第10回 旧統一教会の「合同結婚式」に参加して「生マザームーン」を見てきました(後編)
キスカム、ブルーノ・マーズのBGMから始まった合同結婚式
韓鶴子総裁が去って「天地人真の父母様 天宙聖婚65周年記念式」が終了してほどなくすると、ステージ正面の巨大スクリーンに「HOLY BLESSIN」(聖なる祝福)という文字が映し出され、明るくアップテンポなBGMが流れ始めました。この曲はストレートに愛を伝える歌詞からウェディングソングの定番とされているワン・ダイレクションの「What Makes You Beautiful」です。
いよいよ第2部の「孝情天宙祝福式」、つまり合同結婚式が始まるようです。
この瞬間を待ち焦がれていた私の胸は期待に膨らみました。現役信者にとってこれから行われる合同結婚式というのは、彼らの信仰の中でも非常に重要な意味があるとされ、「一生の一度の晴れ舞台」という位置付けになっています。
しかし、一方で旧統一教会に詳しい専門家やジャーナリストたちによれば、信者はそのように洗脳をされているに過ぎず、教団側が合同結婚式を行う真の目的は「金集め」だというのです。
信者同士を結婚させた方が互いに励まし合うので脱会しにくくなる。しかも、そこで子どもが産まれたら2世信者として献金も増えていく――。そんな「宗教ビジネス」のために韓総裁を「神格化」して服従を誓わせる場こそが合同結婚式だ、と専門家やジャーナリストは批判しているのです。
彼らの主張を信じるのならば、これからおこなわれるのは結婚式の体裁をとった「洗脳儀式」に他なりません。先ほど見た普通のおばあさんにしか見えなかった韓総裁が本当に、世界90カ国から集まった5,000人の心を操って、恐怖で支配をしていくというのなら、この目でしっかりと見極めなければいけません。
そう決意をあらたにしていると、司会の女性がハイテンションで元気よく喋り出して、「3・・・2・・・1・・・」とカウントダウンを始めました。
さっそく何かヤバい儀式でも始まるのか、と会場を見渡していると、ステージの両脇にある巨大スクリーンに、ウェディングドレスに身を包んだ女性とタキシード姿の男性が映し出されました。
ハート型のワイプで囲まれた2人は当初、「えっ? あれ、私たちじゃん」という感じで照れてしていましたが、周囲の声援を受けて2人は手でハートマークをつくって微笑みました。会場がわっと盛り上がると、画面が切り替わって別の新郎新婦が映ります。彼らも最初は戸惑っていましたが、前の2人と同じようにはにかみながら手でハートをつくって会場から拍手されます。同じことが次々と繰り返されていきます。
これは一体どういう儀式なのだろう・・・。
目の前で行われていることがまったく理解できない私は、持参したAMラジオで「同時通訳」を聴いてみることにしました。会場の進行はすべて韓国語で行われているため、AMの周波数で英語、フランス語、日本語に翻訳したものを流していたのです。
同時通訳を聴くと、どうやらこれは儀式などではなく、北米や韓国のスポーツイベントの休憩時間などでよく見られる「キスカム」の一種だということがわかりました。日本人にはあまり馴染みのないものですが、観客席の中で会場の巨大スクリーンに映し出されたカップルが、他の観客からキスすることを求められる"余興"です。
この場ではキスまではしていませんでしたが、手でハートをつくったり、新郎新婦でハグをしてもらったりしています。観客席にいる友人や家族からも大きな声援が送られ、会場は大盛り上がりです。気がつけば会場のBGMはブルーノ・マーズの「Treasure」に変わっていました。
♩Treasure That is what you are Honey you're my golden star
(宝物 それは君のこと ハニー 君は僕にとって輝ける星なんだ)
そんな甘い歌詞が流れるなかで、巨大スクリーンにはさまざまな国からやってきた新郎新婦の仲睦まじい姿が映し出されていきます。アジア人同士のカップルもいれば、白人男性とラテン系の女性、アフリカ系の男性にアジア系の女性という組み合わせもありました。
それだけいろんな国の人がいれば盛り上がり方も多種多様です。観客席から見ていると、日本人や韓国人などアジア系の人たちはわりと大人しく、笑顔で手を叩いたりして盛り上がっているだけですが、白人やラテン系の人たちは自分の席から離れて、音楽に合わせてフロアで踊ったりしていました。

