第九回 事件の表に女あり(中編)   対談ゲスト:高橋ユキさん(ジャーナリスト)

平山さん高橋さん写真修正済み.jpegのサムネイル画像

【対談ゲスト:高橋ユキさん(ジャーナリスト)】

 

縦型思考の男性と横型思考の女性

高橋(以下、高) 犯罪白書の令和6年最新版が「女性による犯罪」特集(注1)なんですけど、男女比で見るとそもそも女性刑法犯ってずーっと少ないんです。罪名別で見ると刑法犯で一番多いのは窃盗と覚醒剤なんですね。それに準ずるって感じかなあ。

平山(以下、平) 窃盗って、生活苦とは限らない?

 限らないです。窃盗する人がみんな生活苦なわけじゃないんですよ。

 じゃあ、クレプトマニア(注2)的な?

 クレプトマニアもいますけど、全員が全員そうじゃなくて。盗って売ったりする人とか、万引き。意図的にやる人もいるし。覚醒剤は恋人経由が多いかなあ。薬物は人間関係だから彼氏のところに戻ってまたやるみたいなパターン。

 そうか、人間関係を完全に変えない限りは難しいんですね。

 そうなんですよ。だから裁判でも「人間関係を断ち切って一からやり直します」って言わされたりしてます。

 決まり文句があるんだ。

 「なぜ薬物が悪いのか分かりますか」っていう質問も定番なんですけど、これは「暴力団の資金源になるから」とかテンプレの解答がある。弁護士に教えられてるんだなと思いながら(見てる)。

 テンプレになっちゃダメだよね、本当は。やっぱりダルク(注3)みたいに更生施設で隔離することは意味があるんですね。

 そうですね。恋人のところに戻ったりとかしがちなのも女性だと思います。

 売人も、出てきたらすぐ連絡するでしょうしね。

 そうなんですよね。あと通り魔みたいのもありますよね。

 女性は男性に比べて無差別殺人が少ないっていうのは聞きますけど、そうなのかしら?

 たまにあるけど、やっぱり体力的な問題もあるんだろうなと思って見ています。

 なるほど。心理的な理由はないのかな。女性って家族とか恋人とか職場の同僚とか、自分と関係のある人を殺すイメージがあるんですけど。例えば社会が悪いみたいな感じで憂さ晴らし的に通り魔をする、みたいなのは女性ではあんまり聞かない。

 自分の境遇を社会のせいとか親のせいとかにして、見せしめとして大量殺人を犯すとかは男性が目立ちますよね。

 ですよね。なんでなんだろうと思って。もしかして、男性はまず「社会的であらねばならない」っていう縛りがあって、そこから外れたら終わりみたいな意識がどこかにあって、復讐は自分を弾いた社会に対して向かうのかなと思ったりしたんですけど。女性の場合、社会システムの中で上昇していく人生モデルはそんなになくて、地域とかPTAとか横の繋がりの方が大きいのかなと思ったりはするんですけど。

 そうですよね。確かに不思議で、なぜかわからないんですけど、女性の方が収入を得る仕事以外にも、いろんな世界を持っている人が多いと感じますよね。それがあることで気分をコントロールできるようになるということがあるのかなって思うんですけど。男性って男同士で比べられるみたいのがあるから、何年かドロップアウトして引きこもりになったら男性社会の中で「弱者」になるからコンプレックスを拗らせるのかもしれないなあって思いますね。男性にとって「モテ」というのは、結構大事な要素だと思うんですよ。お金があるとモテるって思ってるんですよね、男性って。金があればモテるということは、稼いでいればモテるというふうに思ってるから、稼いでなかったらモテないってなる。

 イコールになる。

 そう。「秋葉原無差別殺傷事件」(注4)の加藤智大にもそういう思考が感じられましたね。男性の犯罪における、モテないことへの絶望度はすごいんだなあって思いますね。

 その場合の「モテ」って抽象的ですよね。実は。

 そうそう。そうなんですよ。別に女性経験が豊富なわけでも、女性とのコミュニケーションを今までやってきたわけでもないのに、何らかのインプットによって「モテ」の概念が出来上がっている。これに当てはまらないと俺は終わったと考える人が結構いるのかなって感じますね。女性の犯罪を見ていてもそこはないかなあ。うん、ないですね。

 社会と自分との関わり方がちょっと女性と傾向として違うのかなと思ったりもして。女性と男性というと主語が大きすぎるけど。

 そうですね。百年前の男女観を引きずってる感じがあるような気がしますよね。男性が一人前であるにはこうであらねばならぬっていうのを、男性同士で思っているところがあるのかな。

