第3回 自己紹介をかねて~半田健人のギターの思い出③
国産ビザールギター最多所有数100本になってしまったわけ
――神谷正行さんのギターのお話の前に、ビザールギターについてもちょっと伺わせてください。半田さんは最多で100本所有されていたという有数の国産ビザールギター・コレクターでいらっしゃいますが、そんなに増えたのはどうしてですか?
ビザールギターを集めだしたきっかけを最も端的に言うと、僕はモズライトが本当は欲しかったんです。それは僕の好きなスタジオミュージシャンの金成良悟さんがモズライトを使っているということが判明したんでね。ただ15年ぐらい前にそう思った時、まだモズライトって無駄に高くて100万円以上、下手したら200万くらいする上に日本国内で流れてるヴィンテージはオリジナル性が低いものがほとんどという話もあって。ちょっと割の合わない買い物だと思った時に取り急ぎモズライト的な音がするものをと思ったんです。ビザールギターは、作られた年代的にもきっと目指したのはモズライトとかあの辺だろうと。当時ビザールは今よりさらに安かったから、それでたまたまこの音いいじゃんっていうのが手に入れられたらこれは儲けもんだろうと。で、モズライトを買うまでの「つなぎ」として買い始めたら、ビザールにはビザールの良さがあって......。この世界面白いなって思ったら最終的に100本になっちゃった(笑)。ビザールギターというのは安いガラクタだけど、その割にいい仕事するなっていう感じはしたんです、僕はね。今は50本に減りました。
――半分になったんですね。まだ多いほうか思いますが。歌謡曲を含め、特に昭和40年代のものがお好きと伺いました。その辺りの日本文化みたいなものをビザールギターに感じるんですか?
そう。今、話してるうちに思い出しましたけど、最初僕はわりあい赤のビザールギター買ってた。赤いギターが好きで。で、なんで赤かっていうと、あの時代の赤っていうのがあるんですよ。昭和の赤。「フェンダーのキャンディアップル」とかいう気の利いたもんじゃなくてね。郵便ポストに近いのかな。あるいは電車の色みたいなペンキの色ですよ、要するに。赤は古さが一番よく出るんですよ。で、その赤さ具合を見てると、自分の中の昭和40年ぐらいがイメージされてくる。僕、電車も好きだから鉄道を通して古いものに昔から触れてきたんです。昭和基準に電車というのがあって。鉄道も塗り替えてはいるんだけど、基本的には色の号数っていうのは変えずに引き継ぐので。音の良い悪いで集めてたら、こんな本数はいかないんですよね。100本あってそのうちに使えるのなんて5本ぐらいですよ。打率が低い(笑)。もっと言えば音は悪くないんだけど、弾きにくい。ギターとして扱いづらいってのは多いですね。
――扱いづらいというのは?
ビザールギターってフレットが悪いんですよ。フレットの仕上げがとにかく悪くて。使ってる金属も悪いし、フレットって面取りをきっちりしないといけないんですね。角を削って丸みを作って。あとは太さ、幅、高さ、そういったものも関係してくるんだけど、全部がダメ。
――日本の職人技術をしてもダメだったんですかね。
知らなかったんですよ、きっと。ギブソンとかフェンダーのフレットはこういうもんなんだよということを。あと、当時はギター作りというものを専門職の人間がやってないことが多かったんです。特にテスコやグヤトーンっていうのは大量生産の会社でしたから、まるでパートのおばちゃんクラスが作ってましたから。全てがイージーですよ。ネックのシェイプなんかも同じモデルでも1本1本シェイプが違うんです。だからそれはそのおばちゃんの気分と、あと腕。たまにすごい当たりのネックがあったら「はは~ん、さてはこれはトメさんだな。いいネックだね~」とかそういう感じで(笑)。でもそれも面白さのうちなの。意外にいいのに当たったりとかするからやめられないんですよ。
縁があるギターは必ず自分のところにやってくる。江藤さんの「オレンダー」
――半田さんは金額の問題とかレア度とかの問題じゃなく、「縁があるギターは必ず自分ところにやってくる」という信条をお持ちとか。
そう。スピリチュアルな話とかではないんですが、これはもう自分が経験してるので。「こんなギター、どうせ手に入らないから」と思わずに、常に楽器店にギターを見に行って自分の中にデータを持っておく。実物が一番いいですけど、本でもネットでも様々なギターの情報を常に収集して、自分の欲しいものを固めておくと、向こうからやってくるんですよ。
――それが先ほどの神谷さんのギターの話でしょうか?
ギターは縁だってことは、2つの経験が僕にそれを教えてくれたんですが、1つは江藤勲さんのオレンダーです。著書『たずねる 半田健人の歌謡曲対談集』のコラムに書きましたので、そちらも読んでいただきたいですが、その話をさらっておくと、僕は中学の頃からXのTAIJIさんのベースと共に歌謡曲の中にもいつも好きなベースサウンドがあって。最初におっと思ったのはね、辺見マリさんの2枚目の「経験」という歌。それはベースから入るんですけど、あのベースのセンスが良くてね、すごくかっこよかった。その時は「当時のスタジオミュージシャンってみんな同じような音出してるな」と思ってたんです。でもそれはみんなが同じような音出してるんじゃなくて、江藤さんが一人でやってただけだったんですよ。でも、そんないっぱいの曲を一人の人がやると思わないじゃないですか。
――どうして一人だと判明したんですか?
