第4回:梅田から桜川へ

ある火曜日。夕方に梅田で、編集者でありライターのRさんと待ち合わせをしていた。JR大阪環状線で大阪へ向かう少し手前、桜ノ宮駅から天満駅へと向かう途中に電車が大川を横切る。その時、車窓から川沿いの桜がだいぶ咲いていて、ぼーっと霞むように見えた。

今日はあいにくの雨予報で、梅田に着くと小雨が降り出していた。できるだけ雨に濡れないルートで目的の店に向かう。もうすぐ開店するその店の前にRさんの姿があった。会うのはかなり久しぶりだった。

Rさんと私がそれぞれの好きな居酒屋を案内し合うというウェブ連載があって、連載といっても更新は不定期で、前回の取材から半年か一年か、それぐらいは経っている。Rさんは数年がかりの大きな仕事に取り組んでいるそうで、なかなか時間が取れないのだそうだ。久々に少し時間ができて、それで今日、取材に行くことになった。

居酒屋を紹介し合うという取材なので、お酒を飲むことはわかっていた。休肝日は2日後にずらすことにする。17時になってお店が開いて、お店の方がドアにかけられた「心を込めて仕込み中」の木札を裏返し、「営業中」の面にして店内へ戻っていった。

私たちはそれについていくように入店し、テーブル席に座る。まずは生ビールを二つ。この店は私が去年、健康診断を受けに来たビルのすぐ近くにある。それほど大がかりな健康診断ではなかった(体中をくまなく調べるようなコースは高価で手が出ない)が、それでも前夜から何も食べず、飲んでいいのも水だけという状態で、頑張った。

午前中に健康診断を受け、それがやっと終わって外に出たらすぐ近くにこの店があって、迷うこともなく入店し、ビールを飲んだ。そんな風に来た店だから、なおさら美味しく感じたのかもしれなかったと思ったが、今日、改めて食べてみたら、やっぱり美味しかった。

IMG_2119.JPG

その店は私が紹介して、次はRさんの好きな店へ行くターンになる。大阪駅からJR線で西九条駅へ、西九条駅で阪神電車に乗り換えて桜川駅へ。桜川駅で降りるのは初めてだと思った。駅前の風景に見覚えがない。大阪に引っ越してきて12年になるが、まだまだ知らない街がある。Rさんは桜川周辺に詳しく、「あそこにある銭湯、すごくいいんですよ。もう少し離れた場所にももう一つ銭湯があって、そこは遅くまでやっていて」とか、「この中華料理、大箱で入りやすいし雰囲気も最高なんです」とか、教えてくれる。今日は取材だから気ままに散策するわけにはいかないが、今度ゆっくり歩きたい。

目的のお店に到着。全面ガラス張りの、おしゃれな雰囲気のお店である。これまでに数回続けているこの取材だが、私がザ・大衆酒場という雰囲気の店を、Rさんが若い人が独自のスタイルでやっている新しい店を、それぞれ紹介するという役割分担がなんとなくできていて、今回もさっき行ったお店とのギャップがかなり大きくて面白い。こうして連れて来てもらわなければ、私はなかなかたどり着けなかったであろう。

ハートランドの瓶ビールを飲んで、その次に高知県産のレモンを使ったレモンサワーを飲んで、美味しい料理をいただく。取材は滞りなく済んで、あとは飲みながらの雑談タイムとなる。

IMG_2156.JPG

Rさんは関西圏で知らない人のいないタウン誌「Meets Regional」でもよく取材・執筆をしている人である(ひょっとしたら最近は忙しくてあまり担当していないかもしれないが)。関西圏のあちこちを軽快なフットワークで歩き回り、今、新しく起きていることに敏感でいるように見える。私は全然そのようにはできず、のろのろ歩き、取材のアポ取りの電話なんかも苦手過ぎて覚悟を決めるのに一日かかったりする。スタイルは違うのだが、こうしてたまに仕事で近況を報告し合えるのは楽しいことだ。

「Meets Regional」もそうだし、大阪に拠点を置く出版社やWEBメディアにいる人たちと、この12年の間に少しずつ知り合い、「あの雑誌は、あのサイトはこういう人たちが作っているのか」と、なんとなく顔は浮かぶようになった。私がそういうところから依頼を受ける頻度はあまり高くはないのだが、たまに声がかかると、自分が大阪に少しは馴染めているのかなと感じてうれしかったりする。

私は東京から大阪に来たが、それは"逆流"という感じで、越してきた当初はよく「ライターだったら東京の方が仕事あるのに!」と言われた。たしかに、それはそうなのだと思う。大阪のローカル局のバラエティ番組でよく見かけて好感を持っていたお笑い芸人も、勢いをつけてみんな東京へ出ていくし、プロ野球からメジャーリーグに挑戦するみたいに、力を試すには一番大きな場に出るというのが王道なのだろう。

それはそうかもしれないけど、あえてそこを離れるのも結構楽しいけどな......と思う。Rさんのような人が大阪にいることは、そこで雑誌やWEBメディアをやっている人にとって心強いことだろうと、そんなことを言ってみると、「でも、どこか遠くで暮らしてみたいと思ってるんですけどね」と、そんな答えが返ってきた。「まあな......自分もいつまで大阪にいるかわからない」と思い、本当はずっとそんな風に思いながら、もう12年もここにいるのが我ながら不思議にもなった。