 そんな気がする。男性が自分たちだけで思ってる。

 そうそうそう。ナンパのやり方を指南する集団による女性の連続準強姦事件(注5)を取材したことがあるんですけど。ナンパ塾のメンバーでSNSのグループ作って、そこに何人にナンパできて、何人とセックスできたかという報告をし合うんですね。数で競う。

 えー理解できないな。

 だから、モテることを誰に見せたいかっていうと同性なんだなっていうのは、その事件ですごく感じましたね。数にこだわるのが男性の特徴かもしれないですね。謎にカウントするんですよ。

 集団レイプでも、男性が数人いることがポイントだったりするのかもしれないですね。そこで自分の強さを見せるみたいな。

 先陣切ってやるとか、そういう役割になるやつが絶対いるんですよね。そこで断れない空気があるとか。

 それはいかんなあ。

 男性というのは意外と集団の空気を読むなっていうのはいろんな事件を見てて感じますね。「私、帰る」とか難しそうな感じがするんですよ。帰るに帰れなくなってしまいましたみたいな感じで。帰れよと思うんですけどね。うちの夫ももうそろそろ年なんで酒も控えたらって言うんですけど、そんなとても言い出せないよみたいなことを言うから、何で? って。皆が何飲んでも自由じゃないって思うんで、ウーロン茶くださいって言えばいいじゃんって。でもそうはいかないみたいで理解できないんですけど、多分それが空気なんだろうなって思いますね。

犯罪も景気に左右される

 この連載で昭和100年をいろんなテーマで見てきたんですけど、景気ってすごく関係あるなって思ってて。

 そうですね。バブルの頃、ちょっと見てみましょうか。

 1992年の「オーストラリア花嫁失踪騒動」(注6)とか。

 なんですか、それ。面白そうですね。

 えっ、知らない? これすごく覚えてる。

 知らない。

 「騒動」なので、誰かが亡くなったわけではないんですけど、新婚旅行でオーストラリアに行ったら奥さんが旅先でいなくなっちゃった。それで夫が日本領事館に駆け込んで、地元警察が動いて、オーストラリアのテレビに夫が出たりして大騒ぎになったんだけど、実は奥さんは別のホテルにひとりでいた。しかもそのホテルをとったのが前の職場の上司という話があって、元カレでは、とまで言われた。

 大騒ぎしたのに。

 大騒ぎしたのに。結局普通に二人で帰ってきた。それで記者会見したんですけど。

 面白い時代ですよね。

 そうね、一般人ですもんね。よく考えたらおかしい。記者会見で夫は憮然としてるんだけど、奥さんが「すみませんでした」みたいな感じで旦那の方に寄り掛かろうとしたら、旦那が手で彼女の頭を押し返したのがすごく話題になって。で、当時、さんまさんが真似してました。

 そうなんですか。全然知らなかった。

 この騒動って時代を象徴しているなと思って。バブル時代の女性ってすごく強かったんですよね。「おやじギャル」(注7)という言葉も生まれたりして。

 ありました。

 OLがお金を持ってどんどん強くなって社会的強者であるおっさんを名乗るほどになった。それこそ上司と不倫するにしても一昔前みたいに2号だ0号なんて湿っぽい意識はなくて軽い気持ちで、割り切った雰囲気があった。逆に旦那さんの方はちょっと純情というか、奥さんに対する嫌悪感があったりして、この騒動における男女の立ち位置があの時代の象徴っぽい感じがして。奥さんはワンレンロングヘアで、ボディコン着てた。なんか忘れられない。

 なるほどね。景気いいと女相場師とかが出てくるじゃないですか? 「北浜女相場師事件」(注8)とか。

 91年か。

 テレビで録画してたのを見てなんじゃこの事件は、って思いました。

 ドラマか何かになったんですか?

 NHKのドキュメンタリー番組があって。バブル時代に証券会社の偉い人たちが相場師の女のところに日参して、女の人がカエルの置物にご信託を受けて、これからこれが上がるとか言ったら上がるっていう。「景気良かったから、なんでも上がるんですよ」って後で元証券会社の人が言ってた。そりゃそうだよね。

 バブルですねえ。

 実は女相場師は全然相場に詳しくなかったという。すごくないですか? 自分がそうだと思い込むことができるっていう。演技派女性っていうのが入り込んでバブルに踊らされるという現象があったよなあと思いました。

 すごいですね。まあ今もいるかもしれないですけどね、知らないところで。

 そうですよね。

 事件化してこれだからね、してないのを入れたらすごいでしょうね。

 そんなふうに景気がいいからこそ、悪魔払いだとか、オウムとかが勢力を伸ばしていったというのがありますよね。で、後のオウムの事件につながっていくところがあるのかなぁって。景気がいいからこそ、何かこれは嘘事なんじゃないかって不安になる人もいっぱいいたのかもしれないなぁって。そういう思想が育つ時代だったのかなぁって年表を見て思いました。

 確かに。どうなんだろう、景気いい時に流行る宗教と悪い時にみんなが縋る宗教とか違うのかな?