23、4歳ぐらいの頃に、ポリドールから出ていた江藤勲名義のイージーリスニングのLPを見つけたんです。江藤さんのベースがフィーチャーされたようなミックスになってて。それをたまたま入手してレコードプレーヤーにかけたら「あの音じゃん!」ってなって。「そうか、この音は江藤さんが一人でやってたんだ」というのがその一枚のLPからわかったわけです。
そこから僕の江藤サウンドの探求が始まるわけですよ。当時のスタジオミュージシャンはほとんどがフェンダーのジャズベースを使ったから、ジャズベースでなんとか同じ音が出るんじゃないかとまずは同年代のヴィンテージジャズベースを買ってみて挑戦したんだけどなんかやっぱり違うんですよね。似てるような似てないようなみたいな。弦をフラットワウンドに変えたりスポンジミュートしてみたりとかいろいろやったけど、その音が出ない。ある時「ベースマガジン」の「MY DEAR BASS」というプレイヤーが自分の思い入れのある一本を解説するコーナーに江藤さんが出た号があるのを知って入手して、何これ?ってなって。「メーカー不明」って書いてるし、僕も初めて見るベースなんですよ。国産の匂いがすごいするけどなんか全部中途半端な楽器。いろいろと調べていく中で、マイクの型が似たテスコのEB18に出会うんですよ。ピックガードの形とかもほぼ一緒で。で、EB-18を入手して弾いてみたら音が似てたんですよ。フェンダーよりか近くなった。でも「同じ」ではないなと。弾き手の問題とかいろんな要素があるからかな?と、違和感を感じつつもこれでやってたんです。
――情熱を感じますね。
その後、「オールナイトニッポン」のパーソナリティをするのですが、割と自分の好きなようにテーマを決めさせていただけたので、その中で江藤さんを探したいってディレクターに提案したんですよ。江藤さん、その時消息不明だったから。それで番組で江藤さん探してもらってご本人に会うことができました。詳細は本に書いた通りで、そうやって本人にまでたどり着き、結果としてなんとこのベース「オレンダー」を譲り受けたという話なんです。本当に望んでいたもの、同じモデルじゃなくて「それ」ですから。「ブルー・ライト・ヨコハマ」のそれ、「喝采」のそれ、「経験」のそれ。その江藤さんのベースを持って帰って鳴らした時に同じ音がしたんですよ。テスコのEB-18の時は似てるけど違うと思ったでしょ。でもそれはアンプも違えばミキサー卓も違うから違うんだと思ったんだけど、やっぱりその楽器の音っていうのがあって、うちのシステムでも江藤さんの音がする。やっぱりこの楽器の音だったんだなと。これ以外であの音は出せないなということを確信しました。
もう一つのご縁ギター:神谷さんのモズライト
――縁と情熱の賜物ですね。そしてもう一つのギターに関する縁というのは?
さっきモズライトの話で金成さんという名前が出ましたけど、僕はある勘違いをしてて。金成良悟さんともう一人、神谷正行さんという方のギターは音質は似てたものだから、僕は同一人物だったと思ってたんです。ある時、神谷正行名義のレコードに針落として「この音って僕が金成さんだと思ってた音じゃん。あ、二人いたんだ」と。僕の感覚で言うと「丁寧な日の金成さんが神谷さん」だった(笑)。神谷さんの方が上手い。より美しいんですよ。スタジオミュージシャンもその日によって気分があると思うんですよ。「今日乗ってるね」なんて思ってた時の金成さんが神谷さんだった。金成さんは金成さんで好きなんだけど、僕のナンバーワンギタリストは神谷正行さんって人だったことが、そのLPから発覚したわけですよ。
――またしてもLPの音から人物が判明したわけですね。すごい耳の良さですね。
で、そこから1か月も経たないうちに、渋谷のスクランブル交差点を歩いてましたら、偶然、10年ぶりぐらいにあるギター屋のオーナーとすれ違ったんです。交差点ですから立ち止まるわけにいかなくて「社長久しぶり! まだ楽器屋やってるの?」「移転したんだけどまだやってるよ」「じゃあ、調べて行きます」って別れて。そこから1か月くらい後に、この間会ったしちょっと行ってみようとふらっと行ったら、普段名古屋の店舗にいる社長がちょうど東京にいて。そこに赤いモズライトコンボが置いてあったんです。セミアコみたいな形なんですけどパッと目を引かれて「お、これ上物じゃないですか」「これ、半田さん気に入ると思ったよ。弾いてみる?」なんて弾かせてもらったらそこそこいいわけですよ。で、「買ってくれるんだったら安くしますよ」なんて言うから「そんなこと言わないでくださいよ、買っちゃいますから」みたいなことを言っててろてろ弾いてたら「あるスタジオミュージシャンの息子さんからギター買い取って、それが今、半田さん弾いてるやつなんだよ」って。それで「この人なんだけど、知ってる?」って言って出てきた名前が神谷正行さんだったの。
――ええ! すごい偶然ですね。
レコードで神谷さんのことを知ってから2か月ぐらいですよ。「うっそ! これマジですか?」ってなって。「知ってるも何も、この人、僕の一番憧れのスタジオミュージシャンなんですよ」って言ったら「実はもう1本預かってるんだ。ちょっとクタってるんだけど、同じモズライトコンボのサンバーストを預かってて、今度それ持ってきますよ。1週間後に来て」って言われて。で、もう1回店に行ったの。赤のモズライトはすごくピカピカで綺麗なんだけど、結構使用感のあるやつが出てきてね。ネックの塗装も剥げてくすんでるけど、なんかこうオーラがある、それなりの。で、弾かせてもらったんですよ。そしたら赤と全然音が違ってて、それがレコードと同じ音なのよ! 全く同じ音! オレンダー弾いた時と感覚は全く一緒。
――わあ、感動ですね!