もしこの場に、旧統一教会に批判的な専門家やジャーナリストがいたら、「ああやって幸せそうに見えるのも、彼らが"自分は幸せなのだ"と言い聞かせるような洗脳を受けているからだ」と言いそうですが、たくさんの現役信者たちに話を聞いてきた私からすればちょっと見方が違います。
この会場にいる5,000人は心から合同結婚式に参加できることを喜んでいるのではないか。それは韓総裁の命令に逆らえないとか、教えに従わないと地獄に落ちるというネガティブなものではなく、「世界平和に貢献していくことができる」という充足感からです。
教団では合同結婚式のことを「祝福結婚」と呼んでおり、これを経て生まれた家庭を「祝福家庭」と呼んでいます。入り口でもらったパンフレットには、なぜ旧統一教会の信者たちがこのような形で「祝福」を受けなくてはいけないのかという理由について書かれていました。
「すべての人類が祝福を受けるべき理由は、真の家庭を築くためです。真の家庭を築くことによって、天の父母様の心情を相続することができます。天の父母様の心情は、単なる理論によってつながるものではありません。それは、ただ血統を通してのみ接ぎ木されるのです。ゆえに、祝福式により多くの人類が同参すればするほど、世の中は次第に天の父母様の環境圏もそれだけ広がっていくのです」
一般の人からすれば「なんのこっちゃ」と混乱する話かもしれません。信者に話を聞くと要するにこれは「神様のもとで人類がひとつの家族になる」という考え方のようです。
国や人種の異なる人々が結婚して家族になっていけば最終的には、人類みんなが家族ということになるので、国や人種間の対立も解消されて平和になっていく――。信者の間では日本人と韓国人の結婚は尊いことだと言われていますが、そのように過去に恩讐があった国民同士こそ、率先して家族になるべきという考えなのです。
「はいはい、そういう建前で金を集めているのね」と嘲笑する人も多いでしょうが、少なくとも信者の皆さんはそれを本気で実現しようとしています。

安倍晋三元首相が殺害された後、私は200人以上の現役信者に直接話を聞いてきました。そこで、旧統一教会が他の新興宗教と決定的に異なるポイントがあることに気づきました
それは「本気で世界を変えようと考えて活動している」ということです。
一般的に宗教というのは「死後」のためにあります。死んだ後に天国に行きたい、肉体が滅んだ後に魂が永遠に救われる、などに応える教義が一般的です。ですから、高額献金トラブルも「地獄に落ちる」「死んだ後に苦しむ」などという脅しが問題になることが多いのです。それに対して、旧統一教会がユニークなのは亡くなった後のこと以外にも「神の理想を実現した国を地上につくる」という教義もあるのです。
実はこの考え方を理解すると、旧統一教会信者たちの行動原理が見えてきます。例えば、韓国・清平には豪華な宮殿をはじめ、さまざまな施設がありますが、それは信者たちの献金によってつくられたものです。ですから、世間一般の感覚では、「こんなものをつくるため金を吸い上げられておかしいと思わないということは、やっぱり信者は洗脳されている」となります。
しかし、旧統一教会は、文鮮明氏が開拓したこの地に「天一国」という神の国をつくるということを本気で考えています。ですから、その建設資金に自分たちの献金が費やされるというのは信者の中では「筋の通った話」なのです。
そういう考え方がわかれば、合同結婚式に参加している人々があれほど幸せそうな理由も見えてきます。
彼らからすれば、同じ志をもったパートナーと結婚をして「平和な家庭」を築くことは、世界から争いをなくす平和のための第一歩なのです。そこに参加できるということは、信者にとって誇りでもありますし、このうえない喜びなのです。
「まったく理解ができない」という声が聞こえそうですが、そもそも宗教とはそういうものではないでしょうか。今も中東やインドには、日本人の感覚とはかなりかけ離れた宗教があります。欧米の価値観に照らし合わせると、女性の人権を侵害しているように思える宗教もあります。宗教がベースになっている封建的な身分制度によって、貧困から抜け出せない人もいます。
しかし、だからといって欧米の人々もそういう宗教を「洗脳カルト」などと呼んで解体を迫ることはありません。外部の人間からするとバカバカしいものであって、それを信じる人々にとっては、非常に重要なものが宗教だからです。
そんなことを考えているうちに、合同結婚式が開会しました。
宗教儀式っぽくない内容に拍子抜け
