12月26日(月) 21世紀のミステリー・ベスト10

  • 暗殺者の正義 (ハヤカワ文庫 NV)
  • 『暗殺者の正義 (ハヤカワ文庫 NV)』
    マーク・グリーニー,伏見 威蕃
    早川書房
    1,144円(税込)
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 わけあって、この15年間のミステリー・ベスト10を作ってみた。そのわけについては書かない。日本ミステリーと翻訳ミステリーの、それぞれのベスト10を作ったのだが、ここでは日本ミステリーのベスト10を掲げる。それはこうだ。

1『虐殺器官』伊藤計劃(ハヤカワ文庫)
2『裸者と裸者』打海文三(角川文庫)
3『Know』野崎まど(ハヤカワ文庫)
4『私を知らないで』白河三兎(集英社文庫)
5『新世界より』貴志祐介(講談社文庫)
6『第三の時効』横山秀夫(集英社文庫)
7『カラスの親指』道尾秀介(講談社文庫
8『東京結合人間』白井智之(角川書店)
9『ZOO』乙一(集英社文庫)
10『OPローズダスト』福井晴敏(文春文庫)

 最初に、1位『虐殺器官』、と浮かんできて、自分でも驚いた。これが1位なのかよ。私、こういうのは浮かんできたものをそのまま書くことにしている。1位『虐殺器官』と浮かんだ瞬間に、10位『OPローズダスト』と続けて出てきた。つまり、冒険小説的な作品(そのものずばりではないけれど)を1位と10位に置く、という構図が瞬間的に決まったのである。意識下にあったものが、ぽんと飛び出てきた感じである。
 
 実は『虐殺器官』を私は二度読んでいる。これは以前もどこかに書いたことだが、繰り返す。いまはなき紀伊國書店新宿南店を歩いていたら「10年間のSF1位」というポップを文庫コーナーで見たのだ。それが『虐殺器官』だった。10年間の1位とはすごいなとすぐに購入し、読み始めたらやめられず、一気読みしてから、待てよと思った。こんなに面白い小説を大森がテキストに選ばないってことがあるだろうか。そのときは季刊誌「SIGHT」で大森望と書評対談をやっていた。二人でテキストを持ち寄って対談するというもので、この書評対談は本になっているから調べてみようと『読むのが怖い! 帰ってきた書評漫才 激闘編』(2008年刊/ロッキング・オン)を開くと、2007年秋の対談で大森がテキストに選んでいた。つまり私はそのときに読んでいたわけだ。そこで私は次のように語っている。

北上 骨格は冒険小説ですよね。近未来軍事諜報SFって言うけど、新しいヴィジョンとか小道具が入り込んでいるだけで柱はテロリズムの背景にいる人物を諜報部員が追いかけるっていう話ですから。だから旧来の冒険小説の読者も、すいすい読めちゃう。面白かったです。

 大森望もその対談で「ふだんあんまりSFを読まないミステリ・ファンにもぜひお薦めしたい新人です」と語っているが、どうして読んだことを忘れていたのか、まったくわからない。普通なら途中で気がつくはずだが、読み終えてもわからなかったのは不思議。その意味では阿佐田哲也の小説に似ている。阿佐田哲也の短編はすべて4〜5回ずつは読んでいるので、もう途中で気がつくけれど、再読のときはまったく気がつかなかった。つまり二度読んでも面白いのである。そういう希有な作家が時にはいるということだ。

 2位の『裸者と裸者』は内戦状態になった近未来の日本を描くもので、『愚者と愚者』『覇者と覇者』と続いていき、著者の死によって未完となった大長編の第1部。壮大な話だが、適度にユーモラスで、キャラも最高。打海文三には私に理解できない作品も少なくないのだが、これは例外中の例外で、本当に素晴らしい。

 3位の『Know』も近未来の京都を舞台にした長編だから、1〜3位はすべて近未来小説になってしまった。この『Know』は本当のラストの数ページ前で終わりと勘違いしたためにぶっ飛んだ長編。それは私の読み違えだったのだが、実はそこで終わったほうがよかった、と今でも考えている。

 4位は、私が偏愛する作家白河三兎の、おそらくはいちばんまとまっている長編といっていい。この作家の美点のすべてがここにある。

 5位の『新世界より』は、これが浮かんだ瞬間に、続けて高野和明『ジェノサイド』も浮かんだのだが、最初に書名が浮かんだこちらにする。このように、順位を決めたあとに、これもあったあれもあったと次々に出てくるケースがあったが(たとえば、今野敏『隠蔽捜査』がそれだ)、最初に浮かんだ作品を優先。そうしなければキリがない。しかしこれも未来を舞台にした長編だから、いくらこの手の作品が好きとはいえ、このベストはやや偏りすぎた感がある。いや、反省しているわけではないけれど。

 6位の『第三の時効』と、7位の『カラスの親指』はいまさら紹介するまでもない。どちらも私の好きな作品である。

 8位の『東京結合人間』には少しだけ説明が必要かもしれないが、こんなバカバカしいことを考える作者が好きだ。9位の『ZOO』も忘れがたい。

 というのが私が選んだ日本ミステリーの21世紀のベスト10だが、翻訳ミステリーのベスト1だけ紹介すれば、それはもちろん、マーク・グリーニー『暗殺者の正義』(ハヤカワ文庫)だ。80年代に冒険小説を夢中になって読んできた年配の読者に、ぜひお薦めしておきたい。この正月休みの読書には、伊藤計劃『虐殺器官』と、グリーニー『暗殺者の正義』の2冊をどうぞ。