その楽器の音っていうのがあって。ボロい方は神谷さんが多分仕事道具で使ってたんだと思う。それで感動しちゃって。今までビザールギター100本買って試してもあの音出なかったですよ。似てるよね、でも同じではないよねって僕は100回アウトだったんですけど。ついにホームランが出まして。で、ついでだから2本買うって言いました。この際ね。
――それは買わないわけにはいかないですよね(笑)息子さんはなぜ売りに来たんでしょうね。
そのギターを社長が買い取ったのは1年くらい前で、名古屋の店舗にずっと置いてたんだけど店の移転を機に東京に持ってきたみたいでした。お歳ということもあって、いわゆる終活で、神谷さんは名古屋に住まれてたから社長のとこに息子さんが代わりにまとめて何本か売った中でこの2本が残ってて。で、これもちょっと運命的な話なんですけど、僕がそのギターを入手したのは神谷さんの月命日。僕が買った2か月前にお亡くなりになっていました。だからちょうどバトンタッチした感じです。
――そうでしたか。神谷さんの思いを感じますね。
僕だけじゃなくて、こういう話がギターにはあるんです。この2例を見ると、ギターって来るべく人のとこに来るんだっていう感じがしませんか? 全てのタイミングがパンパンパンと合うわけです。最初から出会うべきギターって決まってる。人間の縁と極めて似てるんですよ。縁がないギターは、どれだけ高い金出してもやっぱり去っていく。訳あって売っちゃったりとか。
――金成さんは?
金成さんについては細かいことはわからなかったです。江藤さんが紹介してくださったベスタクスという会社の会長の椎野さんという方は、生前の金成さんと仲が良くて1回、金成さんのギターをフルオーダーで作ったことがあっていい人だったよなんておっしゃってました。その他に知り得たエピソードは少ないんですが、モズライトを使っていました。金成さんにはお師匠さんがいて、1965年のある日、お師匠さんがベンチャーズ真っ最中だから、「モズライトをスタジオで使おうぜ、アメリカでお前の分も頼んどいたぞ」って2本注文した。日本で品切れだから。ところが、その2本が日本に来たのが3年後なんですよ。もういらねえって頃にやって来たんだけど、それを2人して使ってた。当時はファースト、セカンドってギタリストが2人で回ることが多かったんです、同録の時代です。レコーディングで使っていたのがモズライトだったんだというエピソードは、僕は古い文献から見つけました。
――さすがの調査力ですね。
で、ここから先、ロマンがある話を僕は妄想で展開します。こうだったらいいな、の話ですが、その師匠が神谷さんだったらめちゃくちゃ熱くないですか。
――ああ! 年代的には?
神谷さんの方がちょっと上。神谷さんは結構なモズライターで、他にもソリッドのモズライトとか結構持ってたんですって。で、弟分とプレイが似てる......。これだったら熱いよねと思ってね(笑)。
――そしたら見分けつかないのも納得できますね。
そうそう。使ってるギターは同じだし、師匠だからプレイが似てるの当たり前なんですよ。偶然僕がそういう師弟関係を知らずにこの2人が好きって言ったら、もう僕も神谷一門ですよね、完全に(笑)。ギターの話に戻すと、そういうことでギターというのは、常に意識を持って、あれが欲しいな、これが欲しいな、自分に合うギターとは何なのかっていうのを常日頃意識の中に置いておくと、向こうからやってくるんですよ。
【近日開催のイベント】
- 8月9日(日)18:30~ 「だんだん好きになっていきましょう 」(中延・隣町珈琲)
- 8月15日(土)12:00~、9月20日(日)12:00~ 「仮面ライダー555 ファイズリマインド」vol.30(お茶の水・ワテラスコモンホール)
※詳細は半田健人公式X(@handakento)をご確認ください。