まずはステージ上の巨大スクリーンにさまざまな人からのビデオメッセージが流されます。各国の幹部からの祝辞があり、田中冨広会長も登場しました。次にすでに祝福を受けた"先輩夫婦"が参列している新郎新婦からお祝いのコメントが寄せられ、最後に韓総裁の言葉で締め括られました。
ビデオメッセージが終わると、ステージ上にたくさんの人があらわれ、先ほどの「天宙聖婚65周年記念式」と同じような形で、ステージ上に人が2列に並んで花道を作りました。そこで司会の紹介とともに正面の壁が開くと、やはり女性に横を支えられながら韓総裁がゆっくりとした歩みで入ってきました。今度は祝福式ということだからなのか、先ほどの緑色のワンピースの上に白いジャケットを羽織っています。
私はスマホのカメラをオンにして、何か異常なことが起きないのかじっと目を凝らし始めました。「マザームーン」もあらわれたことで、ここからさまざまな「儀式」が行われるはずです。専門家やジャーナリストの主張を信じるのならば、韓総裁への絶対服従を叩き込むような異常なやり取り、言動が確認されるはずです。
しかし、結果から先に言ってしまうと、そういう類のものはまったくありませんでした。キリスト教系の宗教のミサ、結婚式などではよく見る光景ばかりだったのです。
まず、行われたのは「聖水儀式」です。これは新郎新婦に清めた水を振りかけるというものですが、さすがに5,000人もいるので、代表者らしき十数組のカップルがステージに上がって韓総裁に聖水をふりかけてもらっていました。他のカップルは、フロアの方で係の人たちが同じように聖水をかけられていました。
その後は、理想家庭を築くことを誓う「聖婚問答」。そして新郎新婦が指輪交換を行う「礼物交換」、夫婦となったことを告げる「聖婚宣布」と続き、韓総裁が会場にいる5,000人に祝福を祈る「祝祷」(しゅくとう)となりました。同時通訳で聞いても、特に驚くような内容のことを言ってませんでした。
それから新郎新婦たちの代表が韓総裁に花束などをプレゼントして一緒に記念撮影、さらに学生に祝福をする「聖決式」などを経て「祝賀公演」が始まりました。祝いの場にふさわしいパフォーマンスを見せるようです。
韓総裁がステージ中央の椅子に腰掛けると、背後の壁にヨーロッパの宮中のような背景が映し出され、「美しき青きドナウ」が流れ始めます。十数組の新郎新婦たちが優雅に踊り始めました。どうやら「宮中舞踏会」をイメージしているようです。すると、ほどなくして、BGMがアップテンポな曲に変わりました。またしてもブルーノ・マーズ。結婚をテーマにしたそのものズバリ、「Marry You」という曲です。
♩Cuz it's a beautiful night, we're looking for something dumb to do.
(こんなに素敵な夜だから2人で羽目をはずそうよ)
Hey baby, I think I wanna marry you.
(君と結婚したいんだ)

そんな曲に合わせて新郎・新婦が軽快にダンスをします。さまざまな人種の人々が笑顔で踊っている姿を微笑ましく感じる一方で、私は完全に拍子抜けをした形でした。あれだけマスコミが「洗脳」「カルト儀式」と叩いていたわけですから、これまで見たことがないような奇妙な儀式を目撃するのではないかと心のどこかで期待をしていたのです。たまりかねた私は近くにいた知り合いの信者に、こんな質問を投げかけました。
「あの......もうちょっとこう、宗教儀式っぽいことってやらないんですか?」
私の「意図」を察知してくれたその信者は苦笑いをして言いました。
「そうですよね、やっぱり外部の人はもっと気持ち悪くて、カルトっぽい儀式を期待しますよね」
「いえいえ、なければないで別にいいんですけれど、なんかこう......あまりにも普通の結婚式という感じなので」
信者の人は「すいません、っていうのも変な話ですけれど、これが祝福式なんですよね」と少し申し訳なさそうな顔をして、こんな話をしてくれました。
「テレビとか週刊誌で、合同結婚式に参加した元信者の人が、すごく異常なカルト儀式だったみたいなことをふれまわっているので、なにかすごく異常なことをやっていると思われているんですが、実はそういう元信者の人たちが体験した合同結婚式というのは30年くらい前のものなんです。当時は確かに外の人から見れば、おかしく感じることもあったでしょうけど今はもうそういう時代じゃないですからね......」
その言葉に私は大きく頷きました。実はこれは私自身が身をもって味わっていることです。