 どうなんでしょうね、でも割と同じですよね。ご神託とか......。この頃、多分2001年は「ノストラダムスの大予言」があったから終末思想も同時に発生しているはずで、オウムも「ノアの箱舟」的な思想だったじゃないですか。

 そうでした。

 私もその頃そういう気持ちになってたもんなあ。思い出しました。だからか変な事件が多いですよね。

 前回、堀越英美さんに、将来どういうふうになると思ってたか聞いたら「私は小学校の時ノストラダムスの予言を信じてたんで」って言ってた。

 私もですよ。2000年以降のプランなんかなかったですからね。どうしてくれるのって。

 実は世界の終わりは今年だっていう噂ありましたね、もう信じないけど。

 はいはい、ノストラダムスに騙された我々としてはね。

 もう騙されません。いつも後からゴールを動かすからね。

 前は2012年とか言ってたよね、結局いつなんだ。

 大体なんとか暦で見ると、いついつでした、みたいに後出しする。最初に全部の暦で見といてくれ、っていうね。

 急に言い出しますからね。マヤ暦とか。「毎日が記念日」方式なわけですよ。

男女の性愛の意識の違い

 2000年代ぐらいになってくると高橋さんが傍聴された事件もあるんじゃないでしょうか。

 2005年からですかね。発生してから何年か後に裁判になるから。埼玉の愛犬家連続殺人事件だとか。北九州の連続監禁殺害事件とか。

 印象的だった裁判はありますか?

 印象的だったのは、やっぱり「桶川ストーカー殺人事件」(注9)ですね。ストーカーは昔から絶対いたのに、呼び名もその時代まで定まってなかったことに衝撃を受けた。今まで男女間のもつれで片付けられて被害者の人権が軽んじられていた面もあると思うんですよ。実態をやっと警察や社会が認知したっていうところがあるのかなとは思いましたね。きっと被害者の女性も悪いだろうみたいな言われ方をしてたじゃないですか。

 警察の記者会見が問題になりましたよね。被害者女性もブランド好きだったと笑いながら会見した。

 そうそう。警察に言ったけど全然相手にしてくれなかった。

 何回も行ったのに。町内に中傷ビラとかも貼られてたのに。そこまで証拠があってもとりあってもらえなかった。

 あなたにもなんか原因あるんでしょって警察は思ってた。警察が思うということは、社会もそう思ってる部分がきっとあったんだと思うんです。

 そうですね。ジャーナリストの清水潔さんが警察がもみ消したことをスクープ(注10)して発覚した。

 そうですね。ちょっとずつ被害者の人権に対する感覚が変わり始める兆しの事件なのかな。

 本当に衝撃の事件でした。2008年の「神隠し殺人事件」(注11)ってどういう事件でしたっけ?

 江東区のマンショで起きた事件です。これ秋葉原通り魔事件と同じ年にあったんですね。

 ああ、気持ち悪い事件でしたね。加害者は被害者と同じマンションに住んでいた人ですよね。

 そうです。被害者は姉妹で住んでいたんですけど、本当は姉を狙ったんです。被害者は妹ですけど。

 二人とも加害者と交流はないんですよね?

 全くないです。帰ってくるところを部屋にひっぱり込んで性奴隷にしようと思ったけれど騒がれて殺したという、とんでもない事件です。

 しかも加害者は四肢のない女性の漫画を描いていたりした。

 そうそう。普段はSEとして派遣でちゃんと働いていたんですよ。でも逮捕前から相当疑われてましたよね。

 加害者が近所の人としてよくテレビに出てましたよね。逮捕前にマスコミがやたら犯人にインタビューすることがあるじゃないですか。ああいうのは警察からのリークがあるんでしょうか。

 絶対にマンションの住人だと思って、いろんな人に聞いていたんじゃないのかな。2009年の「首都圏連続不審死事件」(注12)が同じ時期にあったのもすごいなと思います。「新橋ストーカー殺人事件」(注13)も。

