第10回:梅田でポップコーン

ある火曜日。明日から数日間、東京に滞在する予定になっている。そうなるときっと連日どこかで酒を飲むだろう。今日は休肝日にしてそれに備えようと、素直に思えた。

何の制約もなければ昼から酒を飲んでいる私だが、一つだけ自発的に飲酒を控える状況があって、それが映画を見る時である。映画館で映画を見る前に酒を飲むと私は確実に眠ってしまう。というか、あの暗い空間では、酒を飲んでいなくても眠ってしまうことが多いのだ。せっかく映画館に行くのに、ずっと寝て終わってしまうのではもったいない。そう思うから、たとえば19時から映画を見る予定になっていたとしたら、どんなに天気のいい日であろうと、立ち寄った飲食店のランチビールが安かろうと、我慢するのである。

「っていうことは、休肝日って映画を見るのに最適なんじゃないか」と思った。本音を言うと、映画を見終え、映画館を出てすぐ飲む酒が大好きなのだが、その誘惑はなんとか振り切ろう。私は映画館で食べるポップコーンがまた大好きで、あの食感を想像したら気持ちが上向いてきた。バケツのような容器に入ったポップコーンを、わしづかみにして食べたい。

梅田まで出て映画を見て、ついでに明日の新幹線のチケットも買おう。梅田には金券ショップがたくさん集まっている一角があって、よく利用している。新幹線のチケットだけでなく、映画の鑑賞券とか、美術館の入館チケットとか、そこで買うと普通に行くより100円とか200円、安かったりする。

で、あとは何の映画を見るかという話だ。今回、映画を見ることそのものが目的なので、もう、どんな映画でもいい。ちょうどいい時間に上映されるものでありさえすればいい。梅田の大きな映画館というと「大阪ステーションシティシネマ」か「TOHOシネマズ梅田」である。もう一つ、「テアトル梅田」という映画館もあって、自分が見たい映画はそのテアトル梅田で上映されていることが多いのだが、残念ながら、そこではバケツのような大きなポップコーンは販売されていない。もうすでにポップコーンが食べたくて映画館に行くような気分になっていた私は、大阪ステーションシティシネマとTOHOシネマズ梅田の2館に絞って上映スケジュールを見ていく。

結果、TOHOの方で『ザ・スーパーマリオギャラクシー・ムービー』を見るか、ステーションシティシネマの方で『プラダを着た悪魔2』の2択に絞られ、ステーションシティシネマの会員証を持っていて少し料金安くなるからという理由で『プラダを着た悪魔2』を見ることにした。1の方は見たことがなく、映画の内容もよくわかっていないのだが、それでもいい。オンライン予約を済ませた。

梅田に到着し、上映開始時間まで間があったので先に新幹線のチケットを探しに行くことにした。よく覗きにいく金券ショップの店頭を見ると、新大阪-東京間のきっぷが最近なかなか見かけないレベルの安さで売られている。定価13,870円のところがなんと11,980円。2,000円近くも安い。5月の連休が終わったばかりだからだろうか。これはお得。

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それを購入し、いよいよステーションシティシネマへ向かう。端末でチケットを発券し、塩味のポップコーンを買う。タッチパネルを操作するとポップコーンにはSとMとLの3サイズがあって、一番大きいLは650円する。「うっ、高い。こんなに高かったっけ」と思い、Mを選びかけたが「いや、さっきめちゃくちゃ安い新幹線のチケット買えたからいいだろ」とLを選ぶ。しばらくして私の食券の番号が呼ばれ、バケツのようなポップコーンを手にした。

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平日の夕方だからか、席はそれほど混みあっておらず、快適だった。映画館で映画を見るのは結構久々だったが、この、2時間か3時間ぐらいここにいるしかないという時間はやっぱり最高だなと思う。時間も過ぎ去ってくれるし、これからは休肝日には映画を見ることにしよう。予告編の間から猛然とポップコーンを食べる。うまい。

『プラダを着た悪魔2』は主演のアン・ハサウェイが着ている服がとにかく可愛くて最高だった。寝巻きまで可愛い。ジャーナリストの仕事を突然クビになったアン・ハサウェイが『ランウェイ』というファッション誌の編集部で働くことになる。『ランウェイ』は歴史も権威もある雑誌だが、雑誌業界全体が縮小傾向にあり、特に紙媒体がネットの情報や電子書籍に取って代わられつつあるのはアメリカも変わらないようで、そんな要素が映画の中に散りばめられている。売り上げの減っている雑誌をアン・ハサウェイが頑張って盛り上げていこうと奮闘するストーリー。

編集長のメリル・ストリープは厳格な人で、歯に衣着せぬ物言いで(でもそれがコンプライアンス的に時代にそぐわないということが示唆されるシーンもある)、アン・ハサウェイもめちゃくちゃ厳しくされるのだが、徐々に信頼を得て......みたいな。それを見ていて、私は今は一人でフリーランスとして仕事をしているけど、会社にいた時のことを思い出した。映画の中で、メリル・ストリープは最後までアン・ハサウェイと仕事仲間としてのクールな距離感を保ち続けるのだが、友人でもないしもちろん敵でもない、一緒の職場にいる人同士という関係性があったよな、と思った。ベタベタしていないけど共同体の一員ではあるというような、あれはあれでいいものだった。

華やかなファッションショーのシーンもたくさんあって、それを見ているだけで楽しい。ポップコーンを食べつつ、自分とあまりに遠い世界に見惚れる。レディ・ガガも出てきて、ラッパーのドーチーと共に歌う主題歌、その名も『ランウェイ』が大音量で流れる。ブルーノ・マーズが手掛けたその曲が90年代のハウスの雰囲気を感じさせるもので、そのちょっと派手でチャラい感じにグッとくるものがあった。

消費そのものみたいな、過剰な側面もある世界でも、とにかく自分のスタイルを誇ってランウェイに出ていくしかない!と、映画を見終えると、なんとなく鼓舞された気がした。人生はランウェイ......か。

ステーションシティシネマは駅ビルの上階にあって屋上スペースとつながっており、そこに出ると眺めがいい。併設されたコンビニでノンアルコールビールを飲みながら夕暮れの空を見る。

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