合同結婚式を批判する専門家やジャーナリストは「好きでもない相手と強引に結婚される」「合同結婚式に参加するのに勧誘のノルマや高額な献金を要求される」「金目当てで日本人女性と結婚したい韓国人男性の元へ強引に嫁がせられる」というようなことを批判しています。確かにそういう「被害」を訴えている元信者がいることは事実です。私も『潜入 旧統一教会』」の取材をした際、現役信者の人たちから、文鮮明氏が決めた結婚相手を拒否する自由などなかったこと、さらに日本人女性と結婚したいがために、入信してきた貧しい韓国人男性がいたということは聞いています。
しかし、よくよく聞いてみるとそれらは20〜30年ほど前というかなり古い話なのです。
前にも述べましたが、今の合同結婚式はマッチングアプリや仲介人のような人が結婚相手の候補を紹介して、実際に会って話をして、互いの意思確認をしたうえで、合同結婚式にのぞむので「強引に結婚させられる」ということはありません。
また、参加費用に関しても一般の結婚式と比べてそれほど破格に高いものというわけでもありません。また、最近の合同結婚式に参加した2世信者によれば、地域の教会には先輩たちが着用したウェディングドレスのレンタルなどもあって、なるべくお金をかけず参加できるサポートもあるそうです。
さらに、取材をしてみると、貧しい韓国人男性が結婚相手欲しさに入信という問題も教団もしっかりチェックするようになって改善されています。そもそも、今や韓国の平均年収は日本を超えています。国民の豊かさを示す「1人あたりGDP」でも日本は韓国に追い抜かされています。「貧しい韓国人男性が豊かな日本人女性を騙す」という構図自体が「失われた30年」以前の古いストーリーなのです。
「このバカライター、すっかりカルトに洗脳されやがって」と呆れる方も多いことでしょうが、これはなにも私の個人的な感想なのではなく、東京地裁が教団に「解散」を命じた根拠である民事裁判を見ても明らかになっていることです。マスコミはほとんど報道をしませんが、実はその裁判で争われた献金がいつ始まったものかというと平均すると「32年前」なのです。
ちなみに、このような献金トラブルを受けて教団は2009年に「コンプライアンス宣言」をして、献金を受け取る際の確認などを徹底しました。では、このコンプライアン宣言以降、
この話をすると、マスコミ関係者も「え? そうなの?」と驚きます。テレビ、新聞、週刊誌に登場する、専門家やジャーナリストは、あたかも教団が令和の今も現在進行形で霊感商法をやって、高額献金トラブルを多数起こしているようなことを言って、「これ以上、被害者を増やさないように早く解散させろ」と訴えているからです。
しかし、それは実際に民事トラブルになっているという点で見ると「事実」ではありません。誤解を恐れずに言ってしまうと、「旧統一教会問題」というのは「大昔のトラブルを現在に至るまで蒸し返され続けている」というものなのです。もう過ぎた話なんだから大目に見ろなどと言いたいわけではありません。過去のことであったとしても、心の傷を負った、金銭的な被害を受けたという「元信者」がいるのならば、教団は真摯に向き合うべきです。
しかしながら、そういう過去のトラブルがあった時にはまだ生まれていなかったような2世信者や、2025年の合同結婚式に参加するような若い信者たちにはなんの罪もありません。過去の問題で、彼らまで「洗脳カルト」やら「反社会的」などとバッシングを受けなくてはいけないというのは、私の中では非常に違和感があります。
ノリノリで踊っていた新郎新婦がステージから降りると、入れ替わりで男女が入ってきて歌と踊りのパフォーマンスが始まりました。パンフレットを見ると、「パク・エリ、ポッピン・ヒョンジュン」と記されています。
パク・エリさんは韓国の伝統音楽である「国楽」の歌い手で国立唱劇団の団員も務めていたほどの有名人です。一方、ポッピン・ヒョンジュンさんはヒップホップダンサー。2010年にポッピン・ヒョンジュンさんがパク・エリさんに一目惚れをしてプロポーズした際には、韓国でも大きなニュースになりました。
それから15年を経た現在も夫婦の仲の良さはたびたび話題になって、韓国メディアを賑わせているので日本でいうところの「夫婦芸能人」という位置付けのようです。
(https://japanese.joins.com/JArticle/135438?sectcode=700&servcode=700