 別名「耳かき店員殺害事件」ですね。

 江東区マンションと秋葉原と新橋の事件って「モテない男性」がキーワードなんですよね。

 確かに。「首都圏連続不審死事件」の被害者も、婚活サイトで加害者とマッチングしていた。

 そうでしたね。年配の独身男性、裏を返せばモテない人に狙いを定めて畳みかけるように結婚をもちかけるわけです。そして「結婚のためには体の相性を確かめないといけないから速攻セックスしましょう」と言う。プロセスを踏まなくていいから男性にとって都合が良いことを彼女は分かっているところがあったのかな。

 男性と女性の性におけるプライオリティーが全然違う。男性はセックスにすごく価値を認めるけど、女性側はあまり認めてない。価値観が違うところを利用している。そう考えると、戦前と隔世の感がありますよね。

 いまだにある種の男性にとって結婚は家族とか世間に対して「一人前」を誇示するイベントの一つになってるんだなぁってこの事件ですごく感じました。

 確かに。セックスに対する価値観は変わっても、ある種の人たちの結婚観はあんまり変わってない。結婚を迫ることがネガティブじゃないんですもんね。親を喜ばせられるみたいな、ポジティブな意味がある。

 加害者の木嶋佳苗って親が安心するようなビジュアルじゃないですか。

 確かに。モデルみたいな美女だったら騙されてるんじゃないのという話になるけど、そうじゃない。リアリティがある。

 神様のいたずらじゃないけど、こういう人だったら保守的な親が安心しそうだなってうまくはまったのかなと思いましたね。

 本人も料理教室に行ってみたり家庭的な面をアピールしてましたしね。そう考えると、男女の意識の違いとか、結婚が持つ意味みたいなものがだいぶ変わってきているんですね。

 そうですね、でも結婚して親を喜ばせたいと思う時代が、ここら辺で終わったのかもしれないなんて最近は思ったりしますよね。この人たちって第2次ベビーブームの時のギリ結婚できるかもぐらいの世代の人たちだったじゃないですか。だからそれ以降は結婚ってお互い大好きなパートナーと一緒にいるためのものと考える人たちが増えてきたのかな。 (後編に続く)

 

注1 犯罪白書の令和6年最新版が「女性による犯罪」特集(令和6年版 犯罪白書

-女性犯罪者の実態と処遇-」 https://hakusyo1.moj.go.jp/jp/71/nfm/mokuji.html

注2 クレプトマニア 窃盗症。利益のためではなくスリルや満足感を求めて窃盗を行う症状、行動嗜癖で、精神障害の一種。近年では摂食障害との関連も指摘されている。

注3 ダルク 1985年に元薬物常用者の近藤恒夫が設立した薬物依存更生を目的としたNPO法人「日本ダルク」のこと。名前の由来はDRUG(薬物・アルコール)、ADDICTION(嗜癖・依存症)、REHABILITATION(治療・回復)、CENTER(施設・建物)の頭文字から。現在、全国に55か所ある。

注4 「秋葉原無差別殺傷事件」 2008(平成20)年6月8日に東京・秋葉原で発生した通り魔殺傷事件。加害者はレンタルした2tトラックで歩行者天国にいた歩行者らを次々と撥ね、降車後にナイフで通行人らを刺した。7人が死亡、10人が重軽傷を負い、秋葉原の歩行者天国が3年にわたり中止になった。加藤は派遣労働者で友人も少なく、モテないというコンプレックスがあり「負け組」を自称。自暴自棄となったことが犯行動機とされる。2015(平成27)年に死刑判決が確定し2022(令和4)年に執行。

注5 ナンパのやり方を指南する集団による女性の連続準強姦事件 2017(平成29)~18(平成30)年に起こった「リアルナンパアカデミー(RNA)」と称するナンパ塾のメンバー10人による連続集団レイプ事件。メンバー同士でナンパのノウハウを共有、女性を酩酊させて襲う、和姦の証拠のために動画撮影をするなど悪質極まりない手口と主宰者の不遜な態度が世間を驚かせた。

注6 「オーストラリア花嫁失踪騒動」 1992(平成4)年12月、新婚旅行でオーストラリアを訪れていた日本人女性が行方不明となり、失踪事件として報道されるも女性が自発的に姿を消したことが明らかになった騒動。写真週刊誌やスポーツ紙、テレビのワイドショーで報道が過熱した一方で、弁護士らが実名報道に疑問を呈し、人権侵害を訴えた。

