『白と黒』である。

 映画の撮影所近くに建てられた雨後の筍のようにニョキニョキと生えた巨大団地を舞台に殺人事件が起こる。現代のマンション・アパートとは違う昭和の巨大団地。何もないところから住宅と店舗を作り、様々なところから住人が集まってきた団地に飛び交う差出人不明の怪文書。住人の一人が金田一耕助に怪文書の相談をするところから始まる。なんとも近代的で、因習とは距離をとった舞台装置である。金田一耕助が団地を訪ねたその日に死体が発見される。それも顔のない死体だ。新しい形の共同社会で起こる陰惨な殺人事件な上に登場人物たちは改めて読み返しても怪しい大人ばかり。誰もが犯人に見えてくる。事件が進むにつれ、登場人物たちの秘密が開示されていくのだが、そこに垣間見る古い考え、思い込みや偏見。あの時代ならではの、それぞれの事件が複雑に絡み合って完成した作品である。

 犯人について語りたいこともあるが、ネタバレになるので我慢するとして前に読んだ時と違うなと思ったのは若い頃に読んだ時と今読むのでは気になる箇所が違うこと。女性に対する扱いがやはり低く感じる。彼らなりに尊重していてもどこかずれているのだ。彼女たちもそれに気づかないところが昭和だなと思う。他にもそこはかとなく感じる景気の良さ。日常パートがどこか明るく表現されている。高度経済成長期で社会が明るい分、闇もまた多く生まれたことを象徴する部分ではないだろうか。

 最後に金田一耕助が事件の感想として世代間の意識の違いを論じているが、時代が違うと思いつつもこれだけは令和の時代にも通ずるところがあると思った。

 先日、たまたま見た『ブラタモリ』が成城の回だった。『白と黒』の舞台も成城。映画撮影所があり、その近辺でロケ撮影もしていたという。奇妙な巡り合わせと思い現在の景色を見ながら、50年以上前の景色を想像しながら読む『白と黒』も(物騒な内容だけど)なかなか良かった。

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宮脇書店ゆめモール下関店 吉井めぐみ
宮脇書店ゆめモール下関店 吉井めぐみ
書店員13年目。気付けばミステリーばかり読んでいます。伏線を探すつもりが、だいたい作者にいいように騙される。それでもやめられないのがミステリーの魅力。横溝正史、綾辻行人、有栖川有栖、京極夏彦、町田そのこ、青山美智子、澤村伊智、芦花公園、もっともっと好きな作家さんたくさんです。推しは 谷山紀章 、GRANRODEO SnowMan 。