https://life.chosunonline.com/site/data/html_dir/2024/03/06/2024030680171.html
パク・エリ公式インスタグラム https://www.instagram.com/aerisori/)
パク・エリさんが「国楽」の独特のダイナミックな歌い回しをする隣で、ポッピン・ヒョンジュンさんがダンスをする、という伝統と現代芸術が融合したような"夫婦パフォーマンス"は非常に見応えがあり、会場もこの日一番の熱気に包まれました。

ただ、そんな中で私が気になっていたのは、韓総裁でした。ステージ中央の椅子に座って、2人のパフォーマンスを間近に見ていたのですが、会場はかなりの大音量だったのです。新郎新婦の門出を盛り上げるためとはいえ、歩くのに横で支える人が必要な82歳のおばあさんにとって、ややハードな時間だったのではないでしょうか。
その後、「マンセー」を3回繰り返す「億万歳三唱」があって、韓総裁が退場をして合同結婚式は終わりました。残念ながら最後まで、私が期待していた「洗脳儀式」を目にすることはできませんでした。
会場から出ていく際に、私と同じく今回はじめて合同結婚式を見学した大学教授や弁護士にも感想を聞いてみましたが、「思っていたよりも宗教っぽくない」と私と同じ感想が多かったです。中には「すごい洗脳カルトの秘儀が見られると思って楽しみにしていたのにガッカリしたよ」なんて冗談を言う人までいました。
しかし、そんな「合同結婚式の実像」を、私は今日まであまり世に伝えることはできていません。

30年前のイメージでの「批判ありき」を続ける日本マスコミ
日本に戻ってから、いろいろなメディアから合同結婚式について記事の執筆やコメントは求められました。安倍元首相殺害事件以降、日本のメディアでこの式典の内部を取材した者がいなかったからです。しかし、そういう依頼には必ずこのような「条件」が付けられました。
「合同結婚式のおかしかったところを教えてください。あと、教団批判もお願いします。うちが教団擁護をしているように思われたら困るので」
目で見たありのままを伝えるのではなく、「叩け」というのです。
そういう依頼に対して私は「すいません、せっかくのお話ですけど、ご期待に添えませんので」とお断りをしてきました。
もちろん、メディアには"批判精神"がなくてはいけません。私自身も、週刊誌などで政治や企業に対して「批判ありき」の記事を書いてきました。今もおかしな問題があれば、ネット記事などで苦言を呈しています。
ただ、今回の合同結婚式に関しては、ここに書いてきたように「普通の結婚式」という印象しかないのです。にもかかわらず、これを叩くとなると、重箱の隅をつつくような話をしたり、それこそ30年前の問題などを蒸し返したりして、「異常なカルト儀式」という方向で話を盛らないといけません。
......と考えているうちにハッと気づきました。マスコミやジャーナリストが解説する「合同結婚式」がいつまで経っても30年前に参加した人たちの証言に基づいているのは、これが理由なのではないのでしょうか。つまり、「メディアなので旧統一教会は批判的に扱わなくてはいけない」という自縄自縛に陥っていることで、30年前で時計の針が止まった不自然な報道になってしまっているのです。
もしそうだとしたら、マスコミやジャーナリスが解説する「洗脳」にも同じ問題があるかもしれません。
「メディアなので旧統一教会信者は批判的に扱わなくてはいけない」という自縄自縛で、恣意的に過去のトラブルや極端な事例がかき集められて「これは洗脳されているに違いない」という結論に強引にもっていっている恐れもあるのではないでしょうか。
これまで私は、教団内部や現役信者たちに実際に取材していないマスコミやジャーナリストが、「信者は全員マインドコントロールされている」とか「あいつらは洗脳カルトだ!」と自信満々に語っていることが、不思議でしょうがありませんでした。
しかし、「洗脳」というものが「批判ありき」が生み出した「レッテル貼り」かもしれないと考えると、非常に腹落ちします。
この連載は、私自身が「旧統一教会に洗脳されちゃっているかも?」という不安からスタートしています。しかし、ここにきてその疑いがあるのは私だけではない気もしてきました。
「悪い連中を叩くためには多少、話をねじ曲げてもいい」――。そんな考えに取り憑かれているメディアやジャーナリストの皆さんもある意味で「洗脳」されちゃっているんじゃないでしょうか?