注7 おやじギャル 漫画家の中尊寺ゆつ子が1989(平成元)年に雑誌『SPA!』に連載していた漫画『スイートスポット』に登場した、おっさん化したOLのこと。競馬やパチンコなどのギャンブルを楽しみ、煙草を吸い、退勤後に居酒屋で酒を飲むなど従来おっさんのすることと思われたレジャーを楽しむOLを指す。1990年の新語・流行語大賞新語部門・銅賞を受賞。

注8 「北浜女相場師事件」 料亭の女将である加害者がガマガエルの石像に聞くと称し、競馬や相場の上下を予言。それが当たると評判になり証券マンや実業家らが群がった。1980年代末には数千億円を運用するまでになったが、バブル崩壊とともに資金繰りが悪化、金融機関を巻き込む巨額詐欺事件となり1991(平成3)年に逮捕され実刑を受けた。後に「バブルの女帝」として小説や映画になった。

注9 「桶川ストーカー殺人事件」 1999(平成11)年10月26日、元交際相手の男が知人らとともに繰り返し嫌がらせをした挙句、桶川駅にて女性を殺傷した事件。事件の前から被害者は何度も上尾署や埼玉県警に相談していたが取り合ってもらえず、被害届も取り下げさせられた。事件発生後に被害者宅にマスコミが殺到、ブランド好き、性風俗店勤務など誤った情報により被害者に二次被害をもたらした。しかし清水潔、鳥越太郎らの一部マスコミの追及により議会で問題視され、犯行グループに対する刑事、民事裁判のほか、元上尾署員に対する刑事訴訟、埼玉県への国家賠償訴訟に発展した。事件をきっかけに2000年に「ストーカー規制法」が施行された。

注10 ジャーナリストの清水潔さんが警察がもみ消したことをスクープ 1999(平成11)年、被害者の友人への聞き込みからストーカー被害の事実を知り、独自調査を開始。ストーカーチームおよび実行犯を特定して警察に情報提供し、犯人逮捕に結びつけた。また、埼玉県警が被害者の告訴を取り下げさせようとしていたこともスクープ。国会でも取り上げられ、関わった警察官3名の懲戒免職となった。

注11 「神隠し殺人事件」 2008(平成20)年4月18日夜に会社員の女性の姉から捜索願いが出され、マンションの監視カメラの記録に被害者女性が外出した形跡がないことから「神隠し事件」として騒がれた。発生から約1か月後に、被害女性宅の二部屋隣に住む派遣社員の男が逮捕された。男は四肢切断(アポテムノフィリア)をテーマにしたイラストや同人誌を描いてコミケなどで販売していた。また、マスコミのインタビューに積極的に対応し、被害者を心配するふりをしていた。

注12 「首都圏連続不審死事件」 2007(平成19)年~2009(平成21)年にかけて、いわゆる婚活サイトなどを利用して被害男性らを誘い、6人(そのうち起訴対象は3人)を殺害した女性による事件。結婚を匂わせて性行為をし、虚偽の理由で金銭を要求、断られたり返済を迫られたりすると練炭などで殺害した。加害女性がブログなどでセレブを気取っていたこと、裁判でも自身の性的テクニックを誇っていたこと、拘置所にいながら自伝やブログを発表したことなどから話題になった。なお、本事件に関しては高橋ユキさんの著書『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店、2012年)がある。

注13 「新橋ストーカー殺人事件」 2009(平成21)年8月3日、耳かき専門店の女性従業員とその祖母が自宅で殺害され、耳かき専門店の客の男が逮捕された。男は女性従業員を指名するようになり、しつこく店外で会おうとしたため出入禁止となり、その後、Aにストーカー行為をするようになった。Aに何度も注意された事で、HAに逆恨みをした結果の犯行だった。

 

【対談ゲスト】高橋ユキ(たかはし・ゆき)

1974年生まれ、福岡県出身。2005年、女性4人で構成された裁判傍聴グループ「霞っ子クラブ」を結成。殺人等の刑事事件を中心に裁判傍聴記を雑誌、書籍等に発表。現在はフリーライターとして、裁判傍聴のほか、様々なメディアで活躍中。

著書に、「霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記」(新潮社)、「霞っ子クラブの裁判傍聴入門」(宝島社)、「あなたが猟奇殺人犯を裁く日」(扶桑社)(以上、霞っ子クラブ名義)、「木嶋佳苗 危険な愛の奥義」(徳間書店)、「つけびの村 噂が5人を殺したのか?」(晶文社)ほか。Web「東洋経済オンライン」「Wezzy」等にて連載中。